2018年 LCで挑む新たな挑戦 ― Vol.1 国内テスト
2018年1月12日、東京オートサロン2018で行った、2018年ニュルブルクリンク24時間レース(以下、ニュル24時間)参戦車両と体制発表の裏で、クルマづくりは着々と進められていた。
車両の仕様検討が始まったのは、2017年のニュル24時間が終わった6月。参戦発表を行った頃には何度もサーキットでのテストが行われていたのである。
車両の選定にあたり、2015年から参戦したRCは3年で成果を収め、レースで上位を狙うならRCを熟成という選択もあったが、ニュル24時間の挑戦は『人を鍛える』と同時に『クルマを鍛える』ことが目的であり、市販車の制約を取り払い、理想とするクルマをゼロから作り上げ、ここで得られた知見を自身の血肉とし、他のTOYOTA / LEXUSのモデルにフィードバックするため、LCに将来の市販車への採用を目指す先行開発技術を投入し、鍛え上げることを選んだ。
「市販車開発はコストや法規などにより、やりたいと思った技術もトライできない事が多いのです。レースは市販車から一歩先を行くクルマづくりにチャレンジできることが大きいですね。もちろんチャレンジする上での様々な課題も生まれますが、それを乗り越えていくのはエンジニアの役目です。そしてそこで得た知見を、次は市販車の枠でどう実現させるかという、いい循環をつくることが重要だと考えています」とニュル24時間で果たす役割を、エンジニアリーダーであり、GR商品の開発に関わる、トヨタ自動車社員の緒方は語る。
LCに車両が決まった後、レースのレギュレーションに合わせ、目指すべき車両重量、エンジン、ボディ、サスペンションと言ったような開発目標がいくつも掲げられた。
その中の一つがボディの軽量化である。重さは、走る・曲がる・止まるといったクルマの基本性能すべてに影響する。そのため、レースに不必要な部品の取り外しや、構成パーツ材料置換を行いながら、軽量化と重量の前後バランスを検討していった。
またエンジンは、レギュレーションでパワーの上限もあることから、トルクに振りながらも燃費や環境性能を追い求めるなど、単純にレースを早く走るためだけではなく、市販車に生かすことができるかという観点も加えて仕様が決められていった。
2017年10月初旬には、トヨタ自動車 凄腕技能養成部のメンバーで構成されるメカニックの手により参戦車両が完成。ここまでは想像以上に順調だった。
しかし、シェイクダウンでステアリングを握ったドライバーのリーダー・土屋武士選手は「クルマの印象はとりあえず走る。とりあえず動くと言った状態です。これを仕上げていくのは大変だぞ」と感じたと言う。
また、普段は市販車の走行評価を行う凄腕技能養成部の評価ドライバーからも「試すまでもない、全くクルマになっていない」と厳しい言葉も出た。
チーフメカニックの関谷は「LCは今回、ゼロからのスタートとなります。この活動を始めた成瀬さんがLFAを開発する時の『生みの苦しみ』を痛感したのも事実です。しかし、大変さがあると同時にやりがいも感じています。新たな技術要素もたくさん盛り込んでいるので、チャレンジすることは多いですが、理想はドライバーに『もう1周乗りたい』、『もうピットインですか?』と思わせるようなクルマに仕上げる事です。そのためにはメカニックの経験則、エンジニアのデータ、ドライバーのフィーリングが全てリンクしないとダメです。ドライバーの厳しいコメントに負けていられません」と語り、クルマづくりに意欲を語った。
そんな中、今年はクルマづくりのスピードにも変化が見られた。
「去年と比べるとドライバーのコメントに対するフィードバックのレスポンスの良さ、何を変更した際の進化の幅が大きく、正直ビックリするくらいのスピードでよくなりました。また、ドライバー・エンジニア・メカニックの意志疎通がしやすくなっています」とドライバーの一人である松井孝允選手は去年との違いに気づいていた。
エンジニアとしての顔も持つ土屋武士選手は「何が原因か根拠を探す→改善する→クルマがよくなる→正しいことが見えると進化が早いと言ういいサイクルができたと思っています。この凄さはなかなか言葉で伝えにくいですが、打てばすぐに響くのは当たり前、それが正しいか正しくないかと言ったクオリティも高いレベルに来ている。日本の名門レーシングチームに近いと思います」とチームの成長を感じている。
エンジニアのリーダーである緒方は、「私は設計者でありながら、プロジェクトでは設計に口出しをせず、各担当が能力を発揮できるように、ドライバー・エンジニア・メカニックを繋ぐ“通訳”に徹し、今まで以上に各分野の垣根をなくすことを目指しました。メカニックは実際にモノ作りをしてきた経験則、エンジニアはデータ、ドライバーは実際に乗ったフィーリングと、3つの要素が上手にバランスすることを心掛けていた。それが結果として意思決定やクルマの進化の早さに繋がっていると思っています」とチームがセクションに関係なく、一つの“いいクルマづくり”に向かっていることが、クルマの仕上がりに現れていることを語るように、国内テストではニュルを見据えたクルマづくりが順調に行われていた。
しかし、ニュルブルクリンクに持ち込んだ結果は、日本での評価とは違うものとなった。