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SUPER GT 2014年 第4戦 SUGO
エンジニアレポート

ZENT CERUMO RC F 1号車

スタート直後の雨は通り雨と判断しました
タイヤによるタイム差、1人の最低周回数からステイを決断
ZENT CERUMO RC F 1号車 担当エンジニア 村田卓児

第4戦SUGOは予選が霧のために決勝日の午前に順延。その日の午後2時には決勝レースという慌ただしい状況で行われました。しかも、レース中も雨が降ったり止んだりと非常に難しいコンディションでした。そんな悪条件でも、3位以下を周回遅れにする快走を見せたのが、2013年チャンピオンNo.1 ZENT CERUMO RC Fでした。LEXUS RC Fに今季2勝目をもたらしたLEXUS TEAM ZENT CERUMOの村田卓児エンジニアに、この戦いを振り返っていただきます。

スタート直後、多くのチームが動いたのでビックリした

スタート直後、雨脚は強さを増すものの、1号車はピットインせず 他にピットインしなかったLEXUS RC Fの車両とともに1-2-3体制となった
スタート直後、雨脚は強さを増すものの、1号車はピットインせず
他にピットインしなかったLEXUS RC Fの車両とともに
1-2-3体制となった
 フォーメーションラップ(※1)を周回しているときに雨が降り始めましたが、大粒の雨ではなく霧雨でした。それに早朝には濡れていた路面も一回は完全なドライに変わっていたから、大粒の雨がザッとこない限り路面が濡れてウェットタイヤが必要な状況になるとは思いませんでした。
 雨雲の動きも確認していましたが、どうやら通り雨らしい、と。だからまったく動く(タイヤ交換する)つもりはありませんでした。ウチだけじゃなく周りのチームもみんなそうだと思っていたから、多くのチームが一斉にピットインした時にはびっくりしました(苦笑)。

 タイヤ交換の判断基準ですか? SUGOだとタイヤ交換で約40秒のタイムロス(※2)があります。だから、そのロスを取り戻すのに何周かかるのか? というところから考えます。例えば1周あたり5秒速かったとすると8周でロスは取り戻せます。でも、ずっとそのコンディションが安定していたら、という条件ですから。雨が上がってしまうと、もう一度タイヤ交換する必要があります。
 それにドライバー1人の最低周回数が今回は27周(※3)でしたが、そちらとの関係も考える必要があります。今回は、通り雨でまたすぐに乾いていく。そう判断してステイする(コースにとどまる)作戦にしました。

※1:SUPER GTは走りながらスタートするローリングスタートを採用している。このためダミーグリッドからコースを確認するフォーメーションラップを1周または2周を行い、その中で予選によるグリッドの順に併走し隊列を整え、ペースカーがコースから退去し、シグナルがグリーンになり、スタートラインを超えたらレースを開始する。
※2:決勝レースのピットインでは、タイヤ交換と燃料給油、ドライバー交代を行う。この際、タイヤ交換と給油は同時にできない。このため、フォーミュラレースのピットインより時間が掛かる。ただ、タイヤ交換は義務ではないので、2本交換や無交換の作戦でピット時間を減らすこともできる。
※3:ドライバー1人の最大周回数は2/3以下と決められている。今回のレース周回数は81周で、2/3は54周。ここから1人の最低周回数は27周となる。

トラブルに悩まされた序盤戦。第3戦を前に改善の道筋が見える

 今シーズン用の新型車には最初、大きなトラブルがありました。詳しいことは言えませんが、出せているはずのダウンフォース(※5)が、実際には出せていなかった。だから開幕戦の岡山は、ハイダウンフォース仕様で何とかごまかせたんですが、第2戦の富士から使用しているロードラッグ/レスダウンフォース仕様では(ダウンフォースが)まったく足りなかったんです。それが判明したのはオートポリスでの第3戦の前。だからSUGOの公式テスト(5月)でも何とかそこそこのタイムは出せていましたが、クルマ的には問題を抱えていたんです。

 で、オートポリスの前にトラブルの原因が分かって、そこから新型車両の、本当の意味でのセットアップが始まりました。今年のクルマは、これまでとはパッケージングが一新され、ダウンフォースの量もまったく違っているから、去年までのデータもあまり有効じゃない。だからオートポリスの第3戦と、その後に実施された鈴鹿のテストで得たデータをもとに、今回の持ち込みセットを決めました。
 本当に手探りでした。実際、土曜日の公式練習はウェットで、日曜の予選と決勝は(基本的には)ドライ。コンディションが違ったから、日曜日のセットも手探りでした。オートポリス以降はリアがどっしりしていてトラクションも効いているから、走り始めはタイム的にもそこそこ悪くない。でもそこから路面にラバーが乗って(※4)、クルマのセットを詰めてくると、ウチは曲がり難くてタイムも頭打ち。相対的に遅くなってしまうんです。

 だから今回の勝因では、ウチのクルマがトラクション(※6)の優位性を発揮できるような、ちょうどいいコンディションが続いたことが大きかった。これ以上、完全なドライでコースコンディションが良くなってくると、周囲はもっとタイムアップして行ったでしょうから。だから外から見ていたり、結果から判断すると完勝に見えるかもしれませんが、実際にはギリギリ、いっぱいいっぱいでしたね(苦笑)。

※5:ウィングなどのエアロパーツによって車体を路面に押し付ける力。高速走行時に高いダウンフォースを得れば、エンジンパワーをより効率よく路面に伝えられる。だが、同時に空気抵抗(ドラッグ)も増えてしまうため、そのバランスが重要になる。逆に高速コースでは、ダウンフォースを減らしても(レスダウンフォース)、空気抵抗を減らす(ロードラッグ)を採用する。
※6:タイヤに加えられた駆動力を路面に伝えること。トラクションを高めるには、空力のダウンフォースを使ったり、サスペンションなどで機械的に押し付けたりなど、クルマのセッティングが重要になる。

ハンディが厳しくなるのはライバルも同じ、ここから本格的に巻き返す

立川祐路と話す村田卓児エンジニア
立川祐路と話す村田卓児エンジニア
 次回の富士までには、もっともっとクルマを速くしたいですね。次回からはエンジンがフレッシュなものに変わる予定(※7)です。細かなスペックに関してはまだ知らされていないので分かりませんが、特に心配はしていません。ただピークパワー(※8)はともかく、実際に大きな武器となるトルク特性などの"使い易さ"では、ライバルも高いポテンシャルを発揮しているようで、これからも一層速くしていくことが必要ですね。

 今回の優勝でポイントも増え、次回からは1段階制限を強化した燃料流量リストリクターを装着すること(※9)になります。これまでに一度テストしたことはありますが、特にパワー勝負の富士では厳しくなると思います。
 でも、それはライバルも同じ。ランキング上位の多くがハンディを加えた燃料流量リストリクターを装着してくることになるので、横並びの戦いになると思います。何よりもオートポリスの前にトラブルの原因が判明し、クルマを"改善"していく道筋も見えてきているので、クルマ全体での上げ代はあると思っています。クルマの調子が悪い(セットアップが完璧でない)時期に、こうやってポイントを稼ぐことができましたから、ここから本格的に巻き返していきたいですね。

※7:SUPER GTのGT500クラスでは、エンジンを年間3基まで使用できる。LEXUS Racing勢は、次戦第5戦より2基目のエンジンを導入する予定。
※8:SUPER GTのGT500クラスではピークパワー(最大出力)は500馬力程度に設定されているため、そこで大きな差を付けることは難しい。このためパワー競争より、出力やトルクがどの回転でどのくらい出るかが、それによりドライバーが扱いやすくなるかが重要になる。
※9:ウェイトハンディが50kgを超えると、50kg分は燃料流量リストリクターを絞ることで置き換える。50kgを超えた分は実際のオモリをクルマに搭載する。次回、第5戦の1号車では、ウェイトハンディは70kgで、50kg相当は燃料流量リストリクターで絞られ、オモリ搭載は20kgになる。

村田卓児エンジニア 村田卓児(むらた たくじ)
ZENT CERUMO RC F 1号車 担当エンジニア

1971年生まれ、千葉県出身。学生時代からチームでアルバイトを続け、卒業後はNAKAJIMA RACINGにメカニックとして就職。2002年にTEAM IMPULでエンジニアとなり、2008年からLEXUS TEAM ZENT CERUMOでエンジニアを担当している。