2010年3月 7日(日)配信

2008年NASCAR特集

第10回 チェイスを戦うトヨタ・ドライバーもっと知りたいNASCARの世界 第10回 チェイスを戦うトヨタ・ドライバー

個性の異なる3人がトヨタ初のカップ・シリーズ・チャンピオンに挑む

チェイス進出を果たした12人のドライバーたち
今シーズンを引っ張ってきたカイル・ブッシュ
形状によってオーバルトラックは4つに分類

 チェイス進出12台中3台がトヨタ・カムリ!

 いよいよ始まったNASCAR版プレーオフ「チェイス・フォー・ザ・スプリント・カップ」。2008年シーズンの年間王者を決める大注目の「チェイス」に、今年トヨタ勢が初めて進出しました。NASCAR最高峰スプリント・カップ・シリーズ参戦2年目にして、タイトル獲得に向けて好位置につけているトヨタ勢の「チェイス」出場ドライバーを紹介していきましょう。

 最終10戦で争われる「チェイス」への出場権、すなわちチャンピオン獲得の権利を得ることが出来るドライバーはわずか12人。その狭き門をトヨタからは3人のドライバーが潜り抜け、出場権を得たのです。今年のチェイス進出ドライバーの12人の内訳を見ると、シボレーが最多の6人、フォードとトヨタが3人ずつで、もうひとつのマニュファクチャラーであるダッジは今回ひとりも出場権を得られませんでした。この事実からも、いかに「チェイス」への出場権争いが熾烈なものかわかると思います。

 チェイス進出を果たしたトヨタの3人は、今年からトヨタ勢に加わり、トヨタ躍進の原動力となっている強豪ジョー・ギブス・レーシング(JGR)のドライバーたちです。シーズン最多の8勝を挙げ、断トツのランキングトップでいの一番に「チェイス」出場を決めたカイル・ブッシュ、未勝利ながら安定して上位フィニッシュを重ねた2度のカップ・シリーズ・チャンピオン、トニー・スチュワート、そして27歳ながらベテランらしい落ち着いた走りを見せるデニー・ハムリンの3人です。同じチームの所属ながら、まったく個性の違う3人は、チャンピオン獲得への万全のラインアップといえます。

あくまでアグレッシブな走りでタイトルに挑む若き貴公子カイル・ブッシュ

 今シーズンのNASCARは、間違いなくカイル・ブッシュを中心に動いてきました。2004年カップ・シリーズ・チャンピオンのカートを兄に持ち、昨年までシボレーの強豪ヘンドリック・モータースポーツに所属していた23歳のカイルは、3年連続で「チェイス」に出場するなど早くからその走りに注目が集まっていました。しかし、若さゆえかアグレッシブすぎるそのドライビングスタイルには常に賛否両論がありましたが、彼の才能は今年JGRに移籍してから一気に開花。トヨタに悲願のスプリント・カップ・シリーズ初優勝を第4戦アトランタでもたらすと、その後は面白いように優勝を重ね、「チェイス」前にはシーズン最多の8勝を記録。オーバル戦のみならずロードコース戦でも2勝を挙げ、完全なオールラウンド・ストックカー・ドライバーへと生まれ変わったのです。

 カイルの魅力は、何と言ってもそのアグレッシブな走りです。レース中の接触を恐れない勇猛果敢なドライビングはライバル勢から反感を買うこともしばしば。しかし、その攻撃的な走りこそカイルの真骨頂で、トップ走行中でも決してアクセルを緩めたりはせず、圧倒的なスピードでライバル勢をねじ伏せていくのです。それゆえクラッシュやリタイアも多く、「優勝か、リタイアか」というレースが多いのもまた事実ですが、それもまたカイルの魅力になっています。「チェイス」開始前にはタイトル獲得最右翼に挙げられ、「誰がカイルを止めるのか?」が今年の「チェイス」のテーマとなっていました。

 ところが、「チェイス」がスタートして以来、不運がカイルを襲い、共にアクシデントやトラブルに巻き込まれ途中リタイアが連続。後がない状態で臨んだ3戦目のカンザスでも序盤からマシンの不調に苦しんで28位に沈んでしまい、ランキングはチェイス進出ドライバー最下位の12位になってしまいました。トップとの差は300ポイントあまり離れており、チャンピオンシップの可能性はほぼ断たれた状況です。それでも、持ち前のスピードは健在ですから、ここから残りレースであと何勝できるか、カイルの活躍からはまだまだ目が離せません。

チェイスに入ってアクシデントが連続 安定した走りでチェイス序盤を戦うトニー・スチュワート 自らのキャリアの節目となる3度目のタイトルを目指して
円熟の走りで3度目の戴冠を狙うトニー・スチュワート

 「優勝か、リタイアか」というカイルとは対象的に、毎戦上位フィニッシュを重ねてきたのがトニー・スチュワートです。今シーズンはいまだ未勝利というのはやや寂しいですが、そこは10年目のベテラン。トップ5フィニッシュを9回も記録する安定ぶりで、見事に2年連続4回目の「チェイス」出場を決めました。スチュワートは、もともとオープンホイールレース出身で、1997年にはIRLインディカー・シリーズでチャンピオンになった経歴の持ち主。その後NASCARへと転向し、2002年と2005年の2度カップ・シリーズ・チャンピオンに輝いたのです。

 NASCAR創設60年の歴史の中でも2回以上カップ・シリーズ・チャンピオンとなったドライバーは15人で、現役ではわずかに3人だけ。優勝回数は通算32回。トレードマークともいえるHome Depotのオレンジのカラーリングは今年も健在で、NASCAR史に残る名ドライバーなのです。

 年齢を重ねた今でこそ毎戦安定したスピードを見せるスチュワートですが、つい数年前までは"悪童"と言われるほど、とにかく荒っぽい走りで有名でした。レース中の接触は当たり前で、時には相手ドライバーのピットまで殴り込みに行くほど、とにかく頭に血が上りやすい性格だったのですが、彼のむき出しの闘争心がアメリカ人のNASCARファンには大受けで、シボレーのデイル・アーンハートJr.、ジェフ・ゴードンらのスーパースターに真っ向から立ち向かうNASCARきっての人気ドライバーとなったのです。

 こうした一方で、トニー・スチュワートは若手ドライバーの育成にも積極的で、ステップアップカテゴリーのミジェット・レースに自らのチームを参戦させており、多くのドライバーにレース出場の機会を与えています。残念ながら、デビュー以来所属してきたJGRを今シーズンいっぱいで去り、来シーズンからはシボレーからチームを立ち上げることが決定していますが、トヨタ・ドライバーとして残りのレースで記憶に残る活躍を期待したいですね。

若手の実力派、デニー・ハムリンの切れ味ある走りに期待

 3人目は、米南部バージニア州出身のデニー・ハムリンです。スプリント・カップ参戦4年目とまだ経験は浅いものの、その天性のスピードは折り紙付き。2005年にはスプリント・カップ(当時)デビュー6戦目でいきなりポールポジションを獲得し、ハムリンの名を全米中にとどろかせたのです。参戦2年目の2006年には年間ランキング3位を記録し、ルーキー・オブ・ザ・イヤーを獲得。今シーズンもスピードに優るトヨタ・カムリを巧みに乗りこなし、地元バージニア州で行われた第6戦マーティンスビルで今季初優勝を果たしました。その後は優勝こそなかったものの、スチュワート同様に安定して上位フィニッシュを重ね、ランキング11位となり3年連続の「チェイス」入りを成し遂げました。

 ハムリンは、ふたりのチームメイトとは対象的に、NASCAR最高峰シリーズに来るまでに草の根レースからひとつずつステップアップしてきた苦労人ドライバーでもあります。決して金銭的に恵まれた家庭環境ではなかったのですが、家族が多くの借金をしながらも一丸となってハムリンのレース活動をサポートし続けてきた話はあまりにも有名です。そんな家族の期待にハムリンはコース上で応え、ステップアップカテゴリーで連戦連勝。その活躍がJGRの目に留まり、同チームが行っていたドライバー・デベロップメント・プログラムに選ばれ、2005年についに最高峰ネクステル・カップ(当時)デビューを果たしたのです。苦労人ゆえ、やや地味な存在に見られがちで、個性の強いふたりのチームメイトにやや隠れてしまっていますが、ここぞというときに見せるハムリンのスピードは驚異的で、ライバルたちにも恐れられています。"トヨタ第3の脅威"ハムリンの走りにもぜひ注目してみてください。

デニー・ハムリンは若手らしからぬ落ち着いた走りで勝負
チェイスの流れをつかめば怖い存在に

NASCAR特集 Index
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第1回 NASCARってなあに 第2回 NASCAR人気の秘密
第3回 夢と憧れのスプリント・カップドライバー 第4回 NASCARの聖地、シャーロットを訪ねて その1
第5回 NASCARの聖地、シャーロットを訪ねて その2 第6回 写真で見るNASCARカーの秘密
第7回 2008年シリーズ中盤レビュー 第8回 後半戦の大きな見どころ、The Chaseとは?
第9回 オーバルトラックの秘密 第10回 チェイスを戦うトヨタ・ドライバー
第11回 NASCARを日本で楽しもう 第12回 NASCAR終盤戦、白熱するチャンピオン争い
第13回 チーム・ファクトリー最前線 第14回 トヨタのNASCAR最前線基地、TRD Competition Drive
第15回 2008年シーズンレビュー スプリント・カップ・シリーズ編 第16回 2008年シーズンレビュー ネイションワイド/クラフツマン・トラック・シリーズ編

All photos are courtesy of Toyota Motorsports.