ヤリスカップカー
試乗インプレッション
2000年のスタートから21年間にわたって開催されてきたJAF公認ナンバー付き車両によるワンメイクレースの「Netz Cup Vitz Race」。シリーズ開始当初から多くのエントラントに支持されてきたVitz Raceは各地区でシリーズ戦が実施され、21年の間に累計で408大会が開催されてきた。低コストで本格的なレースが楽しめることによって人気を博してきたグラスルーツレースが、2021年から「Yaris Cup」にリニューアルされる。
競技車両のベースとなるのは2020年2月から国内で販売がスタートした「トヨタ・ヤリス」。トヨタが各セグメントの車種で導入を進めているTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャ)の小型車専用に開発されたGA-Bプラットフォームを初採用している。競技車両となる「Yaris Cup Car(ヤリスカップカー)」もこのプラットフォームから成り立っていて、エンジンやトランスミッションといったパワートレインも刷新されている。ヴィッツからヤリスへ車名が変わっただけでなく、シャシーやパワートレインなど全面的に新たなメカニズムを採用しているのが、この新型車両なのだ。
ヤリスカップカーの諸元によると、エンジンはM15A-FKS型の直列3気筒1.5ℓ。最大出力は88kW(120ps)/6600rpmで、最大トルクは145Nm(14.8kgf・m)/4800-5200rpmとなっている。ヴィッツのカップカーは直列4気筒だったので、気筒数も異なっている。スペックを比べると、ヤリスが最大出力で8kW(11ps)、最大トルクで7Nm(0.7kgf・m)ヴィッツを上回っている。※MT車の場合。
ボディサイズは、全長3940mm×全幅1695mm×全高1470mmとなっていて、ヴィッツより35mm全長が短く、全高が10mm低い。だが、ホイールベースは2550mmでヴィッツより40mm長くなっている。車重は6速MTが1030kgで、CVTが1040kgとなり、ヴィッツに対して30kg軽くなる。
新旧のカップカーを比べると、ヤリスは軽量でパワフル、そしてコンパクトになっているのが分かる。
ヤリスカップカーのメカニズム的な特徴でいえば6速MTモデルもLSDが非装着になり、CVTモデルはサーキット走行時のみ専用トランスミッションコントロールコンピュータを装着することになる。
すでにレース開催に向けて準備を進めているエントラントも多いようで、ヤリスカップカーは3月に時点で200台近いオーダーを受けているという。
ヤリスカップカー主要諸元 | 6MT | CVT | |
---|---|---|---|
車両型式、重量 | ベース車両型式 | 5BA-MXPA10-AHFNB | 5BA-MXPA10-AHXNB |
車両重量(kg) | 1030 | 1040 | |
車両総重量(kg) | 1305 | 1315 | |
寸法 | 全長/全幅/全高(mm) | 3940/1695/1470 | |
ホイールベース(mm) | 2550 | ||
トレッド フロント/リア(mm) | 1490/1485 | ||
最低地上高(mm) | 120 | ||
エンジン | 型式 | M15A-FKS | |
総排気量(ℓ) | 1.490 | ||
種類 | 直列3気筒 | ||
仕様燃料 | 無鉛レギュラーガソリン | ||
内径×行程(mm) | 80.5×97.6 | ||
最高出力(kW(ps)/rpm) | 88(120)/6600 | ||
最大トルク(N・m(kgf・m)/rpm) | 145(14.8)/4800-5200 | ||
燃料供給装置 | 電子制御式燃料噴射装置(EFI) | ||
燃料タンク量(ℓ) | 40 |
理想的なドラポジと挙動で
入門レースには最適の素性
今回のサーキットインプレッションを担当する「Yaris Cup」レースディレクター・佐藤久実さん。富士スピードウェイで6MTとCVT車の2台のヤリスカップカーに試乗してもらった。
それではレース参戦に向けて気になるサーキットでの性能や特徴などを「Yaris Cup」のレースディレクターを務める佐藤久実さんに解説してもらおう。
試乗場所は東西シリーズの開幕戦が実施される富士スピードウェイで、最初に6速MTモデル、続いてCVTモデルに乗ってもらった。
「まず、ヤリスカップカーは座った瞬間から違いが分かります。ヴィッツは通常の椅子に座ったようなややアップライトな姿勢で乗るようになっていましたが、ヤリスの場合はサーキットを走るために理想的なドライビングポジションとなっています。やや後方に倒れた姿勢で足はペダルまで直線的に伸ばすことができ、同様に腕もステアリングまでほぼ水平となっています」。というように運動性能ではなく、まずドライビングポジションでも最適な状況が生み出されているのだ。
ハンドリングについては、「ボディ剛性がかなり高くなっていて、そのお陰でサスペンションがしっかりとストロークします。ヴィッツよりも丁寧に荷重移動を行なってコーナリングしていかないと好タイムに繋がらない印象です。FFのマシンなのでアンダーステア傾向ではありますが、積極的に荷重移動を使っていけばドライバーの操作に応えてくれます。また、LSDが非装着となったため、コーナリングでは基本に忠実に荷重コントロールしてステアリングを操作しないとフロントタイヤが空転してしまいます。レースを重ねていけばヤリスカップカーなりのセッティングやドライビングスタイルが確立されると思いますが、ヴィッツよりも丁寧な操作が求められることは確かで、これからサーキット走行を始めたいという初心者がマシンコントロールを覚えるのに打って付けのレースカーではないでしょうか」。
刷新されたプラットフォームはボディのねじれなどを抑制していて、その影響によりサスペンションがスムーズに動いているようだ。ヤリスは基本に忠実なドライビングを行なうことでタイムが伸びるマシンとなっている。
こちらも刷新されたエンジンとトランスミッションだが、「ヤリスの方がパワー感があるように思えます。ただ、比較試乗したわけではないので応えづらいですね。それでも、ストレートではコントロールラインを過ぎてリミッターに当たりました。最終コーナーの脱出速度やストレートの伸びがあるということです。MTは6速化されてギア比が変わっているのですが、セクター3の登り区間は5MTと同様の悩みを持ちそうです。ダンロップコーナーの先から3速固定か、2速と3速を混ぜて使いながら登っていくのか、タイムを比較しないとどちらが適切かわからないですね」。
というように、パワー差を感じるほどではないというが、リミッターに到達する場所が手前になっていることを考えるとストレートの伸びがあるのだろう。
ヴィッツレースでも2018年からCVTでの参戦が可能となり、毎戦数台のCVTモデルがエントリーしてきた。サーキット走行をするとCVTの制御面でストレスを感じることがあったが、Yaris Cupではサーキット走行時のみだが専用のトランスミッションコントロールコンピュータを用意しているのだ。実際にこのコンピュータを装着したカップカーに乗ってもらったところ、「ヴィッツの場合は、縁石に乗るなどのシチュエーションでタイヤが空転してしまうとアクセル開度を制御するプログラムが入っていました。この制御をコントロールしているのが専用コンピュータで、ストレスなく走ることができました。コーナリング中にタイヤが空転しているというサインはメーターに点灯していますが、それでもアクセル開度が絞られることはありません。加速したいときにアクセルを開ければ、しっかりと応答してくれるのでタイム的な向上も望めるはずです」。
参考だがタイムを計測したところ、ヴィッツのCVTモデルよりも数秒単位で向上していて、6速MTとの差も確実に詰まっていた。
6月から新たにスタートするYaris Cupは東日本と西日本の2シリーズが実施され、各シリーズともに5戦が予定されている。開幕戦は東日本、西日本シリーズ合同で6月5日(土)、富士スピードウェイで開催される。
21年の歴史を受け継ぐワンメイクレースは新たなレーシングマシンによって、より魅力的で、人気のあるシリーズになっていくはずだ。