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スーパーフォーミュラ 2014年 第1戦(開幕戦)鈴鹿 エンジニアレポート

ピット作業を行うロイック・デュバル(Team KYGNUS SUNOCO SF14)

コンディションの変化に合わせ切れなかった予選。
チーム、ドライバー、そしてトヨタ。全員で勝ち獲った優勝。
ロイック・デュバル 担当エンジニア 山田健二

今季より新型車SF14と直列4気筒2リッター直噴ターボという新エンジンになったスーパーフォーミュラ。開幕戦鈴鹿では、予選でコースレコードが記録され、決勝も好バトルが繰り広げられました。その厳しい開幕戦をTOYOTA Racingが制しました。歴史的な勝利を掴んだKYGNUS SUNOCO Team LeMansの山田健二エンジニアに、レースを振り返っていただきます。

SF14は素性のいいクルマだと感じる

山田健二エンジニアとロイック・デュバル 第3回公式テストより
山田健二エンジニアとロイック・デュバル
第3回公式テストより
 今シーズンはマシンが一新されました。"クイック&ライト"をコンセプトにダラーラ社が製作したシャシーは、確かに軽いことで運動性能がアップしています。鈴鹿の公式テスト(3月3,4日)がシェイクダウンになったのですが、この時から我々のクルマは調子が良くて、素性のいいクルマだと感じました。だから、このテストの基本セットをベースに、今回の持ち込みセッティングを決めました。

 鈴鹿サーキットは低中速コーナーから高速コーナーまで程よくミックスされているし、S字などのようにコーナーが連続するセクションもあるので、セットアップは大変なんですが、今回はすんなりと持ち込みセッティングを決めることができました。

 レースウィークを迎えて、クルマは走り出しから調子が良かったですね。金曜日のフリー走行では主にユーズド(一度走行した)タイヤで走行しました。ニュータイヤは土曜日のためにスクラブ(※1)した程度で、予選をシミュレーションしたような本格的なアタックはしていません(それでも3位を獲得)。
※1:新品のレーシングタイヤは路面と接する部分が滑らかで、路面へのグリップが十分でない。このため1度走ってタイヤと路面を馴染ませる作業をスクラブ(こする)と言う。かつては"皮むき"とも呼ばれた。

決勝はテストで良かったセッティングに戻す

第1戦(開幕戦)鈴鹿 決勝 ロイック・デュバルの走り
第1戦(開幕戦)鈴鹿 決勝 ロイック・デュバルの走り
 土曜日午前のフリー走行1回目では、PETRONAS TEAM TOM'Sの2台に少しタイム差をつけられていましたが、特に心配もしていませんでした。公式予選でトップを獲るポテンシャルはあったと思うのですが、コンディションの変化(気温が低下し、2輪レースもあったなど)に合わせ切れなかった。Q1はまずまずでしたが、Q2、Q3と大事なところでタイムが伸びなかった。セッションの前に少しだけセットをいじったり、ドライバーがアタックラップを3ラップ目から4ラップ目に変更したりしたことが、少し裏目に出た面もあるかもしれませんね。

 それで日曜日に向けては少しセッティングを変更しました。前日はオフのテストで好調だったところをさらに引き出そうと、フロントサスペンションのジオメトリー(※2)を変更していたんです。それを基本となったテストで良かったセッティングに戻すことにしました。そうしたらクルマのバランスが修正されて、フィーリングも随分良くなったみたいです。

 日曜朝のフリー走行2回目でもまずまずの手応えがあり、スタート直前に行われた8分間のウォームアップでは素晴らしい速さ(ただ2人の1分40秒台でトップ)をロイック(デュバル)選手が発揮してくれました。外から見ていると「(搭載燃料を少ない)軽い状態で走ったんじゃないの?」と思われたかもしれませんが、いつものようにユーズドタイヤで燃料も満タンで走っています。あの段階で速かったので決勝は、スタートさえちゃんとできれば勝てるという自信が湧いてきました。
※2:レース用のサスペンションは、複数のロッドとスプリングが細かく調整できるが、その数値の組合せをジオメトリー(図形的配列)と言う。セッティングの基本になる。

突発事態にチームが素晴らしい対応をみせる

優勝を喜ぶロイック・デュバル その裏にはチームの素晴らしい対応があった
優勝を喜ぶロイック・デュバル
その裏にはチームの素晴らしい対応があった
 決勝はセーフティカー(SC)がコースインするタイミングが、ウチのチームにはピッタリでした。それは大きかった。トップの中嶋(一貴)選手は間に合わなかったのかな?(実際SCインの確認をした時にはピット入り口を過ぎていた) ともかくウチにはピッタリでした。こんなこともあるので普段からチーム内でミーティングしていて、燃料のミニマム(※3)を過ぎていたら、SCが入ると同時にピットインさせる、ということは徹底させています。だから今回も、迷わずにピットインの指示が出せたし、ピットもそれに対応して素晴らしい仕事をしてくれました。これが今回の大きな勝因のひとつですね。

 予選で後退して決勝レースは7番手グリッドからのスタートだったんですが、ロイック選手ががんばってくれて、SCが入る前にナレイン(カーティケヤン)選手を抜き、SC後にリスタートしてからジェームズ(ロシター)選手を抜いたことも好結果に繋がりました。そこから先はアンドレ(ロッテラー)選手との戦いになりましたが、終盤にアンドレ選手がトラブルを抱え、一気にトップに立つことができました。

 アンドレ選手のトラブルの原因は分かりませんが、同じSF14とトヨタエンジンだけに、こちらにもトラブルが出るんじゃないか、ととても心配でした(実際はメカニックがフロントタイヤの左右を入れ違えるミスが原因)。1週間前のSUPER GT開幕戦でも、トップを走りながらトラブルで逆転されていますからね(苦笑)。ファイナルラップに入った時に約15秒の大差をつけていましたから、最終コーナーからロイック選手のマシンが見えた時に、ようやくホッとしました。

 今回、好成績を残せたのはチーム全員がオフの間からがんばって良いマシンに仕上げ、決勝レースでもSCがコースインした際の緊急ピットインにうまく対処してくれたこと。もちろん、ライバル以上に良いパフォーマンスを発揮するエンジンを開発してくれたトヨタの開発スタッフの皆さんも。全員で勝ち獲った優勝ですね。

 次戦は5月17、18日、富士スピードウェイで行われます。今回の勢いをそのまま継続して、連勝を目指してがんばります。応援をよろしくお願いします。
※3:開幕戦は250kmのレースで、満タンの90リッターでは走り切れず、1度ピットインして燃料を補給することになる。しかし、数周程度でピットインしては最後にまた燃料が足りなくなる。次の給油で走り切れる限界の燃料の量を"ミニマム"と表現している。コースやドライバー、走り方で異なるが、今回は10周以上と思われる。

山田健二エンジニア 山田健二(やまだ けんじ)
ロイック・デュバル 担当エンジニア

1964年生まれ、静岡県御殿場市出身。子供の頃からレースが好きで、高校生にしてレーシングチームのアルバイトをする。大学では会計の勉強をするが、結局メカニックの道へ。その後、TEAM TOM'Sでエンジニアとなり、2008年マカオGPでは国本京佑選手を優勝に導く。現在はTeam LeMansに所属し、スーパーフォーミュラの8号車を担当する。