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SUPER GT 2015年 第6戦 SUGO エンジニアレポート

ピット練習を行うENEOS SUSTINA RC F 6号車

予期せぬトラブルやハプニングが続出した第6戦
残り2戦は極限まで攻めたエンジンで各チームをサポート
トヨタテクノクラフト株式会社
TRDモータースポーツ開発室・エンジングループ 佐々木孝博エンジニア

2015年シーズンのSUPER GTも、いよいよ終盤戦に入りました。第6戦の舞台となるスポーツランドSUGOは、コース幅が比較的狭いながら中高速コーナーも多く、アベレージスピードも高いというレイアウトから、シビアなレース展開になりやすいサーキットです今年もアクシデントやハプニングが続出する中、LEXUS RC F勢では、6号車(ENEOS SUSTINA EC F)と19号車(WedsSport ADVAN RC F)が上位で粘り強いレースで、表彰台まであと一歩の4〜5位でチェッカーを受けることになりました。この第6戦をTRD(TOYOTA RACING DEVELOPMENT)の佐々木孝博エンジニアに振り返っていただきました。

予選では68kgのウェイト残り2戦を跳ね返し
37号車がグリッド2列目、4位を確保する

TRDモータースポーツ開発室・エンジングループ 佐々木孝博エンジニア
TRDモータースポーツ開発室・エンジングループ
佐々木孝博エンジニア
 毎戦のようにLEXUS RC FとLEXUS GAZOO Racing各チームに熱いご声援をいただき、ありがとうございます。シリーズ第6戦となった今回は、今季2基目のエンジンにとって最後のレースとなりましたが、いくつかのトラブルが出てしまい、またレースが荒れた展開となったこともあって、表彰台を逃してしまう悔しいレースになってしまいました。今回は、スポーツランドSUGOのレースの分析と、次戦オートポリスで投入する今季3基目のエンジンについて、エンジン開発やチームサポートを行っているTRDの佐々木が、前回に引き続いてご報告します。

 予選結果ではウェイトハンディが重いグループと比較的軽いグループに分かれていて、重いグループはQ1で敗退してしまい、比較的軽いグループがQ2に進んだ、という見方もできます。その中では37号車(KeePer TOM'S RC F)ががんばっていたという印象もあります(Q2走行車両では最大のウェイトハンディ68kgながら予選4位。なお規定により50kg分は燃料リストリクターを絞ることで調整し、18kgのウェイトを搭載)(※1)。やはりレース(の速さ)は重さだけでなく、選んだタイヤだとかクルマのセットアップ、そしてチームの作戦によっても変わってくるので、それが上手くかみ合ったのが37号車だったのかな、と思っています。
 また重いグループもあれ(予選結果)が精一杯だったのではなく、土曜朝の公式練習から午後の公式予選、そして日曜朝のフリー走行と、コンディション...特に路面温度が変わってきていて、そのコンディションとクルマのセットや選んだタイヤに合っていたかどうか、というのも大きなポイントだったと思っています。そして、決勝レースでの速さに関して言うなら、ピックアップ、あるいはデブリと呼ばれている、いわゆるタイヤかすがタイヤに付着してグリップが失われる(※2)現象も、選んだタイヤや路面温度によって、気にならないレベルだったり酷かったり、と違ってきていることも見逃せませんね。

※1「燃料リストリクターを絞る」 公正な競争と安全面からSUPER GT用エンジンには、燃料供給量を制限する燃料流量リストリクターが装着されています。ハンディとはいえ、速度の高いGT500車両の過度な重量増加は危険が生じるため、ウェイトハンディが50kgを超えると、そのうち50kg分は、それと同程度のタイム降下が想定されるだけ燃料流量リストリクター絞ることが規定で定められています。
※2「グリップが失われる」 レース中盤以降では、レース用のハイグリップタイヤが削れて出るタイヤかす(デブリ)が、コース上に散乱します。車両がこれを踏むとタイヤにへばりつくこと(ピックアップ)があり、これによりタイヤのグリップダウンや振動が生じ、ペースダウンに繋がります。

決勝でアンラッキーが続いた36号車
反省と分析を行い、次回に向けて改善を進める

開幕戦のエンジントラブルの影響で、ペナルティを受けたPETRONAS TOM'S RC F 36号車
開幕戦のエンジントラブルの影響で、
ペナルティを受けたPETRONAS TOM'S RC F 36号車
 今回は予期せぬトラブルや、思わぬハプニングも多く出たレースになりました。これはトラブルではないのですが、36号車(PETRONAS TOM'S RC F)はレース前から、決勝のスタート直後にドライビングスルーペナルティが課せられることが決定していました。これは開幕戦でエンジントラブルを起こしたために、第2戦に向けて今季2基目のエンジンに載せ替えていて、結果的にエンジン載せ替えのタイミングが違ってきてしまい、他のクルマは次回、第7戦のオートポリスから今季3基目のエンジンに載せ替えることになっていますが、36号車はマイレージの関係で今回、4基目のエンジンに載せ替えてきた(※4)からです。
 加えて、スタート前にエンジンが掛らずピットスタートとなるハプニングもありました。詳しい解析はこれからですが、ECUの内部(※5)に不具合があったことは確かで、これは初めて現れたトラブルでした。いずれにしても、ECUを交換して対処を済ませ、決勝レースに出ることはできました。ただ、36号車はピットスタートになったことに加えて、終盤にはミッション系のトラブルも起きていました。
 また6号車(ENEOS SUSTINA RC F)にはシフト不調の症状が出ていました。38号車(ZENT CERUMO RC F)に関しては、ピット作業中に煙が出て消火器を使用するということもありました。原因調査はこれからですが、その後の走行に支障が無かったことが幸いです。
狭いピットに同時にピットインする事により混乱が生じたり、それが原因でペナルティを受けてしまったケースがあったり、LEXUS RC F同士の接戦の際にコースアウト、クラッシュするという残念なこともありました。

※3「4基目のエンジンに載せ替えてきた」 SUPER GTでは規定で使用できるエンジンが年間3基までと決められています。トラブルなどでこれ以上の基数を使うことになると、最初のレースでドライビングスルーのペナルティが課せられます。
※4「ECUの内部」 ECUとは「エンジン・コントロール・ユニット」の略で、文字通りエンジンを電子制御するコンピュータです。低中回転域のトルク特性を重視するのかトップパワーを追求するのかも、ECUでコントロールできます。

残り2戦、変化するウェイトハンディや
下がる気温にも対応したエンジンを準備

オートポリスでは、シーズン3基目のエンジンを投入する
オートポリスでは、シーズン3基目のエンジンを投入する
 次回から使用する(今季)3基目のエンジンをどう仕上げていくか? これから詰めていくことになっています。
 オートポリスに向けてですが、エンジン的には特にオートポリスだからどうのこうのはないですね。ただ高地となるので、制御系をそれに適合したものにする必要があること。そして気候的にはこれから涼しくなっていくので、そのコンディションに合わせて性能を出し切る、ということを考えています。
 このエンジンではインタークーラーで冷やされた空気(※5)を吸っているのですが、例えば今回くらい気温が上がってくると、まだまだ冷やしたい、というレベルでレースをしていましたが、次回からは(インタークーラーで冷却した空気が)適温以下になることが考えられます。もちろん、吸気温度が下がればそれだけパワーは上がるのですが、パワーと信頼性、そしてマイレージは密接な関連があるので、やはり適温にコントロールして、信頼性を犠牲にすることなく残り2戦でマイレージを使い切る。そのためにも吸気温度をコントロールすることは必要です。
 残り2戦では極限まで攻めたエンジンを用意して、LEXUS GAZOO Racing各チームのタイトル獲得をサポートしたいと思っています。ファンの皆さんのご期待に応えられるよう技術陣もがんばりますので、引き続き応援をよろしくお願いします。

※5「インタークーラーで冷やされた空気」 SUPER GTで使用されるターボエンジンにはインタークーラーという吸気された空気を冷却する装置が装着されています。これを使うことで、より空気密度が上がりパワーが得られます。今後、気温が下がる季節になると、より効率よく冷却でき、夏場より多くの空気を燃焼室に送り込むことができます。そして結果的に、夏場よりパワーアップすることになります。