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スーパーフォーミュラ 2014年 第2戦 富士 レース1 エンジニアレポート

ピットで作業を行うジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ(Lenovo TEAM IMPUL SF14)

高速コースでもダウンフォースは大事。そのさじ加減が難しい。
逃げ切りを考えたレース1。ドラッグを減らしたセットがピタリと的中
ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ 担当エンジニア 竹林康仁

スーパーフォーミュラの第2戦富士は2レース制。約100kmの超スプリントレースのレース1は、Lenovo TEAM IMPULの19号車がポールポジションから快走、トップを譲ることなく優勝を果たしました。いつもよりかなり短いレースで、Lenovo TEAM IMPULの竹林康仁エンジニアはどんな作戦で挑んだのか? この一戦を語っていただきました

新しいパッケージ、新しいシステムはドキドキする

竹林康仁エンジニアとジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ 第1戦 鈴鹿より
竹林康仁エンジニアとジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ
第1戦 鈴鹿より
 このクルマ(SF14)に関しては、もちろんウチのチームだけじゃないんですが、まだまだ経験値が少ないんです。それでも開幕前に富士で1回テストができていて、開幕後は鈴鹿で実際に1レースありましたから、富士のテストで得たデータをもとに、鈴鹿でのレースで得たデータを加味して持ち込みセット(※1)を決めました。あと少し課題も残っていたので、それは金曜日の走行と土曜朝のフリー走行で少しずつ試していきました。

 課題というのは、以前に走った時に何かトラブルが起きた、とかいうのではなくレギュレーションで使用することが許されたアイテム...基本的には車体メーカーが用意したパーツリストに載っているアイテムを、まだまだ全部は試せていないので、これを少しずつ試していこう、と。
 実際には、些細なトラブルもありましたが、基本的には大きなトラブルもなくここまで来ました。でも新しいパッケージ、新しいシステムなので、トラブルが起きるんじゃないか、とドキドキする部分はありますね(苦笑)。

※1:テストや実戦、シミュレーションのデータを基に、サーキットに行く前に施されるセッティング。これを基本に現場の状況でセッティングを修正していく。

決勝セットは決勝レースをイメージして決める

第2戦 富士 レース1 ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラの走り
第2戦 富士 レース1
ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラの走り
 今大会は2レース制で、特にレース1は距離の短い(約100kmの)スプリントですが、レース距離によってセットが変わるということはないですね。ただ、通常ならば午後、大体2時ごろからスタートするのですが、今日のレース1のように午前中にスタートするレースもあって、そんなケースではコンディション、気温とか路面温度が(午後にスタートするのとは)違ってきますから、そこは考慮してセッティングしますね。それにレース1でスーパーフォーミュラのクルマが走ると、レース距離が短いとはいえ路面のコンディションは大きく変わってきます(※2)。レース2に向けては、それをどう読むのか? も関係してきますね。

 土曜日の公式予選で決勝のスターティンググリッドが決まるのですが、どのポジションからスタートするのか? さらに、(スタート時点では)周りにどんなドライバーがいるのか? (レース中に)どんなドライバーと競り合うのか? 決勝セットは、そういったさまざまなことをイメージしながら決めていきます。

 あと作戦。スタートでトップに立ってそのまま逃げ切る作戦だと、ストレートスピードを稼ぐためにドラッグを少なくしますが、追い上げて行って終盤勝負、となるとある程度ダウンフォースも確保しておく必要があります。
 富士は長いストレートが特徴であり、高速セクションが目立つので、"ドラッグとダウンフォースを削って(※3)"と一般的には思われています。もちろんストレートスピードも重要なんですが、同時にコーナーでもタイムを詰めていく必要があって、そのためにはダウンフォースも大事。その塩梅(あんばい)、さじ加減が難しいですね。

※2:大馬力で高グリップのタイヤを履くレーシングカーが多数走行した直後は、路面にタイヤのゴムがかなり付着し、路面のグリップが何もないときより高くなることがある。
※3:クルマの空力において、ドラッグは空気抵抗、ダウンフォースは空気の流れによって発生する車体を下に押し付ける力を意味する。最高速を求めるにはドラッグは少ない(削る)方が良い。だが、ドラッグを減らすとダウンフォースも比例的に減ってしまい、コーナーのスピードが落ちる。高速コースでは低ドラッグを優先し、ダウンフォースは犠牲にするというのが、基本的な考えだ。

トップチームで戦うプレッシャーは大きいが楽しい

優勝を喜ぶジョアオ・パオロ・デ・オリベイラと星野一義監督
優勝を喜ぶジョアオ・パオロ・デ・オリベイラと星野一義監督
 レース1はポールポジションからのスタートでしたから、スタートからトップに立って逃げ切ることを想定して、ドラッグを少なくしたセットで臨んだのですが、結果的にはその作戦がピタリ的中しました。もちろんレース1の勝因は、やはりドライバー、JP(ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ)のがんばりです。あと、マークしていたアンドレ(ロッテラー選手)がスタートで遅れて、彼の前に彼本来のペースより遅いドライバーが入ったことで、アンドレの実力が出せなかったことにも助けられました。

 実は私、昨年まではJRP(※4)に所属して、全チームのマシンに対してテクニカルアドバイスをする立場でした。フォーミュラ・ニッポン(現スーパーフォーミュラ)がFN09(SF13)を採用した当初からずっとやってきて、これはこれで技術者としてがんばったなぁ、と思うんですが、今年からはTEAM IMPULでレースエンジニアを担当することになりました。現場の人間としては、まだまだリハビリの途中ですが(苦笑)、チームサイドのエンジニアという立場も、やはりおもしろい。もちろん、TEAM IMPULという、強烈に戦っていくトップチームだからプレッシャーは大きいし、責任感だって半端じゃないですよ。でも気が張っておもしろい、と感じています。

 レース1で勝つことができて、ほっとした半面、もうすぐにレース2に向けて気持ちを切り替えているところです(取材はレース1終了直後)。ドライバーやチーム、もちろん星野一義監督と一緒にがんばっていって、最後に笑ってシーズンを終えることができるといいですね。

※4:JRPは日本レースプロモーション株式会社の略称。スーパーフォーミュラ(前フォーミュラ・ニッポン[FN])のレース運営をする会社。

竹林康仁エンジニア 竹林康仁(たけばやし やすひと)
ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ 担当エンジニア

1964年生まれ、高知県出身。「F1を作りたい」と由良拓也氏のムーンクラフトに設計者として入社し、以来ツーリングカーやGT、フォーミュラなどさまざまな分野でエンジニアとして活躍。2008年にJRPにテクニカルアドバイザーとして出向。今年よりIMPULに出向し、トップフォーミュラのエンジニアとして現場復帰した。