リアル、バーチャルからスポーツカーは開発された

  • 3月16日にフランス・パリで行われたFIA GT チャンピオンシップにて、GRスープラ開発責任者である多田哲哉(トヨタ自動車株式会社GAZOO Racing Company GR統括部 主査)とグランツーリスモシリーズのプロデューサーである山内一典氏(株式会社ポリフォニー・デジタル代表取締役プレジデント)のトークショーが行われた。
    二人の関係はTOYOTA 86開発時にまで遡ることができ、もちろんGRスープラ開発時でも。二人の関係を通して、リアル、バーチャルからスポーツカーは開発されたとも言える。
    そんな二人の対話の中から、GRスープラ開発責任者の多田哲哉が語ったGRスープラにこめられた技術。そして、同車両のワンメイクレースとしてPS4®用ソフトウェア『グランツーリスモSPORT』で行われるGR Supra GT Cupにかける想いをお伝えします。

1.55 : 1

  • 山内氏 / 1.55:1の意味がわかる人いますか?
  • 多田 / 1.55:1はGRスープラの性能を決める一番大事な数字です。
    この数字はクルマのホイールベース(クルマを横から見た時の前後タイヤの距離)とトレッド(クルマを正面から見た時の左右タイヤの距離)の比率で、スポーツカーにはホイールベースとトレッドのゴールデンレシオ(比率)があります。
    とってもハンドリングが良い、走って楽しいと世界中で言われているスポーツカーはだいたい1.6ぐらいの数値になっていますが、GRスープラはさらにそれをホイールベースが短い側、1.6をきる1.55で発売する予定です。
    グランツーリスモのプラクティスにレーシングカートが出場すると思うのですが、これはレーシングカートに近い数字ですね。86よりもさらに短いホイールベースを採用しています。
    みなさんご存じの通り、ホイールベースを短くするとものすごくクイックに曲がるのですが、今度は直進の安定性が心配になると思います。
    その辺の話を続けていきたいと思います。

50 : 50

  • 多田 / 50:50のウエイトディストリビューション(前後重量配分)のクルマは世の中にたくさんあります。今日集まった(グランツーリスモの)トップドライバーのみなさんはまさに前後の重量配分をアクセルとブレーキでコントロールしながらスーパーラップを刻むのですよね。
    だからこのGRスープラは正確な50:50という重量配分にすごくこだわっています。クルマの構造上、ホイールベースをすごく短くし、50:50の前後重量配分を実現するのはそう簡単なことではありません。
    もちろん、最初の基本設計の段階で50:50になるように設計をしているのですが、開発をしていく途中で実はどんどんフロントに重量が偏っていきました。もちろん、スポーツカーは軽さが命じゃないですか。
    一生懸命軽量化をやっていくと、クルマはどうしても後ろの方ばかり軽くなります。
    実はフロントには軽量化する余地が少ないんですよね。だからいろいろな開発が進み、生産の準備も進んだ後、発売の1年ぐらい前に設計の大変更を行い、エンジンを初期の設計値から52mmぐらい下げました。
  • 山内氏 / グランツーリスモのプレイヤーの方、急激に操縦が悪化するのはご存知だと思います。その1%が実は大事なんですよね。

アジリティ(俊敏性)とスタビリティ(安定性)

  • 山内氏 / アジリティとスタビリティ、なぜ真逆の言葉が並んでいるのか?
  • 多田 / GRスープラはホイールベースが短く、基本的にものすごくクイックに曲がります。アジリティはすごいです。
    でも、そういうホイールベースのクルマを作ると今度は高速のストレートラインのスタビリティが足らなくなる。だから、1.6をきるクルマが世の中にないのです。
  • 山内氏 / 限界を超えるために採用されたのがこれ(ディファレンシャルギア)なんですよね。
  • 多田 / まさにディファレンシャルギアに秘密ありです。
    スポーツカーのディファレンシャルにはいわゆるリミテッドスリップデフ(LSD)がついているのはみなさんご存じですよね。
    このLSDのいわゆるロック率を0~100%まで自由に変えられる機構をGRスープラは持っています。
  • 山内氏 / つまり、曲がりたい時にはデフをフリーにする。まっすぐ走りたい時、あるいはトラクションをかけたい時にはデフをロックする。
  • 多田 / 基本的にはそうです。それに加えて、みなさんランサーエボリューションで体験したと思うのですが、いわゆるAYC、ディファレンシャルでヨーモーメントを生み出す機能も実は持っています。
  • 山内氏 / つまり、ヨーコントロールもこのディファレンシャルでできるということですね。

ボディ剛性

  • 山内氏 / 次にボディ剛性の話をしようと思います。このクルマはすごくボディ剛性が高い。具体的にどれぐらい高いかというとカーボンでできたボディのレクサスLFAより高い。その理由は何なのか?
  • 多田 / GRスープラはカーボンを一切使っていません。
    鉄とアルミだけです。
    カーボンを使うと当然クルマの値段が高くなり、たくさんの方に乗っていただけないということが一番の理由です。それにも関わらず剛性が非常に高いのは、実はとってもシンプルな理由なのです。
    このクルマはオープンボディのZ4とプラットフォームを共通して新しく設計しました。クルマの下側、この絵で見るとボディのフラットな底の面で、剛性をすべて受け持ち、走れるようにしたのですが、それにプラスして、GRスープラにはその上に屋根がついています。
    その分、剛性がとてつもなく高くなりましたということなのです。
  • 山内氏 / 幅広いサイドシルも特徴ですよね。あとでみなさん、ドアを開けて確認してもらえればいいんですけど、ちょっと常識外れなサイドシルがついています。
  • 多田 / サイドシルというのはシートから降りる時のボディ幅のことを言っているのですが、乗り降りはとってもしにくいです。
  • 山内氏 / でも、ボディ剛性の高さって、サーキットを走らせなくても、ちょっとした交差点を曲がって、ステアリングをきっただけでもその違いがわかりますから重要ですよね。
  • 多田 / その通りなんですよ。
    あのGRスープラの特性を理解するために、スピードを出す必要はなくて、本当にみなさんがコーヒーを一杯買いに行くような、そんなスピードで走ってもらえれば、ボディ剛性の高さを十分に感じてもらえると思います。

チューニング・レディ

  • 山内氏 / 最後に一番重要なポイント。みなさんにとってもすごく興味深いポイントについてお話ししてください。
    チューニング・レディという言葉です。
  • 多田 / 86というクルマでもチューニングパーツが作りやすいとか、そういうことはずっと言ってきました。
    86の時はどちらかというと、いわゆるコスメティックなエアロパーツとか外装のモディファイが中心で、そういうパーツが作りやすいクルマづくりをしてきました。
    その後、みなさんがモータースポーツで86をどんどん使うようになると、やれエンジンが壊れた、デフが壊れたと、たくさんのコンプレイン(不満)をいただきました。
    ですから今度はいわゆる機能パーツ、ファンクショナルな性能があとからチューニングしやすいように工夫がしてあります。エンジンのパワーがどれぐらい上がるかとか、それはすべてエンジン、トランスミッション、デフのクーリングがどれだけうまくいくか、これにかかっています。
    GRスープラにはミッションにもデフにもデフクーラー、ミッションクーラーが簡単に付けられるようにオイルの穴、ドレインをきってあり、クーラーをつけるスペースもちゃんと確保して設計しています。
    レーシングカーやチューナーの方が見たらびっくりすると思います。
  • 山内氏 / 最近、買ったままで何もいじらないでほしいというクルマが増えていますから、チューニングすることを前提にクルマをデザインしてくださるというのは、ぼくらにはおもしろいお話ですよね。

GR Supra GT Cup への思い

  • 山内氏 / 最後にスープラの話題を離れてこの話題に移りたいと思います。
    スープラGTカップがいよいよ今年からスタートします。
    このGR Supra GT Cupには多田さんにとっても特別な思いがあるんですよね。
    ひとつにはGR Supra GT Cupがグローバルなコンペティションであること。
    つまりどのリージョンでもオンラインを通じて参加できる。誰でも参加できて、年間13のオンラインレースがあります。グランドフィナーレは東京モーターショーのワールドツアーと併催で行われます。
    みなさんも参加できますので荒らしまわってください。
    そして、この GR Supra GT Cup、世界で一番速いスープラドライバーを探すという目的もあるのですが、もうひとつあるんですよね、目的が。
  • 多田 / リアルなGRスープラにも乗ってほしいし、このGR Supra GT Cupで使われるGRスープラは、リアルなGRスープラと乗り味もエンジンサウンドもとっても近いフィーリングで乗れるんですよね。
    だからもうできるだけたくさんの人、グランツーリスモファンの方、世界中のファンに乗ってもらいたいというのが第一ですが、一番速いスープラ乗りを探しながら、もうひとつ大事なお願いというかメッセージがあります。
    GRスープラはスポーツカーですから、毎年エンジンもシャシーもアップデートしていくつもりです。
    もちろん、それにあわせてGR Supra GT CupのGRスープラも山内さんにアップデートしてもらうつもりです。スープラGTカップのドライバーさんが走った時の不満とか良いところとか、乗り味についてのコメントをぜひ我々に届けてほしいのです。
    その良さのコメントをもとにリアルなGRスープラのアップデートを行っていきたい、そのように思っています。
    まさにGR Supra GT Cupのドライバーのみなさんはチームスープラの一員として、GRスープラの開発にも参加していただきたい、そんな思いです。
    ぜひ挑戦をお待ちしています。
  • ■山内一典氏
    株式会社ポリフォニー・デジタル代表取締役 プレジデント
    全世界での累計実売本数が8040万本以上(2018年5月5日現在)リアルドライビングシミュレーター「グランツーリスモ」シリーズのプロデューサー。
  • ■多田哲哉
    トヨタ自動車株式会社GAZOO Racing Company GR統括部 主査
    TOYOTA 86、GRシリーズ、GRMNシリーズなど多くのスポーツカーを手がけ、GRスープラの開発責任者。
  • TOYOTA GAZOO RacingはeモータースポーツをTGRのモータースポーツ活動の柱の一つとすることで、モータースポーツやスポーツカーが、より身近に、世代を超えて世界中で楽しんでいただけるものになるよう、積極的に盛り上げて参ります。また将来的には、eモータースポーツを通じて得られる様々な知見を、我々の「もっといいクルマづくり」に繋げていきたいと考えております。
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