スーパーフォーミュラ 2014年 第5戦 オートポリス エンジニアレポート
予選は山本選手のタイムアップに驚かされました。
しかし、それ以外は作戦通り、期待通りのレースでした。
アンドレ・ロッテラー 担当エンジニア 東條 力
スーパーフォーミュラ第5戦オートポリスは、レース距離が220km、決勝レース中の燃料補給は禁止でしたが、タイヤ交換は自由という、通常とは違った形で行われました。この難しい状況を、PETRONAS TEAM TOM'Sの36号車、アンドレ・ロッテラー選手が見事に制しました。ロッテラー選手の今季2勝目を支えた東條力エンジニアにレースの裏側を話してもらいました。
不安だった燃費も決勝前には走りきれる確信に
アンドレ・ロッテラーと東條 力エンジニア
オートポリスでSF14を走らせるのは今回が初めてでした。事前テストはなかったのですが、昨年までにFN09(※1)を走らせていたし、もちろんSUPER GTでも走っていますから、ある程度状況は予想できました。ここは基本的にはダウンフォースが重要となるレイアウトのサーキットなので、ハイダウンフォース仕様のエアロを選びました。
それとタイヤに対して攻撃性が強い、アグレッシブな路面(※2)であるということ。そしてコーナーも高速コーナーが連続するということで、鈴鹿サーキットに近い。だから鈴鹿仕様を基本にして、持ち込みセットを決めました。
今回のレースで特徴的だったのは、タイヤ交換も燃料補給もなく、ノーピットでレースを走りきるというレース・フォーマット(※3)です。ただし、シャシーに関しては特に変わったところはありません。
エンジンに関してマッピングを調整(※4)した程度です。走り始めるまでは燃料が持つのかどうか、不安なところもありましたが、走り込んでいくうちに1分30秒台後半〜31秒台のペースなら走りきれるだろう、と確認できました。でも、それは日曜朝のフリー走行を走り終えてから。タイヤに関しても厳しいだろうとの見方もありましたが、アンドレ(ロッテラー)に関して言うなら、まったく問題なかったようです。
※1:スーパーフォーミュラの前身"フォーミュラ・ニッポン"で2009年から使用された車両がFN09。昨年はシリーズ名称が変更されたため、車両自体はFN09と同じ物だが、型式名称のみがSF13と変更された。
※2:路面はサーキットごとに微妙に違う。オートポリスの路面は他のサーキットよりタイヤが減りやすく、ちょっと無理をすると傷むこともある。この負担の大きさを"攻撃性"と表現している。
※3:決勝や予選のやり方など目に見えるルールを"レース・フォーマット"と言う。フォーマットとは"型式"や"構成"という意味。
※4:エンジンはコンピューターで制御され、スピードやアクセルの踏み方によってどのくらいの燃料をエンジンに送るかをプログラムで決めている。この燃料噴射の量を決めるプログラムの数値表を"マップ(地図)"と言い、このマップを作ることを"マッピング"と言う。今回は220kmを無給油で走るため、所定の燃料で走り切れる最大限のパワーを出す燃費を決めるのに各メーカー、チームが苦労していた。
追う国本選手は燃費がいい走りなので安心できず
国本雄資(P.MU/CERUMO・INGING)と
サイド・バイ・サイドのバトルをするアンドレ・ロッテラー
走り始めからアンドレは良い感じで走っていて、土曜のフリー走行ではトップタイムをマークしています。それも2位以下に大きく差をつけていたので(※5)、少し楽観していたところもあるのですが、予選では思わぬ展開になりました。もちろんアンドレもフリー走行よりも公式予選、それもQ1よりもQ2、Q2よりもQ3とタイムアップして行ったんですが、ライバルの方が上がり代が大きかった。驚かされましたよ。ポールを獲った山本(尚貴)選手(TEAM 無限 SF14)が、フリー走行よりコンマ8秒も速くなっているんです(※6)。どうしたらそれだけタイムアップするのか、教えてほしいくらいです(苦笑)。
レースに関しては、スタートするまでは上位陣すべてがライバルだと思っていましたが、スタートで大勢が決したというか、ポールの山本選手が遅れ、チャンピオン争いの面ではライバルだったロイック選手(デュバル。Team KYGNUS SUNOCO SF14)もスタート直後にアクシデントで後退してしまいました(※7)。
そこで(ライバルは2番手の)国本雄資選手(P.MU/CERUMO・INGING)1人に絞ることになりました。レース序盤から中盤は一進一退の展開になりましたが、国本君が燃費の良い走り方をするのは定評があったから、安心はできませんでしたね。でも終盤になったら少しずつ離れていった。タイヤが厳しかったのかな? ともかく、アンドレは最後までレースをコントロールしてトップチェッカーを受けることになりました。今回もまた、作戦通り、そして期待通りのレース展開になりました。
※5:ロッテラーは予選日午前のフリー走行で、1分26秒854と言うオートポリスで走ったどのクルマより速いタイムを記録したが、1分26秒469を記録したHondaエンジンの山本選手にポールポジションを奪われた。
※6:予選日のフリー走行で山本選手は1分27秒293を記録し、ロッテラーに次ぐ2番手だった。だが、予選Q3では1分26秒469までタイムを縮め、ポールポジションとなった。ロッテラーも予選Q3でフリー走行を上回る1分26秒569だったが、山本選手、国本に次ぐ予選3位だった。
※7:決勝スタートで山本選手はスタートに失敗し、7番手まで落ちた。デュバルは後続車に追突されてクルマの体勢を乱し、最後尾まで落ちてしまった。この時のダメージがあったのか、その後も精彩を欠き、15位とポイント圏外でレースを終えた。
残る2戦を勝ってチャンピオンを奪い返したい
シーズン2勝目を上げたアンドレ・ロッテラーと舘信秀監督
チャンピオン争いは、JP(ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ。Lenovo TEAM IMPUL SF14)とアンドレの一騎打ち(※8)でしょうかね? 彼は次のスポーツランドSUGOで強いイメージがあって、あそこで我々がどうしのぐか。そして最終戦の鈴鹿でどういった展開に持ち込むのか(※9)。その辺りの勝負になると思いますが、できれば残る2戦を両方勝って、チャンピオンを奪い返したいですね。
あと気になったのは今回のレース・フォーマット。ドライバーはもちろんですが、チームでもいろんなトライをしながらレースを戦っていたんです。たまたま思い通りの展開で勝つことはできましたが、実は外から見えない部分ですごいドラマはあったんです。
でも、それがどれだけ、スタンドから見てくれていた観客の皆さんに、そしてテレビで観戦していたファンの皆さんに伝わったかが、ちょっと分かりませんでした。こういうところもスーパーフォーミュラを運営する皆さんに考えて欲しいなと、思います。もちろん我々も協力して、みんなでスーパーフォーミュラを盛り上げていきたいですね。
※8:第5戦を終了してドライバーズランキングのトップは29ポイントでデ・オリベイラ。26.5ポイントのロッテラーが2番手となり、この2人がかなり有利となる。これにトップと5ポイント差の中嶋一貴、8.5ポイント差のデュバル、9ポイント差の石浦宏明までが逆転圏内に思われる。
※9:最終戦鈴鹿は昨年同様に2レース制のレース・フォーマットで行われる。この2レースを連続ポール・トゥ・ウインと完全制覇すれば、18ポイントが得られる。通常のレースは最大11ポイントなので、最終戦は非常に重要な大会と言われている。
東條 力(とうじょう つとむ)
アンドレ・ロッテラー 担当エンジニア
1964年生まれ、北海道出身。バイク好きが高じてトヨタの整備学校に。卒業後はディーラーにメカニックとして就職するが、その近所にあったTOM'Sに転職。素養を見いだされてメカニックからエンジニアとなった。現役時代の関谷正徳氏(TOM'SのSUPER GTチーム監督)のグループA車両なども担当し、これまで多くの勝利、タイトル獲得に貢献している。
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