SUPER GT 2014年 第2戦 富士
エンジニアレポート
最初のピットインを短くする戦略が当たる
今後の戦いも自分たちのベストを尽くすだけ
ZENT CERUMO RC F 1号車 担当エンジニア 村田卓児
第2戦富士は500kmという長いレース。多くのチームがトラブルやアクシデントに襲われました。その中で粘り強い走りを見せたNo.1 ZENT CERUMO RC Fが、見事2位を獲得。予選5位から表彰台へ導いたLEXUS TEAM ZENT CERUMOの村田卓児エンジニアに、この戦いを振り返っていただきます。
2014年規定では空力面での富士の特殊性が小さくなった
空力パーツの比較写真
上が第1戦 岡山仕様、下が第2戦 富士仕様
今シーズンは車両規定の変更でクルマが一新され、さらに車両の基本仕様の変更ができなくなりました。空力面でもダウンフォースは、主にボディ下面で生み出す構造になっています。富士のような高速コースでは通常とは別のエアロパーツが認められていますが(※1)、これまでのように極端なレスダウンフォース仕様(※2)にはなっておらず、富士だからという特殊性は随分小さくなっています。
このため開幕前の岡山公式テストと富士でのメーカーテスト、そして岡山での開幕戦に加えて、第2戦の前に行ったオートポリスでのタイヤメーカーテストで得たデータをもとに、今回の持ち込みセッティング(※3)を決めました。開幕戦はアクシデントで不本意な結果になりましたが、クルマの速さは確認できていたので、富士でも良い結果が出ると思っていました。
※1:2014年の車両規定では、空力パーツの変更を2セットしか認められず、各メーカーは通常仕様と高速コース仕様に分けている。
※2:空気の流れにより車体を路面に押し付ける力を「ダウンフォース」と言う。通常はダウンフォースがより多く欲しい。だが空気抵抗(ドラッグ)も増えるため、それを嫌う高速コースでは、あえてダウンフォースを減らす「レスダウンフォース」に振ることもある。
※3:これまでのテストや実戦、シミュレーションのデータを基に、サーキットに行く前に施されるセッティング。これを基本に現場の状況で車両チューニングの微調整を施す。
突発事態でスティントの組み立てを急遽変更
立川祐路の体調不良により
急遽2スティントを走ることになった平手晃平
今回は2つのスペックのタイヤを持ち込んでおり、公式練習ではその確認が大きなメニューのひとつでした。最後の10分間でその確認をしていたので、ポジション的には6番手でしたが、手応えとしては"まずまず"でした。
ただ新品タイヤに対してもう少しアジャストする余地があったので、予選には、その最後のアジャストを施して臨みました。これが良い方向に出て、同じLEXUS Racing勢でトップのPETRONAS TOM'S RC F 36号車と1000分の15秒差までタイムアップもできました。12号車(カルソニックIMPUL GT-R)の速さにはちょっと驚かされました。富士のメーカーテストでも速かったのですが、ここまで速いとは...。ただ、オートポリスのタイヤメーカーテストでも一発の速さはあったけれどロングランはそれほどでもなかったから、今回の富士でも決勝はどうなのかな、と。
今回はレース距離が500kmで、2回ピットの3スティントでしたが、スティント(※4)の距離も長くなるので、決勝セッティングは普段以上にタイヤに優しくなるよう心がけました。予選で速かったGT-Rも、決勝の速さはまだ見えてなかったので、彼らに対してどうのこうのではなく、まずは自分たちのベストとなるレースをしようと思っていました。
そう思って迎えた決勝日の朝に、立川(祐路)選手の体調がかなり悪いのが判明し、彼の走る距離をできるだけ短くすることにしました。当初は立川>平手(晃平)>立川の予定だったところを、平手>立川>平手と変更したのが唯一、予定外でした。平手選手も決勝では十分に速いので、2スティントを任せることは特に問題ではなかったんですが、体調の優れない立川の周回数をミニマム(※5)で抑える必要があり、それで少しだけレースの組み立てが変わったところもありました。それでも、最初のルーティンピット(※6)では燃料の補給量を少なめにしてタイムロスを抑える作戦で、36号車の前に出ることができたので、これも上手く行ったな、と思っています。
ただ12号車が、決勝でも速かったのは意外でした。富士仕様ではなく通常の仕様では、それほど差がないんじゃないか、とも思っていますが、いずれにしても今年のレギュレーションでは、ボディやエンジンを大きく進化させることができないので、サスペンションのセットアップなどで追いつく必要があると思っています。
※4:ピットインが必要なレースで、スタートまたはピットインから次の所定のピットインかゴールまでの走行時間帯を1スティントと言う。
※5:1人のドライバーがレース距離の2/3以上を走ってはいけない。この大会での2/3は73周で、2名ので参戦は1人が最低37周走らなければいけない。
※6:作戦で決めていた(ルーティン)給油やドライバー交代をするピットイン
ウェイト30kgでも次戦オートポリスの優勝は狙える
今後も1戦1戦、ベストを尽くして戦うだけ
新しいクルマがウェイトハンデにシビアなのかどうかは、正直なところまだよく分かりません。重い状態を想定してウェイトを積んだテストを、1〜2回しかしていないので。ただ、今回の2位で選手権ポイントが15ポイントとなり、ウェイトハンデは30kg(※7)。このウェイトハンデなら次戦のオートポリスで、十分優勝を狙うことができると思っています。
例年そうなんですが、僕らは"どこのサーキットで"とか"シリーズのどの段階で"という優勝の狙いどころをあまり考えていません。毎戦毎戦、ウェイトなどの状況を見ながら、自分たちのベストを尽くしてポイントを積み重ねて行くだけ。そう思っています。
※7:ドライバーの参戦数が6戦までは獲得ポイント×2kgが次戦のウェイトハンデとなる。7戦目は×1kg、8戦目は0kg。
村田卓児(むらた たくじ)
ZENT CERUMO RC F 1号車 担当エンジニア
1971年生まれ、千葉県出身。学生時代からチームでアルバイトを続け、卒業後はNAKAJIMA RACINGにメカニックとして就職。2002年にTEAM IMPULでエンジニアとなり、2008年からLEXUS TEAM ZENT CERUMOでエンジニアを担当している。
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SUPER GT 2014年 エンジニアレポート一覧
- 第1戦 岡山:KeePer TOM'S RC F 37号車 担当エンジニア 小枝正樹
- 第2戦 富士:ZENT CERUMO RC F 1号車 担当エンジニア 村田卓児
- 第3戦 オートポリス:KeePer TOM'S RC F 37号車 担当エンジニア 小枝正樹
- 第4戦 SUGO:ZENT CERUMO RC F 1号車 担当エンジニア 村田卓児
- 第5戦 富士:PETRONAS TOM'S RC F 36号車 担当エンジニア 東條 力
- 第6戦 鈴鹿1000km:PETRONAS TOM'S RC F 36号車 担当エンジニア 東條 力
- 第7戦 ブリーラム(タイ):PETRONAS TOM'S RC F 36号車 担当エンジニア 東條 力
- 第8戦(最終戦)もてぎ:KeePer TOM'S RC F 37号車 担当エンジニア 小枝正樹