2010年3月 7日(日)配信

2008年NASCAR特集

第14回 トヨタのNASCAR最前線基地、TRD Competition Driveもっと知りたいNASCARの世界 第14回 トヨタのNASCAR最前線基地、TRD Competition Drive

NASCARに革命をもたらしたTRD U.S.A. inc.のエンジニアリング体制

今年の9月にオープンした最新の内容を誇るTRD U.S.A. inc.の新ファクトリー

 2000年、ステップアップ・シリーズのダッジ・グッディーズ・シリーズで、米国発祥ではない自動車メーカーとして初のNASCAR参戦を開始したトヨタは、ついに昨年からNASCAR最高峰であるスプリント・カップ・シリーズへの参戦を果たし、シボレー、フォード、ダッジの米ビッグ3に並ぶ、4つ目のカーマニュファクチャラーとして戦ってきました。そのNASCAR活動をさらに推し進めるために、NASCARプログラムを取り仕切るTRD-USAの最前線基地として、今年9月にまったく新しいファクトリーをNASCARの聖地シャーロットにオープンしました。今回はこの最新のファクトリーをご紹介したいと思います。

TRD-USAの新ファクトリー TRDの大きなロゴのファクトリーの玄関 ディスプレイされているタンドラ
トニー・スチュワートのスーツとヘルメット
リアルタイムで円滑に情報交換ができる会議室
チームではなく、トヨタとしてNASCARを戦うことを実現

 NASCARの世界では、レースカーの開発はメーカーではなく参戦チームが行っていました。そのため、同じメーカーの車両を使っていても、チームの開発費や開発能力の違いによって、完成したレースカーの戦闘力が大きく異なることもよくありました。しかし、TRD U.S.A. inc.がエンジンとシャシーのエンジニアリングを先行して行うことで、同じデータと情報をトヨタの参戦チームが共有することができ、それが結果的に開発スピードを加速させることにつながったのです。

 「TRD U.S.A. inc.の存在は、間違いなく我々トヨタの強みです」とTRD U.S.A. inc.のアンディ・グレイブ・シャシー担当副社長は言います。また、「TRD U.S.A. inc.は、参戦チームへのテスト・リグの提供と、エンジニアリングサポートを主に行っています。こういうサポート体制を採っているのはトヨタだけです」と、グレイブ副社長はTRD U.S.A. inc.の役割と、その革新性をアピールしています。かつてNASCARの常識だった"チームとして"の戦いではなく、"トヨタとして"トヨタの全チームが一丸となって戦うことを可能にしたのが、TRD U.S.A. inc.なのです。

広大な新ファクトリー、その名はTRD Competition Drive

 新ファクトリーは、シャーロットの中心地から約40マイルほど北上したサリスバリーという街の郊外、自然豊かな場所に位置しています。2007年11月に建設を開始し、今年9月に待望のオープンとなりました。この地域は、現在TRD U.S.A. inc.のファクトリーしかありませんが、将来的には合計8つものファクトリーの建設が可能なビジネスパークとして整備されており、全体の敷地は89エーカーと広大です。TRD U.S.A. inc.のファクトリーは、その内の40エーカーを使用しています。TRD Competition Driveと名づけられたこの新ファクトリーはシャシーのエンジニアリングをチームに供給することを主目的としたものです。エンジンの開発は、従来どおりコスタ・メサのファクトリーで行っています。

 TRD という大きなロゴを飾った正面入口からいよいよ新ファクトリーの中に足を踏み入れるとしましょう。正面ロビーの中に入って最初に視野に飛び込んでくるのが、壁に吊り下げられた実際のレース車両のトヨタ・タンドラ。 そのロビー奥には、ガラス張りになっている会議室があります。ここではコスタ・メサのファクトリーとビデオ会議ができる設備が整っており、リアルタイムでいつでも情報交換ができます。ロビーを右側に進むと、十分なスペースのオフィスエリアになっており、この新ファクトリーで働く43人のスタッフが、日夜業務に取り組んでいます。このオフィスエリアの裏側が、いよいよシャシーのエンジニアリングのエリアとなります。

とても広々としたオフィスエリア シンの足回りを開発するためのプルダウン・リグ TRD-USAの秘密兵器、8ポスト・シェイカー・リグ
トヨタ躍進の秘密兵器、8ポスト・シェイカー・リグ

 シャシーのエンジニアリングのエリアでは、整理整頓を第一に考え、開発機器も点在するという感じで一見ガランとした印象を受けるかもしれません。しかし、これもファクトリー内で車体を移動させる必要から、あらゆるスペースを広く取っているためなのです。もちろん、開発機器のひとつひとつは、最新鋭のものを揃えています。

 なかでも注目していただきたいのは、TRD U.S.A. inc.が独自に開発・導入した8ポスト・シェイカー・リグです。この8ポスト・シェイカー・リグとは、試験台の上に置いた車体に油圧シリンダーで力を加えることで、走行中のクルマにかかる力を再現し、サスペンションの動きをシミュレートする装置です。従来、NASCARでは7方向から力を加えてデータを取る7ポスト・シェイカー・リグが一般的でした。しかしTRD U.S.A. inc.は、独自開発により、恐らくNASCARでは初めてといわれる8ポスト・シェイカー・リグを導入し、さらに細かく実際の走行状態をシミュレートできるようにしたのです。まさに、TRD U.S.A. inc.の秘密兵器と言える装置です。

 他にも、新ファクトリーには足回りの開発を行うプルダウン・リグや、コーナリング時の車両の状態をテストできる最新のAVCS(Advanced Vehicle Cornering Simulator)といった装置を導入しています。これらの開発機器は、TRD U.S.A. inc.自身がシャシーのエンジニアリングのために使用するだけではなく、トヨタ系参戦チームが、クルマをTRD Competition Driveに持ち込みさえすれば、いつでも使用できるようになっています。そのため、資金力のないチームでも新たに設備投資をすることなく、競争力のあるマシンでレースに参戦することが可能になったのです。これこそが、TRD U.S.A. inc.が目指す、まったく新しいNASCARへの参戦方法なのです。

 新ファクトリーの稼動から始まった新しいトヨタのNASCARプログラム。シーズン終盤に向けて、"新ファクトリー効果"をご期待ください。

油圧機器 油圧で動いてレースカーに走行中にかかる力を再現 遠隔操作でテストをコントロール

NASCAR特集 Index
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第11回 NASCARを日本で楽しもう 第12回 NASCAR終盤戦、白熱するチャンピオン争い
第13回 チーム・ファクトリー最前線 第14回 トヨタのNASCAR最前線基地、TRD Competition Drive
第15回 2008年シーズンレビュー スプリント・カップ・シリーズ編 第16回 2008年シーズンレビュー ネイションワイド/クラフツマン・トラック・シリーズ編

All photos are courtesy of Toyota Motorsports.