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SUPER GT 2014年 第8戦(最終戦)もてぎ
エンジニアレポート

タイヤ無交換で優勝を飾ったPETRONAS TOM'S RC F 36号車

トラブルやスピンなどもあったが、速さは充分に引き出せた。
ただトップには届かなかったので、そこが来シーズンへの課題
KeePer TOM'S RC F 37号車 担当エンジニア 小枝正樹

2014年SUPER GTシリーズの総決算となるツインリンクもてぎでのシーズン最終戦。僚友の36号車に続いてランキング2位で臨み、逆転チャンピオンを狙っていたKeePer TOM'S RC F 37号車は、トラブルや思わぬハプニングもあって予選では13番手に沈んでしまった。しかしながら、決勝ではスタート直後から猛プッシュし、大きくポジションアップ。2位で表彰台に上り、ランキング2位でシーズンを終えることになった。出入りの大きかった37号車の最終戦を、技術的な側面から小枝正樹エンジニアに話してもらいました。

ストップ&ゴーで調子の良かったタイ仕様で持ち込み、ハード目のタイヤを選択

最終戦の舞台となったツインリンクもてぎのロードコースは、ストップ&ゴー(※1)と呼ばれるレイアウトが大きな特徴です。前戦のタイも比較的、ストップ&ゴーのセクションも多かったのですが、そこで37号車はそこそこ調子がよかったので、基本的にタイのセットをベースに持ち込みセットを決めました。
このところSUPER GTは土曜と日曜の2デー・スケジュールで行われてきましたが、今回は公式テストとして金曜日にも走行セッションがありました。公式テストは通常なら(レース本番の)1カ月くらい前に行われて、本番で使うタイヤを決めるのが公式テストの大きなメニューとなっていますが、今回はちょっと違っていました。ブリヂストンさんに用意してもらった2種類のタイヤ...ソフト目とハード目の2種類で、どちらも、これまでテストしたことのないコンパウンドのタイヤでしたが、それを履き換えながら走行し、それぞれのパフォーマンスを確認するのが大きなメニューになりました。実際にはソフト目のタイヤはムービング(※2)が特にロングラップを走った時に大きくて、ハード目のタイヤを選ぶことになりました。
クルマのセットを大きく変えることはなかったですね。ただ、走り始めた段階からGT-R勢やライバルタイヤの装着車が速くて、これは厳しい戦いになるな、と思いました。僚友のPETRONAS TOM'S RC F 36号車が金曜日のトップタイムをマークしていますが、たまたまタイムが出ただけで、GT-R勢のコンスタントな速さは要注意だと思いましたね。

※1:短いストレートとストレートを、回転半径が小さく回り込んだコーナーで繋いでいるコースレイアウトをこう呼ぶ。ストレートエンドでフルブレーキングし、コーナーを回り込んだ後にフルスロットルで加速するパターンが続きブレーキが酷使される場合が多い。
※2:クルマに横G(左右方向の力)がかかった時、タイヤのコンパウンド(トレッド面のゴム)がよじれること。このムービングでトレッド面を温めてゴムを溶かせることでグリップを確保しているが、ムービングが大きすぎるとハンドリングにも悪影響を与える。

クルマだけでなくドライバーもギリギリのところで戦っている

予選アタック中にスピンした伊藤大輔。しかし、セッティングの問題を抱えたままアタックに臨んだ故の結果だった
予選アタック中にスピンした伊藤大輔。しかし、
セッティングの問題を抱えたままアタックに臨んだ故の結果だった
今回はクルマの各部にトラブルが出ていました。LEXUS Racing勢にはブレーキのトラブルが多く出ていましたが、これはクルマ個体の問題ではなく、メーカー問わず厳しかったようです。だから普段以上に各部のチェックが必要になりました。ウチの場合、金曜日にアンドレア(・カルダレッリ選手)が走行していた際に90度コーナーで止まってしまうことがありましたが、あれもブレーキ。酷使されたブレーキが音を上げたというか、パッドが摩耗し過ぎてしまったんです。それで他のLEXUS Racing勢もブレーキを再チェックしたはずですが、他メーカー陣営も再チェックしたと思います。同様に何台かにプロペラシャフト(※3)にもトラブルが起きた。これはもうギリギリのところで戦っている証拠です。
公式予選ではQ1でアタックした伊藤(大輔選手)さんが3コーナーでスピンしていますが、これはトラブルではありません。もちろん、単純なドライビングミスでもなくて、むしろセッティングの問題と言うのか、それまでもリアが軽い(=ロックし易い)とのコメントはあったのですが、それを何とか出さないようにドライバーが頑張ってくれていた。ただ予選アタックと言うことで伊藤さんが攻めて走った。攻め過ぎたが故のスピンだったんです。クルマだけでなくドライバーも限界ぎりぎりで走っているんです。

※3:エンジンの駆動力をリアアクスル/後輪に伝えるパーツ。もてぎではLEXUS Racing勢とGT-R勢の何台かにトラブルが発生した。現行のレギュレーションでは基本的にDTMと同じパーツを使うことになっているが、日本のサーキットは路面の摩擦係数が高く、またDTMとは異なりタイヤ開発競争が行われていため、プロペラシャフトにかかるストレスが大きい。そのため、国産のパーツを使用している。

来季は更にクルマを速くしてタイトルを奪回する!

予選13番手からドライバー、チームとも完璧な仕事し、決勝を2位フィニッシュした
予選13番手からドライバー、チームとも完璧な仕事し、
決勝を2位フィニッシュした
決勝ではウチは予選13番手で最後尾に近いグリッドから追い上げることになりました。でも決勝では2人のドライバーが見事なドライビングで追い上げてくれました。またチームも完璧な仕事でこれを支え、2位入賞を果たすことができました。序盤にチームメイトである36号車と競り合うことになりましたが、オープニングラップのアクシデントでマシンにダメージがあり、ペースが上がらなかったので抜きに行った。それだけです。
予選で普通にアタックできていればもっと前のグリッドからスタート出来て、レース展開も違ったものになっていただろうし、もちろん36号車がオープニングラップのアクシデントに遭遇しなければ、これもまた違った展開になっていただろうとおもいます。ただしトップの速さにはついていけなかった。それが現実です。

1年を通してクルマを開発してきて、他メーカーは"ジョーカー"(※4)を投入しましたがLEXUS Racing勢は投入しなかった。実際には、満足できる性能が得られず投入できなかったんです。あとライバルのタイヤメーカーがパフォーマンスを上げてきた。技術的に分析するならこうなりますね。この辺りの現実を課題にして、来シーズンもドライバーもスタッフも、もちろんブリヂストンさんも一緒になり、チーム一丸となってクルマを一層速くしてチャンピオンを狙っていきたいと思っています。

※4:今年から導入されたレギュレーションではクルマのエアロ(空力パーツ)に関してハイダウンフォース仕様とロードラッグ仕様の2種類の他に、シーズン途中に1回だけ、手を加えて進化させることが許されていた。

小枝正樹エンジニア 小枝正樹(さえだ まさき)
KeePer TOM'S RC F 37号車 担当エンジニア

1979年生まれ、岐阜県出身。大学卒業後はレースと無関係の会社に就職するも、子供の頃に見たF1が忘れられず、2007年にTOM'Sへ入社。データ解析のエンジニアを経て、昨年からレースエンジンニアに就任。今シーズンはSUPER GTの37号車(KeePer TOM'S RC F)に加えてSUPER FORMULAでも中嶋一貴車(#37 PETRONAS TOM'S SF14)のレースエンジニアを担当している。