43台ものマシンが、V8エンジンの轟音を響かせながら接触せんばかりに集団で疾走。楕円形のコースを取り囲むようにそびえる巨大なスタンド席は超満員に膨れ上がり、ひいきのドライバーのグッズを身に付けたファンが、目前で繰り広げられる激しい争いに一喜一憂し、スピードウェイは感動と興奮のるつぼと化す。日本では見ることが出来ない全米を熱狂させるナンバー１モータースポーツ、それがNASCARです。

　NASCARとはこのレースをつかさどる「National Association for Stock Car Auto Racing」（全米ストックカーレース協会）の頭文字を取った呼称です。その歴史は今から60年前の1948年、フロリダ州デイトナビーチから始まりました。当初は全米を代表する保養地のデイトナビーチのまさに砂浜の上でレースが行われていましたが、1959年に１周2.5マイルのデイトナ・インターナショナル・スピードウェイがオープンし、NASCARの本格的な歴史が幕を開けたのです。

　使用されるマシンは、一般の市販車がベースであることから、「ストックカーレース」と呼ばれ、アメリカの南部では早くから人気を集めました。意外なことに、全米に広くファンを獲得するようになったのは1990年代に入ってからと比較的最近で、巧みなマーケティング戦略とマスコミへの露出でそれまで最も人気があったオープンホイールレースにとって変わって一気にアメリカンモータースポーツのナンバーワンとなりました。

　アメリカにはNFL、MLB、NBA、NHLと「4大メジャースポーツ」と呼ばれる不動の人気プロスポーツが存在することは良く知られていますが、今日ではNASCARを加えた「5大メジャースポーツ」と呼ばれるようになっています。

　シリーズ戦として年間36戦が開催されるレースはすべてテレビで全米に生中継され、スポーツイベントの視聴率では何とNFLに次いで第2位！NASCARの人気は、数字の上ではあのMLBを上回っているのです。2007年は毎戦平均12万人以上もの観客をスピードウェイに動員し、さらにテレビ視聴者は毎戦平均で500万世帯/720万人が観戦していると言われています。これらの数字がNASCAR人気のものすごさを如実に物語っているといえます。

　ファンを熱狂させるNASCARの魅力は、何と言ってもコース上での"予測不可能なスリリングなバトル"にあります。アメリカ独特のオーバルコースと呼ばれる楕円形のトラックで、毎周のように抜きつ抜かれつのバトルが展開され、ファイトむき出しの競り合いは時にはクルマ同士をぶつけあうこともいとわない。その結果クラッシュも多発しますが、それがまたファンを熱狂させる一因ともなっています。

　使用される車両は、イコールコンディションを保ち、同時に安全性を確保するために、NASCAR創生期から続いた市販車ベースではなくなり、パイプフレームで組まれた車体に市販車に似せたスチール製のカウルを被せたレース専用車になりましたが、エンジンはアメリカ車の象徴とも言うべき5.8リットルV8 OHVエンジンに、いまだに自然吸気のキャブレター仕様。現在のハイテクとはまったく逆行する"オールドアメリカン"なテイストを守り続ける姿勢がアメリカのファンの心を捕らえて離さないのです。加えて、オーバルコースは観客がコースを一望でき、レース展開は一目瞭然。このシンプルな分かりやすさも、老若男女問わずレースファン以外の一般の人からも支持されている要因と言えます。世界広しと言えども、アメリカにしかない最高の"レースエンターテインメント"、それがNASCARなのです。