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SUPER GT 2014年 第3戦 オートポリス
エンジニアレポート

KeePer TOM'S RC F 37号車

燃料流量リストリクターによる制限を初経験
僚友36号車とセッティングでもバトルでも競い4位入賞
KeePer TOM'S RC F 37号車 担当エンジニア 小枝正樹

今シーズンは各ラウンド終了後に、LEXUS Racingで最上位となったチームのレース担当エンジニアに、そのレースを振り返っていただき、改めて勝負のポイントを語っていただきます。SUPER GT 第3戦 オートポリスでは、ウェイトハンディと燃料リストリクターによる厳しい条件を跳ね返して4位になった37号車、KeePer TOM'S RC Fの小枝正樹エンジニアです。

実際のテストをすることなく、持ち込みセットを設定

空力パーツの仕様に限らず、37号車にとって今回がオートポリス初走行となった
空力パーツの仕様に限らず、37号車にとって
今回がオートポリス初走行となった
 オートポリスでは4月22、23日に事前テスト(タイヤメーカーの合同テスト)が行われていますが、ウチは走ってないんです。それに今回初めて燃料流量リストリクター(※1)での制限を受けること(※2)になったのですが、これもスポーツランドSUGOの公式テスト(5月10、11日)で6号車(ENEOS SUSTINA RC F)が実際に装着して走りましたが、支給数が足りなかったため、37号車は燃料マップを調整し、ソフトウエア―的に燃料流量を絞って疑似的なリストリクター状態で走りました。ウェイトハンデ50Kg分の正式な燃料リストリクターで走るのは今回が初めてだったんです。

 今回はSUGOテストで走った時のデータを基に、昨年まで走っていた時のオートポリスの路面状況とか、高くなるであろう路面温度(※3)などを補正して、持ち込みセットを決めました。予想したよりは少し気温も路面温度も高くなりましたが、それでも、晴れれば(日差しで)高くなるだろうと思っていたので、まったくの想定外、という訳じゃなかったです。
 また、今回、トムスチームはSUGOテストで評価した新しいタイヤを使いましたが、まだ車両とのマッチングのレベルを上げる必要はあるものの、今後の方向性は見出すことが出来たと思います。

※1:従来はエンジンへの吸気量を制限するエア・リストリクターでエンジンパワーの規制をしていたが、2014年GT500車両は燃料の消費量を1時間に100kgに制限する燃料流量リストリクターを採用している。これにより燃費向上の技術も問われることになった。
※2:ウェイトハンディが50kgを超えると、50kg分は燃料流量リストリクターを絞ることで置き換える。50kgを超えた分は実際のオモリをクルマに搭載する。第3戦の37号車では、ウェイトハンディは52kgで、50kg相当は燃料流量リストリクターを絞られ、オモリ搭載は2kgだった。
※3:昨年のオートポリス戦は第7戦で10月6日と秋に行われた。今年は6月1日と初夏とも言える時期で、気温や路面温度も昨年の大会より高くなると予想された。

36号車と競るというより、前の12号車を追う気持ちで

 決勝レースでは、走り始めからタイム的にもまずまずのペースで走れていましたし、ドライバーからのコメントでもクルマの状態は悪くなかった。だから持ち込みは悪くなかった、と判断しています。
 ただ、万全かと言えば、まだまだ。練習走行(土曜午前)では、36号車(同じTEAM TOM'SのPETRONAS TOM'S RC F)よりも速かったのですが、それはあくまでも練習走行だから。お互いの(テスト)メニューも違っていましたしね。予選のQ1では、ウチは早い段階でタイムアタックを終えることができましたが、半数以上のクルマがセッション終盤のタイムアタック中に赤旗(※4)となり、36号車も予選再開後に1周のアタックができただけ。しかも遅い車に引っ掛かってしまうハプニング(※5)があったりで、本来のパフォーマンスが出せていないのが実情です。実際に日曜朝のフリー走行では36号車の方が良いタイムを出しています。これが本来の力関係じゃないですかね。

 レースでは中盤から36号車と一緒に、(3番手の)GT-Rの12号車を追い掛ける展開になりましたが、36号車と競り合っているという感じじゃなくて12号車を追いかける、という気持ちでしたね。36号車は、オーバーラン(※6)してタイムロスしたこともあって、あの位置にいましたが、本来的にはもっと前にいたはずです。だからウチよりも速いはず、というのは理解していましたが、やはりレースだから前に行くしかない。(競り合う)相手が、同じチームとかはあまり考えないようにしています(苦笑)。

※4:レースでは、走行中の競技車両に著しい危険が生じた場合に、コース各所に赤い旗と赤信号を示す。この場合、各車両は競技を中断し、スピードを落としてピットに戻らなければいけない。
※5:Q1の終盤で予選中断となり、再開後は残り3分の走行となった。1度きりのアタックで36号車の平川亮選手は前を走行する車両に進路を塞がれるかたちになり、満足なアタックができず。結局、11番手に留まり、上位8台が進出するQ2に残れなかった。
※6:トップ34周目、最終コーナーで36号車の平川亮選手がアウト側にコースアウトして、37号車に抜かれて6番手に落ちた。36号車に大きなトラブルはなかったものの、この周で6秒ほどタイムロスし、以降2周でペースを落とした。

ドライバーからは負けている部分があると指摘あり

伊藤大輔と話す小枝正樹エンジニア
伊藤大輔と話す小枝正樹エンジニア
 今回と次回のSUGOは、本来富士専用に開発されたロー・ダウンフォース/ロー・ドラッグ仕様で走ることになりました(※7)。でも今年は車両が一新されていて、オートポリスは、ロー・ダウンフォース仕様だけじゃなくハイ・ダウンフォース仕様でも走ってないから、比べるモノがないんです。だから初めてのロー・ダウンフォース仕様だから苦労した、ということはなかったですね。結局"いつもの"レースと同じように、持ち込みセットに対して、公式練習からクルマの前後バランスを調整しながら仕上げて行く、というスタイルでしたね。

 今回のレースでは表彰台を逃してしまいましたが、1、2位になったミシュランタイヤを履く2台を別にすれば、ペース的にはそれほど負けていなかった、と思うんです。でもドライバーからは、確実に負けている部分があったと聞いているので、さらにセッティングを詰めて行く必要がありますね。
 今シーズン用のクルマは共通部品(※8)を使っている個所も多くて、どこかのパーツを変えて劇的に速くする、ということは無理でしょう。だから、セッティングで少しずつ速くしていくしかないですね。次回のSUGOでは燃料流量リストリクターの制限に加えて、ウェイトも重くなる(※9)ので、もっと厳しくなると覚悟はしています。でも、まだ少し時間があるので、がんばって、もっと速いクルマに仕上げたいですね。

※7:2014年型GT500車両では、高速コース(富士を想定)用の空力セット(ロー・ダウンフォース/ロー・ドラッグ仕様)と、それ以外のコース用(ハイ・ダウンフォース仕様)の2種類を使い分ける予定だった。だが、コーナーでの速度が速くなりすぎることが懸念され、第3戦オートポリスと第4戦SUGOではロー・ダウンフォース仕様を使用してコーナー速度を抑えることになった。
※8:2014年型GT500車両では、モノコック(車室部分)やエアロパーツや駆動系などで全車種が同じ部品(共通パーツ)を使用する。これにより参戦コストの軽減と車両性能の均衡化を目指している。
※9:次戦のSUGO戦で37号車は68kgのウェイトハンディとなる。50kg分が燃料流量リストリクターによって制限されるのは今大会と同じだが、実際にクルマに搭載するオモリは2kgから18kgと増えることになる。

小枝正樹エンジニア 小枝正樹(さえだ まさき)
KeePer TOM'S RC F 37号車 担当エンジニア

1979年生まれ、岐阜県出身。大学卒業後はレースと無関係の会社に就職するも、子供の頃に見たF1が忘れられず、2007年にTOM'Sへ入社。データ解析のエンジニアを経て、昨年からGT500クラス37号車担当のレースエンジンニアに就任。