Vol03: トヨタのマイスター・成瀬弘に聞く iQ GAZOOバージョンの味

いいクルマは後味がいい だから「また乗りたい」って思うようになる

「新しいトヨタiQ、かなり味付けの余地がありますね」
と、楽しそうに目を輝かせるのは成瀬弘さん。40年以上にわたり、多くのトヨタ車の誕生に立ち会って“トップガン”の異名を取った超ベテランの評価ドライバーだ。
「だから、これからGAZOOバージョンとして味をつけたiQを作るところなんですよ」。
う~む、最初から出てしまったか、「味」という単語。簡単そうに見えて難しすぎるのがクルマの味。では成瀬さんにとって、味って何なんだろ。
「僕は『先味・中味・後味』って言ってるんです。食べ物にたとえるとね、まず店の前で『ここ、旨そうだね』って期待したとするでしょ、それが先味。それで実際に食べてわかるのが中味。食べ終わって『また、ここで食べたいね』とか思わせるのが後味。クルマもそうですよね。『カッコいいなあ、乗ってみたいな』から始まって、乗ってみて『いいじゃん』とか『気持ちいいなあ』とか、いろいろあると思うんですよ。で、降りてから『もっと乗りたいな』とかね。今度のiQがどうなるかも、そこですよね」
その説明、たしかに感じとしてはわかるけれど、なんとなく禅問答みたいでもある。でもクルマは機械だから、どう動くかで出せる味があるとすれば、やはり細部の構造で決まるに違いない。成瀬さん自身、そういう仕事をしてきたわけだし。
「そうなんだけどね、一般のお客さんは、シートの角度がどうとかバネがどうだとか言うわけじゃないんです。たとえばこのクルマを150万円で買ったとして、『ああ、買って良かった』とか、『暮らしの中でこのクルマに足が向いちゃう』とか、そんな気分になるようにしたいわけです。 でも私たち日本のクルマ作りの世界では、なんだか職業病っていうんですかね、みんな寄ってたかってチェックシートみたいなもんがあって、項目ごとに採点しちゃうんですね。だから、どこか5点満点で2点だったりすると、そこを3点とか4点に引き上げることが大切になっちゃう。欠点思考型っていうのかな、何々を埋めなきゃならん、と。それはそれで必要なことかもしれないけど、みんなの意見を最大公約数みたいに入れるから、個性がなくなっちゃうんですよ」
だからこそ誰もが違和感なく乗れるし、品質も良いクルマが作れたような気もするのだが……。
[2008年10月 取材]