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スーパーフォーミュラ 2014年 第2戦 富士 レース2 エンジニアレポート

ピット作業を行うロイック・デュバル(Team KYGNUS SUNOCO SF14)

距離の違う2つのレース。だからと言って基本は変わりません。
前戦のピットミスは対策済み。大切なのは同じことしないこと。
アンドレ・ロッテラー 担当エンジニア 東條 力

2レース制で行われたスーパーフォーミュラの第2戦富士。レース2はピットインありの約160kmのスプリントレースで行われました。こちらではPETRONAS TEAM TOM'Sの36号車がポール・トゥ・ウインを決めました。レース1とはセッティングを変えるのか? 前戦に起こってしまったピットワークのミスの対策など、PETRONAS TEAM TOM'Sの東條力エンジニアにレース2を振り返ってもらいました

3月のテストよりダウンフォースを増やして臨んだが...

東條 力エンジニアとアンドレ・ロッテラー 第1戦 鈴鹿より
東條 力エンジニアとアンドレ・ロッテラー
第1戦 鈴鹿より
 富士スピードウェイでは開幕前(3月19〜20日)にテストがあって、そこで調子は良かったんです。でもまだまだ寒い時期のこと。今回は気温も上昇するだろうから、とダウンフォースを多めにして持ち込みのセットを調整しました。ただそれでもダウンフォースが足りなかったみたいで、フリー走行から予選に掛けてダウンフォースを増やしていって、予選の最後、Q3で大きく増やしたら何とかいいバランスになったみたいです。だからそれをベースにレース仕様のセットを組み立てました。

 富士はストレートが長いため、トップスピードがある程度伸びないと勝負にならない。でもダウンフォースを削っただけだとコーナーが遅くなって、これも勝負にならないんです。だからダウンフォースを削る分、サスペンションをいじって、ブレーキング時のスタビリティ(※1)を確保し、加速時のトラクション(※2)を稼ぐようにしています。これをメカニカルグリップ(※3)、特にリアサスペンションのメカニカルグリップが重要で、これが高くないと富士ではセクター3(※4)で差が出てきます。

※1:安定性の意味で、クルマの姿勢や挙動が想定の範囲内で安定している状態を指す。
※2:タイヤが路面に伝える駆動力。たとえ1000馬力出ても、タイヤが空回りしていたら前に進まない。エンジンの特性、サスペンション、空力、タイヤなどのバランス、そしてドライバーの技量で高いトラクションを得て、クルマは加速する。
※3:空力を除いた、クルマのサスペンションなど機械的な能力でタイヤと路面をしっかり接地させること。メカニカルグリップが高ければ、ダウンフォースを減らせ、ダウンフォースに比例するドラッグ(空気抵抗)を減らし、最高速を上げることができる。
※4:サーキットの計時では、コースを2から4つに分けた区間タイムも表示される。各区間のコース特性から、クルマの情況も分析できる。富士は3分割で、最高速の出るストレート後半があるセクター1、2つの高速コーナーがあるセクター2、テクニカルコーナーが多い終盤のセクター3となっている。

ロッテラーも納得。レース2でのセット変更はなし

第2戦 富士 レース2 アンドレ・ロッテラーの走り
第2戦 富士 レース2 アンドレ・ロッテラーの走り
 レース距離が長いか短いかで、例えば車高は変えますが、基本的にレースのセットを大きく変えることはないですね。車高は燃料を満タンにして、満タンというかそのレースなりスティント(※5)を走りきれるだけの燃料を搭載した状態でチェックするのですが、当然スタート時にはガソリンが多い分クルマも重くて、結果的に車高は低くなっています。
 そして、レースも終盤になってくるとガソリンの量も減ってきて車重も少しずつ軽くなるから、結果的に車高も高くなります。だから、(レースの)どの辺りで一番いい車高で走るのか、を考えますね。
 最初から飛ばしていく作戦だったらギリギリまで攻めたセット(車高を最大限に下げる)でスタートすることもありますが、そうなると底付きして磨り板を削ってしまうことになる(※6)から、そこも注意する必要があって...。まぁこの辺りがエンジニアのさじ加減、ですね。

今日は、レース1でアンドレ(ロッテラー)が、ちょっと速さが足りないように映ったかもしれませんが、セクター1(※6)が速くて、セクター2で少し遅れを取っていましたね。でもロイック(デュバル)の後方に後退してしまい、彼もやはり簡単には抜かせてくれなくて。それで、結果的にJP(ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ)を逃がしてしまいました。でもアンドレは総て納得していて、レース1とレース2のインターバルに「何も変える必要はないから」と言っていました。
 実際、スタートで前に出て、そのまま逃げ切ることができました。富士はダウンフォースの関係なのか、意外かもしれませんが簡単には抜けない。ダウンフォースを多くつける分、鈴鹿の方が抜きやすくなる面もあるんです。

※5:スタートまたはピットインから所定の次のピットイン、ゴールまでの走行時間帯を1スティントと言う。
※6:車体と路面の間はクルマの空力性能に直結するので、最低の間隔(最低地上高)が規定で決められている。走行中のクルマの上下動でボディ最下面に付けられた擦り板が規定以上に削れると、この最低地上高が守られていないと判断されてペナルティになる。

次戦も同じ富士。基本セットは今回と変わらない

優勝を喜ぶアンドレ・ロッテラーと舘信秀監督、チームメイトの中嶋一貴
優勝を喜ぶアンドレ・ロッテラーと舘信秀監督
チームメイトの中嶋一貴
 開幕戦では思わぬミス(※7)があってアンドレには申し訳なかったです。でもアンドレは「自分がミスこともあるから」と誰を攻めることもなかった。チームでは、これまでも作業に間違えないように工夫していましたが、今回は更に新しいやり方で同じミスが出ないよう工夫していました。だれがどんなミスをしたのか、個人を追求しても意味がない。大事なことは、そのミスを繰り返さないようにすること。そういう意味では今日のルーティンピット(※8)は完璧でした。

 次のラウンドも同じ富士が舞台。約2カ月のインターバルがあって、さらに気温も高くなるでしょうが、基本セットはこのままでいいと思っています。走り始めから予選のQ3を見据えて走って、決勝でもそのまま逃げ切れる。そんなレースにしたいですね。

※7:開幕戦鈴鹿決勝。ピットインのタイヤ交換でメカニックが前輪の左右を間違えて装着。これが原因でタイヤが本来の性能を出せず、さらに終盤には傷んでしまい、36号車はポジションを下げた。
※8:作戦で決めていた(ルーティン)給油やタイヤ交代をするピットイン。

東條 力エンジニア 東條 力(とうじょう つとむ)
アンドレ・ロッテラー 担当エンジニア

1964年生まれ、北海道出身。バイク好きが高じてトヨタの整備学校に。卒業後はディーラーにメカニックとして就職するが、その近所にあったTOM'Sに転職。素養を見いだされてメカニックからエンジニアとなった。現役時代の関谷正徳氏(TOM'SのSUPER GTチーム監督)のグループA車両なども担当し、これまで多くの勝利、タイトル獲得に貢献している。