2019 Rd.10 RALLY DEUTSCHLAND

WRC 2019年 第10戦 ラリー・ドイチェランド

    WRC Rd.10 ラリー・ドイチェランド サマリーレポート

    サマリーレポート

    ツール・ド・コルスでの敗戦を糧に改善を進め
    WRC復帰後初となる1-2-3フィニッシュを達成

     FIA世界ラリー選手権(WRC)第10戦ラリー・ドイチェランドで、TOYOTA GAZOO Racing WRTは2017年のWRC復帰後初となる、1-2-3フィニッシュを飾った。優勝はオィット・タナック、2位はクリス・ミーク、3位はヤリ-マティ・ラトバラ。これまでポディウムに2人のドライバーが立ったことはあったが、全員が揃って並んだのは初めてである。最後のステージを走り終えたタナックが優勝を果たし、ポディウム占有が決まった瞬間、チームのサービスパークは歓喜の叫び声と、大きな拍手に包まれた。その盛り上がりは過去にない程で、チームの皆が肩を抱き合い、握手を交わし特別な勝利の喜びを分かち合った。

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     振り返って見れば、ひとつ前のターマックイベント、3月の第4戦ラリー・フランス ツール・ド・コルスでは惨敗を喫し、誰もが肩を落とした。最上位はタナックの総合6位。ミークは総合9位、ラトバラは総合10位と、チームにとっては今季ワーストといえるラリーのひとつだった。決して、速さがなかったわけではない。ヤリスWRCは全14本のSSのうち、6本でベストタイムを記録した。それでも下位に低迷した理由は、タイヤのエアー抜けである。タイヤのエアー抜けには原因がふたつあり、ひとつはタイヤそのものが尖った石などにより傷つくパンク。もうひとつは、タイヤが道路の穴や路肩の段差に落ちた際、その衝撃でホイールのリム部分が曲がったり、欠けたりするホイール破損である。そのうち、チームがより重く見たのは、ホイール破損である。

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    さらなる堅牢性向上のためにターマック用ホイールを設計変更

     一般的に、ターマックラリーは、グラベルラリーに比べると路面からの衝撃が少なく、どのチームも軽さをより重視してホイールをデザインしている。いわゆる「バネ下重量」の低減は、運動性能の向上に大きくプラスとなるからだ。もちろん、堅牢性や耐久性も十分に考慮しているが、バランスポイントの設定は非常に難しい。ツール・ド・コルスでホイールのダメージが相次いだことを受け、チームは様々な測定機器を備えるドイツのTMG(トヨタモータースポーツGmbH)に協力を依頼。ターマック用ホイールだけでなく、サスペンション部品の強度、剛性、クリアランスのバランスも徹底的に検証し、設計変更を行った。次なるターマックラリーであるドイチェランドの路面は、コルシカ島の舗装路よりもさらに荒れており、何としてでも強度を高めたホイールとサスペンションで臨む必要があった。開催は5ヶ月先ではあったが、その前にテストを行なうことを考えれば、時間的な余裕は十分とはいえず、チームは設計変更に集中して取り組んだ。

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    難関パンツァープラッテのステージで速さと強さを発揮

     今年のドイチェランドのステージは、レッキの時点でも例年以上に路面が荒れており、ドライバー達は危機感を高めていた。特に、バウムホールダー軍事演習場内での名物ステージ「パンツァープラッテ」および「アリーナ・パンツァープラッテ」は、進行方向が例年と逆になった影響もあったのか、いつも以上にコンディションが悪かった。アスファルトではなく、コンクリートで固めた道は経年劣化により崩れ、その破片が尖った石となって路面に転がる。それを全て避けるのは不可能に近く、タイヤやホイールがダメージを負う可能性は非常に高かった。

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     しかし、その難関パンツァープラッテこそが、今回チームの1-2-3フィニッシュを決定づけるステージとなった。そこまでタナックは首位を守っていたが、総合2位につけるライバルも速く、僅差の戦いが延々と続いていた。しかし、パンツァープラッテの1回目の走行で、ドライバー選手権におけるライバルでもある、総合2位の選手がパンクで順位を大きく落とした。その結果タナックのリードは大きく拡がり、総合2位にミークが、総合3位にラトバラが浮上。その時点で、ラトバラと総合4位の選手のタイム差は0.5秒と僅かで、表彰台の独占は決定的ではなかった。しかし、パンツァープラッテの2本目で、総合4位につけていたライバルがパンク。重圧を跳ねのけたラトバラは、表彰台フィニッシュに大きく近づいた。

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     結果的に、荒れた路面のパンツァープラッテで、チームは1-2-3フィニッシュをほぼ確実にしたといえる。激しいタイムアタック合戦の結果、新設計のホイールはリム部が僅かに曲がったが、破損やエアー抜けはなかった。もしこれが、ツール・ド・コルスと同じ仕様のホイールだったとしたら、空気が抜けていた可能性が高い。結局、競技期間を通して3台ともパンクは1度もなく、ヤリスWRCは安定して高いスピードを保ち続けた。ホイールとサスペンション部品の地道な改善があったからこそ、1-2-3フィニッシュが達成されたのである。

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    全ドライバーが完璧な仕事を遂行し1-2-3フィニッシュを飾る

     しかし、もっとも称賛されるべきは、やはり選手に違いない。ドイチェランドを2年連続で制していたタナックは、序盤自分の感覚とクルマの挙動が完全にはシンクロしないステージもあったが、それを上手く調整しながらトップを守り続けた。速さに加え、対応力の高さがドイチェランド三連覇を呼び込んだといえる。また、ここ数戦は上位を争いながらもドライビングミスによるクラッシュで結果を残せないでいたミークも、素晴らしいマネージメントで難しいラリーを走破。チーム加入後初となる、ポディウムフィニッシュを果たした。

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     加入直後から、ミークの速さはグラベルでもターマックでも傑出していた。しかしほんの僅かなミスがコースアウトやパンクに繋がることが多く、何度も表彰台フィニッシュのチャンスを逃してきた。そこでチームは、今回のドイチェランドに関しては1歩引いた、リスクを極力とらない戦い方を提案。ミークほどの高いナチュラルスピードがあれば、僅かにペースを緩めたとしても表彰台は十分に狙える。そう信じるチームは、ラリー前にミークとミーティングを重ね、今までとは違うアプローチでドイチェランドを戦うことを決めた。

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     ドライバーにとって、スピードを緩めることは、限界で走ること以上に恐怖を感じるものだ。「自分はもっと速く走れる」という気持ちを抑えるためには、大きな勇気が必要である。しかしミークは、勇気を持って抑制が効いた走りを続けた。それでも余裕で総合4位を維持する速さはあり、ミスのない走りが奏功し殊勲の総合2位を獲得した。天性のスピードと安定性が上手くバランスし、ようやく彼のパフォーマンスにふさわしいリザルトが残されたのだ。

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    マキネン代表の電話がラトバラの焦る気持ちを静めた

     前戦ラリー・フィンランドで今季初めて表彰台に立ったラトバラは、ドイチェランドでも壇上の人となった。SSベストタイムを2回記録するなど、速さは十分にあったが、ラトバラはターマックでのドライビング、特にブレーキングを改善しようと悩みながらラリーを戦っていた。その心の僅かな乱れを感じ取ったチーム代表のトミ・マキネンは、SS前後の適切なタイミングで直々に電話をかけ「焦ることはない。リラックスして走れば大丈夫だから」と、ラトバラの気持ちを落ち着かせた。そしてラトバラは、マキネンの精神的なリードによってドライビングに集中し、2戦連続となる総合3位を得たのである。

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    ヤリスWRCでのWRC初出場を果たした勝田は10位で完走

     今回のドイチェランドでは、TOYOTA GAZOO Racingラリーチャレンジプログラムに参加中の勝田貴元も、初めてヤリスWRCでトップカテゴリーに参戦した。ドイチェランドへの出場も、ターマックラリーをWRカーで戦うのも勝田にとっては初めての経験だった。チームがなぜそのような困難な状況を用意したかといえば、将来に向けて経験値を高めるためである。彼が普段乗っているR5カーと、WRカーのヤリスWRCでは、スピードや反応応答性が大きく異なる。また、ペースノートについても大きく変更する必要がある。そういったことを少しでも早く経験し理解すれば、ドライビングの引き出しが一気に増える。それを期待したチームは、絶対に全てのステージを走り切るという課題を与えた。そして勝田は、速く走りたいという欲望をしっかりと抑え込み、堅実な走りで全ステージを走破。レギュラードライバーとのタイム差は決して小さくはなかったが、初のトップカテゴリー参戦で総合10位という上々の結果を残した。そして、結果以上に価値のある経験を4日間で蓄積し、ドライバーとしてのスキルをさらに高めた。

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     ヤリスWRCでの勝田の次なるチャレンジは、10月のWRC第13戦ラリー・スペイン。ターマックとグラベルの両路面を走行するこのミックスサーフェスラリーで、勝田は今回よりも自信に満ちたドライビングを見せてくれるはずだ。

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    WRC 2019年 第10戦 ラリー・ドイチェランド 結果
    順位 ドライバー コ・ドライバー 車両 タイム
    1 オィット・タナック マルティン・ヤルヴェオヤ トヨタ ヤリス WRC 3h15m29.8s
    2 クリス・ミーク セブ・マーシャル トヨタ ヤリス WRC +20.8s
    3 ヤリ-マティ・ラトバラ ミーカ・アンティラ トヨタ ヤリス WRC +36.0s
    4 ティエリー・ヌービル ニコラス・ジルソー ヒュンダイ i20クーペ WRC +58.5s
    5 ダニ・ソルド カルロス・デル・バリオ ヒュンダイ i20 クーペ WRC +1m16.6s
    6 アンドレアス・ミケルセン アンダース・ジーガー ヒュンダイ i20 クーペ WRC +1m46.2s
    7 セバスチャン・オジエ ジュリアン・イングラシア シトロエン C3 WRC +1m56.3s
    8 エサペッカ・ラッピ ヤンネ・フェルム シトロエン C3 WRC +2m02.2s
    9 ガス・グリーンスミス エリオット・エドモンドソン フォード フィエスタWRC +6m22.2s
    10 勝田 貴元 ダニエル・バリット トヨタ ヤリスWRC +8m19.2s

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