スーパーフォーミュラ 2014年 第3戦 富士 エンジニアレポート
レースでは常に前を行く中嶋一貴選手をチェックしていた
今後、勝つためには予選も大事。2列目までが第一の目標
平川亮 担当エンジニア 中村成人
前半は中嶋選手にピッタリとついて後半に勝負
平川亮と中村成人エンジニア
レースがスタートしてから終盤に雨が降り始めるまで、ドライコンディションで走っていた時。苦戦していたという訳じゃないけど、前を走っていた(中嶋)一貴選手(※1)に近づいて行ってもなかなか簡単には抜かせてもらえない。そんな展開でしたね。でも「何かワンチャンスあれば抜ける位置にいよう」と平川は、そう思って周回していたみたいです。だから作戦としても、前半は(中嶋選手に)ピッタリとついて行って、後半に勝負。そんな感じでいました。
レース終盤に雨が降り始めてのタイヤ交換に関しては、目の前を行く一貴君がターゲットで、彼がドライタイヤで行くなら、こちらもそのまま。彼がタイヤ交換にピットインしたら、1周だけ、目の前が開くので目一杯プッシュして、次の周にはピットに入れてレインタイヤに交換しようと。ただ一貴君がピットインする前には5秒ほどビハインド(※2)があって、平川がピットアウトした時にもオーダーを逆転することはできませんでしたけどね。
※1:決勝レースで3周目から中盤までは、一貴選手が6番手、その後ろ7番手に平川選手がつけていた。
※2:一貴選手は29周目にピットイン。次の周に平川選手がピットイン。共に15秒程度の作業時間でポジションは変わらなかった。
前回の反省から駆動系やドライビングを見直し
それでも新たな問題も発生
中嶋一貴の背後にピッタリついて走行する平川亮
2戦続けて富士が舞台になりましたが、前回、5月の第2戦では、レースウィークを通しアンダーステア―がなかなか直らない状態だったので、特に駆動系の見直しと平川選手のドライビングによって改善を狙ったのが今回の大きな変更点です。それでも前回、予選は6位とポジション的にはなんとか納得出来た結果でしたが、今回は新たにブレーキにやや不安定な現象が発生してタイムロスがあり、わずかな差ながらQ3進出を逃してしまったのは残念でした。
決勝に向けてはスプリングやサスペンション回りを変更してブレーキ性能の安定向上を狙い、ある程度は改善されましたが、それでもまだまだ満足できるレベルではなかったですね。そこが一貴選手との差を詰めきれなかった原因の一つだったかもしれません。
これからも、8号車のセットやロイック(8号車のレギュラードライバー、デュバル選手)の走りを参考にして、クルマのセットアップだけではなくドライバーも含めて、パフォーマンスを上げて行く必要がありますね。
平川もロイックには大きく刺激されているようです。ロイックだけじゃなく、今回ピンチヒッターで走ったアンドレア(カルダレッリ選手※3)にも刺激されたみたいです。彼は去年もロイックのピンチランナーでレースに出ているし、テストも走って富士では速いことも分かっていましたが、新型のSF14でレースに出るのは今回が初めて。それなのに走り始めるとすぐにトップタイムでしょう。凄いですよね。
※3:ロイック・デュバル選手は、6月11日のル・マン24時間レースのフリープラクティスで、クラッシュに遭遇。大きなケガはなかったが、車両が大破するほどの大きな衝撃に遭遇したため、レース主催者とFIAが1ヶ月の静養を指示したため、今大会を欠場。代役としてカルダレッリ選手が今季初出場となった。
平川の速さを証明するため、クルマをもっと速くする
スーパーフォーミュラ初表彰台を獲得した平川亮
平川は、今回の2位入賞でランキングが4位ですか? まだレースが終わったばかりでポイントの計算もしていないのですが、ランキング上位に進出したとしても、戦い方が変わる訳じゃないですし。レースで勝つためには、やはり予選で上位につけることが必要です。グリッドで言うならせめて2列目(4位以上)。だから決勝の戦い方云々より、まずは予選で2列目までにはいること。それが一番の目標です。
平川亮というドライバーが速さを持っているのは分かっています。しかし、それを証明するためには、クルマをもっともっと速くすることが必要。そのためにも、平川にはがんばってほしい。クルマを速くするためにはドライバーのフィーリングやコメントがとても重要になってきます。
昨年から平川と組んで、今年は2年目。僕はフォーミュラ・ニッポン、スーパーフォーミュラとトップフォーミュラを長いことやってきましたが、2年続けて同じドライバーと組むのは久しぶりなんです。彼とはコミュニケーションもバッチリで、去年は手探りでやっていたところが、今年は一つ一つ手応えを確認しながら次に進めることができる。そうなりましたね。
次回からは新しい仕様のエンジン(※4)になります。新バージョン・エンジンへの期待ですか? ウチに一番いいエンジンが来たらいいですね、というのは冗談ですが(苦笑)。今回の結果を見てもトヨタのエンジンが優位に立っているのは十分証明されています。そして、トヨタのエンジン同士では性能差がないので、そこは特に心配はしていません。ただ、これからもっともっと暑くなるので、ターボ・エンジンには厳しい環境(※5)になります。その辺りに気配りしながらクルマを速くしていきたいですね。
※4:過度な開発競争やコスト増を制限するため、レースエンジンは同じ物を3大会で使用することになっている。このため、第4戦では今季の最初の改良型、スペック2が投入される予定になっている。
※5:ターボは、エンジンの排気を利用してタービンを回し、それにより吸気を圧縮して、排気量以上のパワーを得ている。排気は非常に高温であるため、走行中のターボは極めて高い温度になる。このため通常でも冷却が要になる中、夏場はさらに気を使う必要が合う。
中村成人(なかむら・なるひと)
平川亮 担当エンジニア
1969年生まれ、東京都出身。大学を卒業後にメカニックとなるため専門学校に通い、1993年にTeam LeMansに就職。スーパーフォーミュラの前身、全日本F3000でメカニック、フォーミュラ・ニッポン2年目の1997年からはチーフエンジニアとなり、現在に至る。昨年から平川亮選手の車両を担当する。
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