2010年3月 7日(日)配信

2008年NASCAR特集

第7回 2008年シリーズ中盤レビューもっと知りたいNASCARの世界 第7回 2008年シリーズ中盤レビュー

トヨタ・カムリ旋風、スプリント・カップを席捲中

COT完全導入で新時代に突入したNASCAR

 2月中旬にデイトナ500で開幕した2008年のNASCARシリーズ。メジャーレースカテゴリーでは最も多い年間36戦のシリーズも今やほぼ3分の2を消化し、いよいよ終盤戦を迎えようとしています。そこで、今シーズンのNASCARの戦いと、トヨタ勢の活躍を振り返ってみたいと思います。

ジョー・ギブス・レーシング
シーズンを席捲
混戦の様相を呈した開幕戦だったが

 カー・オブ・トゥモロー(COT)という次世代ストックカーが全戦に導入され、ついに新時代に突入した今年の最高峰スプリント・カップ・シリーズ。ダウンフォースが大幅に減少し、より競争性が増したCOTによってNASCARのレース展開は一体どのように変わっていくのか、また、チームとメーカーの勢力図にはどのような変化が現れるのか、開幕前から例年以上の注目が集まっていました。COT以外の大きな動きとして、NASCAR最高のスーパースター、デイル・アーンハートJr.の移籍がありました。偉大なドライバーである父、デイル・アーンハートの忘れ形見として、圧倒的な人気のデイル・アーンハードJr.が新たに加入したチームは、NASCAR カップ・シリーズチャンピオンに現役最多の4回輝いた、現代のミスターNASCAR、ジェフ・ゴードンと、目下2年連続王者のジミー・ジョンソンのツートップを誇るヘンドリック・モータースポーツ。最強のチームにさらに人気ナンバーワンドライバーが加わって、"NASCAR版ドリームチーム"と呼べる陣容が誕生したのです。 「誰がヘンドリックを止めるのか?」 いちばんのライバルであるフォード勢は、ワークスのラウシュ・レーシングが、ボストン・レッドソックスのオーナー、ジョン・ヘンリー氏のチーム参画で体制を強化。「ラウシュ・フェンウェイ・レーシング」へと生まれ変わって、4年ぶりの王座奪還に万全の体制を整えてきました。この2強の戦いぶりに注目が集まった開幕戦デイトナ500では、驚いたことにここ数年不振を極めていたダッジ勢がいきなりの1-2フィニッシュを達成。ニューマシンCOTという不確定要素も重なって、開幕戦の結果からは今年のスプリント・カップ・シリーズは一転、大混戦のシーズンになるものと予想されました。しかし、この予想もシーズン序盤戦であっけなく覆されます。その原因こそ、トヨタの大躍進だったのです。

トヨタ躍進の立役者、ジョー・ギブス・レーシング

 スプリント・カップ・シリーズ2年目となるトヨタ勢は、このオフシーズンにシボレーの強豪チームだった名門、ジョー・ギブス・レーシング(JGR)と契約。2002年と2005年にNASCAR CUPシリーズチャンピオンに輝いたトニー・スチュワート、若手のレース巧者デニー・ハムリンに加えて、強豪ヘンドリック・モータースポーツから移籍してきた速さが売りのカイル・ブッシュというラインアップです。

 カイル・ブッシュはヘンドリック・モータースポーツと今シーズンいっぱい契約を残していましたが、アーンハートJr.を獲得したかったヘンドリックは結果的にカイル・ブッシュを放出。JGRはすかさずカイル・ブッシュを迎え入れ、脂の乗り切ったベテランと、タイプの違う若手成長株ふたりという魅力的な布陣が完成したのです。

 このJGRを迎えたトヨタ陣営は、4チーム10台と大幅に勢力を拡大させて2年目のシーズンに臨むことになったのです。

 「JGRの加入は新参者の我々に想像以上の効果をもたらしてくれた」とリー・ホワイトTRD-USA現社長(当時副社長兼ゼネラルマネージャー)が語るように、JGRの豊富な経験が加わったことでカムリの戦闘力は飛躍的に向上。開幕戦のデイトナ500では、最終ラップまでスチュワートがトップを走行し、優勝まであと一歩まで迫りました。このレースで現地メディアはこぞって「今年のトヨタは違う!」と報道しましたが、トヨタ勢はここから、メディアの予想をはるかに超える活躍を見せたのです。

NASCAR最上位カテゴリーの初優勝
デニー・ハムリンとリー・ホワイトTRD USA副社長兼ゼネラルマネージャー
持ち前の速さのトニー・スチュワート
カイル・ブッシュは現在圧倒的なランキングトップ
まさに連戦連勝! 快進撃を続けるカイル・ブッシュ

 念願の初優勝を達成したのは第4戦アトランタでした。ブッシュがスタートからレースを圧倒し、スチュワートと共に1-2フィニッシュでトヨタの初優勝に華を添えたのです。「トヨタにとって歴史的な1日となった」とジム・オーストTRD-USA CEO(当時)がコメントしたとおり、外国発祥の自動車メーカーとしては54年前のジャガー以来のNASCAR最高峰クラスの優勝という、まさに歴史的な勝利でした。そしてこの優勝を合図とばかりに、この後トヨタがシーズンを制圧していったのです。

 中でもカイル・ブッシュの勢いはすさまじく、優勝に優勝を重ね、ランキングでもトップを独走。オーバルだけではなく、シリーズで2戦あるロードコースをいずれも制し、まさに手がつけられない状態に。「今シーズンは驚異的だよ。トヨタとチームクルーには感謝をしてもしきれないよ」(ワトキンスグレンのトヨタプレスリリースから抜粋)とブッシュ自身もこの快進撃に驚きを隠せないほどです。

 チームメイトのデニー・ハムリンも負けじと第6戦マーティンスビルで今シーズン初優勝を挙げ、未だ未勝利ではありますが安定して上位フィニッシュを続けているスチュワートと共にランキング上位につけています。

 また、JGR以外のトヨタ勢も、苦しい戦いが続いた昨年とは見違えるような走りを見せており、4台が予選シードとなるランキング35位以内につけるなど戦力は確実に向上しています。今シーズンの序盤、強豪ヘンドリックに昨年までの安定感が見られず、フォードのラウシュ勢が出遅れていたこともトヨタの快進撃をいっそう際立たせたと言えます。目下、シリーズ最速マシンとも言われているカムリと共に、今シーズンの話題の中心はトヨタ勢が独占。シリーズ終盤、このところ次第に戦闘力を高め、巻き返しに必死のライバル勢との戦いが大いに注目されます。

ネイションワイド・シリーズでもカムリ旋風が

 ひとつ下のネイションワイド・シリーズと、ピックアップトラックで争われるクラフツマン・トラック・シリーズでもトヨタ勢は好調を維持しています。ネイションワイド・シリーズでは、ブッシュ、スチュワート、そしてハムリンのJGRの3人で、何と終了しているレースの実に半分以上もの優勝を挙げるという驚異的な成績を残しています。同シリーズにはフル参戦していないためシリーズランキングでは上位につけてはいませんが、スプリント・カップ・シリーズ以上にカムリの戦闘力とJGRのチーム力は突出した状態にあると言えます。

 さらに"次代のNASCARスター候補"との呼び声が高いJGRのジョーイ・ロガーノが第16戦ケンタッキーで初優勝。18歳21日での優勝はNASCARの最年少優勝記録となりました。次代のトヨタドライバーの今後の活躍にも注目が集まっています。

 昨年、マニュファクチャラーズタイトルを獲得し、今シーズンは2年ぶりのドライバーズタイトル奪還のダブルタイトルを目指すクラフツマン・トラック・シリーズでは、ベテランのジョニー・ベンソンがシリーズ中盤戦で連勝を重ねランキングトップを奪取。昨年の王者シボレーのロン・ホナデイとの一騎打ちの様相を呈しています、ベンソン&トヨタ・タンドラの走りにもぜひ注目してほしい。

堂々の最多勝
トヨタ・タンドラ
NASCAR特集 Index
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第1回 NASCARってなあに 第2回 NASCAR人気の秘密
第3回 夢と憧れのスプリント・カップドライバー 第4回 NASCARの聖地、シャーロットを訪ねて その1
第5回 NASCARの聖地、シャーロットを訪ねて その2 第6回 写真で見るNASCARカーの秘密
第7回 2008年シリーズ中盤レビュー 第8回 後半戦の大きな見どころ、The Chaseとは?
第9回 オーバルトラックの秘密 第10回 チェイスを戦うトヨタ・ドライバー
第11回 NASCARを日本で楽しもう 第12回 NASCAR終盤戦、白熱するチャンピオン争い
第13回 チーム・ファクトリー最前線 第14回 トヨタのNASCAR最前線基地、TRD Competition Drive
第15回 2008年シーズンレビュー スプリント・カップ・シリーズ編 第16回 2008年シーズンレビュー ネイションワイド/クラフツマン・トラック・シリーズ編

All photos are courtesy of Toyota Motorsports.