スーパーフォーミュラ 2014年 第6戦 SUGO エンジニアレポート
予選で苦戦も、終わってみれば2位入賞
それでも速さが足りなかったため、手放しでは喜べない
中嶋一貴 担当エンジニア 小枝正樹
9月27、28日にスポーツランドSUGOで行われた全日本選手権スーパーフォーミュラ第6戦。決勝レースは2度もセーフティーカーが出る荒れた展開となったが、この混乱を乗り越えて中嶋一貴選手の37号車が2位を獲得。これで選手権ポイントのトップに立ちました。このレースの状況をPETRONAS TEAM TOM'Sの小枝正樹エンジニアに技術的側面から振り返ってもらいました。
オートポリスのデータで持ち込みセットを決める
中嶋一貴と小枝正樹エンジニア
高速コーナーもあり、コースの高低差も大きいと、SUGOのコースはキャラクター的にオートポリスに近いところがあります。だから今回は、第5戦オートポリスで良かった部分を活かして持ち込みのセット(※1)を決めました。SUGOでは事前テストがなくて、SF14を走らせるのは今回が初めてでしたから、基本的には『大体こんなもんだろう』と判断した部分も多いのですが(苦笑)。
そして、前回のオートポリスに続いて、今回のSUGOも燃料リストリクターの規制があったのですが(※2)、それでもガソリン無給油でレースを走りきることは無理。だから最初から、レース中に1回ピットインしてガソリンを補給する作戦でした。(中嶋)一貴君はタイヤのマネージメントが上手く、またタイヤに優しいセットができているので、タイヤ交換に関しては臨機応変に、と思っていました。
※1:これまでのテストや実戦、シミュレーションのデータを基に、サーキットに行く前に施されるセッティング。これを基本に現場の状況で車両チューニングの微調整を施す。
※2:オートポリスではピットの構造上燃料補給ができないため無給油で走れるように、今回のSUGOではコーナリングスピードの抑制など安全性を考慮し、全車の燃料流量リストリクターを10%絞ることになった。最終戦鈴鹿はまた元のサイズに拡大される。
決勝のタイヤ交換は周囲を見て"なし"と決めた
ロイック・デュバルの前で走行する中嶋一貴
スタート直後にアンドレ(ロッテラー選手)とJP(ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ選手)が姿を消す(※3)などレース自体はドタバタしたものとなって、いくつも不確定要素が顔をのぞかせる展開になりましたが、それでも基本的には作戦通りでしたね。2度目のセーフティーカー導入で、突然のルーティンピット(※4)となりましたが、チームはミスなくパーフェクトなピット作業をすることができましたし、一貴君も素晴らしい仕事ぶりでしたね。
ピットインではガソリン補給に加えて、タイヤ交換するかどうかは周囲を見て、結果としてタイヤ交換なしで行こうと判断しました。判断の大きな材料になったのはロイック(デュバル選手)でしたね。彼のチームはタイヤ交換しないような雰囲気があったので、こちらも(彼らに)合わせて行こう、と。結果的には野尻君(野尻智紀選手)に続いてピットアウトできましたから、大正解でした。
今回、エンジニアリングの面では苦労しました。走り始めからアンダーステア(※)に悩まされて、なかなかそれを消すことができませんでしたね。それに予選では、意図していた通りのセットになっていなかった、というミスもありました。だから結局最後までスピードが足りなかった。結果的には2位に入賞することができましたが、雄資君(国本雄資選手)や中山君(中山雄一選手)と同じペースで走ることができなかったし、野尻君について行くこともできなかった(※5)。だから2位入賞でポイントランキングのトップに立ったからといっても、(クルマ的な)問題も残っているから手放しでは喜べないです。
※3:スタート直後の2コーナーで出遅れたロッテラーとデ・オリベイラが接触。ハーフスピンして止まったデ・オリベイラ車をロッテラー車と後続の伊沢拓也選手の車が乗り上げる形で3台がクラッシュ。これで、この3台はリタイヤとなった。
※4:ルーティンとは「繰り返し」という意味で、予定されている繰り返しの仕事を言う。レース用語で「ルーティンピット」と言えば、決勝レースの中で予定していたピットインとその作業を指す。本来は何度もピットインする耐久レースで使われ出した言葉なので「繰り返し」なのだ。
※5:レース後半、トップで逃げる国本のラップタイムは1分07秒後半から08秒前半。一方、給油した野尻選手、一貴は1分08秒後半で推移。国本、中山雄一は無給油のため燃料が少なく車体が軽いこともあってある程度差がつくのも仕方がなかったが、一貴車と同条件の野尻選手との差も徐々に開いたので「スピードが足りなかった」との発言となった。
努力が速さに結びつかず。でもヒントが見つかった気も
トロフィーを掲げる中嶋一貴
SUGOでは速さが少し足りなくて苦労しましたが、それでもレースペースは決して悪くなかったし、朝のフリー走行よりも速くなっていました(※6)。展開的には走り始めのセッションから少しずつセットを詰めて行って速くなっていくのが理想ですが、このところ、進化させようと努力する割に、それが速さに結びついてないレースが続きましたね。そう、こちらが思った(期待した)ほどには速くなっていないんです。その原因がどこにあるのか...。もちろんそれが分かっていればすぐに対処するから解決も早いのですがねぇ(苦笑)。まぁそれでも今回、少しヒントが見つかったような気もするので、次回が楽しみです。
次回、最終戦の舞台となる鈴鹿では、開幕戦の時に良い感じで走れていましたから、あの時の感じに戻っていれば良い戦いができると思います。ただ今回は揃ってノーポイントに終わっていますがアンドレは相変わらず速いと思うし、JPも好調なら間違いなく上位に来ると思います。
アンドレは、こちらが苦労しているところをスイスイ走って好タイムをマークするようなところがあるので(苦笑)、それは(同じチームなので)参考にさせてもらっています。ともかく、走り始めから速く走れるよう持ち込みセットを考えて、予選上位から決勝でも速いレースを展開したいですね。周りがどうのこうのではなく、勝ってチャンピオンを奪い返す(※7)。それが基本ですね。
※6:決勝日午前のフリー走行で一貴は1分08秒220がベスト。決勝レースではベストが1分07秒715で、レース後半はコンスタントに1分08秒台の前半で走っていた。
※7:第6戦を終え、一貴のドライバーズポイントは33点でトップ。2位のデ・オリベイラは29点で一貴とは4点差がある。最終戦でデ・オリベイラや他のライバルが一貴の前でゴールしても4点差を追い付かれなければ、2012年以来のタイトルを手にできる。しかし、一貴も小枝エンジニアも最終戦の2レースを勝ち、実力を示してチャンピオンになりたいということだ。
小枝正樹(さえだ まさき)
中嶋一貴 担当エンジニア
1979年生まれ、岐阜県出身。大学卒業後はレースと無関係の会社に就職するも、子供の頃に見たF1が忘れられず、2007年にTOM'Sへ入社。データ解析のエンジニアを経て、昨年からレースエンジンニアに就任。SUPER FORMULAでは中嶋一貴の37号車を担当している。
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