SUPER GT 2015年 第7戦 オートポリス エンジニアレポート
微妙な路面温度と途中からの雨
レースに翻弄された38号車が4位となる
トヨタテクノクラフト株式会社
TRDモータースポーツ開発室・車両グループ 清水 信太郎エンジニア
いよいよ大詰めを迎えた2015年シーズンのSUPER GT。九州の阿蘇山麓にあるオートポリスで行われた第7戦は、11月上旬という時期、レース後半に降り出した雨など、タイヤ選択や使い方が難しいレースになりました。一方で、第7戦ではウェイトハンディが前戦までの半分(参戦6戦目までは獲得ポイント×2㎏だったものが、今回は×1kg)となり、車も本来に近いパフォーマンスを発揮できる状況となります。LEXUS GAZOO Racingでは、予選2位からスタートした38号車が4位でチェッカーを受けました。優勝も手が届く位置だっただけに、悔しい展開となった第7戦をTRD(TOYOTA RACING DEVELOPMENT)の清水 信太郎エンジニアに振り返っていただきました。
ライバルとの差は決して大きくない
だが、今回の結果は厳しく受け止めたい
TRDモータースポーツ開発室・車両グループ
清水 信太郎エンジニア
今回もLEXUS GAZOO Racing各チームに熱いご声援をいただき、ありがとうございます。シリーズ第7戦となった今回は、今季3基目のエンジンにコンバートして臨むレースでした。特にトラブルや不具合があった訳ではありませんが、低下した路面温度やレースの"綾(あや)"の部分で振り回されてしまい、3基目のエンジンにとってはデビューレースであったにもかかわらず、表彰台を逃してしまう悔しいレースになってしまいました。今回は、オートポリスのレースの分析と、次回、最終戦への取り組みついて、車両開発やチームサポートを行っているTRDの清水が分析してみました。
今回は、大変厳しい結果に終わりました。それでも事前にやるべきことはすべてやってレースに臨んでいたので、結果は重く受け止めて、次回に向けていろいろとやっていこうと思っています。
決勝では、結果的に2位となりましたが、ポールポジションを突っ走った12号車の速さが目立ちました。予選で、12号車に次ぐタイムをマークして2番手からスタートした38号車も、レース序盤にはテールに喰らいついてがんばってくれましたが、なかなか攻略しきれずにいるうちに、(1号車に抜かれて)後退してしまいました。でも速かった印象のある12号車ですが、決してずば抜けてペースが速かった訳ではなく、タイムにはバラツキがありました。これは遅いGT300を周回遅れにする際のロスとか、ピックアップの問題(※1)とか、いろいろあったと思いますが、それも含めて(12号車と)38号車との差、絶対的なポテンシャルの差は(結果ほどには)大きくなかったと分析しています。
また38号車に関しては一度オーバーランしていて、その際にダストを拾った(※2)ことや、ルーティンのピットインのタイミングが、GT300数台と同じになってしまってタイムロスをしたことも不運でした。でも、雨がぱらつき始めていましたから、ピットイン(のタイミング)の判断は、難しかったと思います。
※1「ピックアップの問題」 消しゴムを使うとカスが出るように、タイヤもレース中に摩耗してカスを出します。ピックアップとは、そのカスを再びタイヤが拾って張り付いてしまうこと指します。ピックアップの状態になると、強い振動が出たり、グリップ力が低下したりして、ラップタイムが落ちてしまいます。
※2「ダストを拾った」 コースの周囲には安全のために砂場や芝生があり、コースには、砂やほこりが風で飛んできたり、コースアウトした車両がコースに戻る際にまき散らしたり、更にタイヤカスも出ます。車が走る走行ラインではそういったダスト(ゴミ類)が飛ばされていますが、追い抜きの際やコースアウトするとダストのある場所を走ることになります。そうしたダストがタイヤに張り付く(拾う)と、グリップが低下します。
十分なパフォーマンスがある3基目のエンジン
リストリクターとウェイトの相関関係は想定通り
惜しくも4位フィニッシュしたZENT CERUMO RC F 38号車
次戦のもてぎで逆転チャンピオンを目指す
テクニカルな部分で何か問題があった、とは思っていませんが、強いて言うならタイヤのグリップダウンにバラツキがあった。これは、一般的には車体側のセッティングの影響も考えられますが、今回に関して言うなら路面温度がミディアムかソフトか微妙なところ(※3)だったり、終盤には時折小雨がパラついたりして、コンディション的に厳しかった、というのが大きいですね。
今回から、今季3基目のエンジンを投入しています。私は車体担当なので詳しいところは言及できませんが、信頼性、パワー、ドラビリ等、予定通りの十分な性能を発揮できたと思います。予選で12号車にポールポジションを奪われてしまいましたが、それはある意味想定通り。レギュレーションの関係で12号車は燃料流量リストリクターが絞られる代わりに搭載ウェイトが軽い(※4)。事前にシミュレーションしたのですが、このサーキットでは(リストリクターを絞られていても)ウェイトの軽いほうが有利なんです。
※3「路面温度がミディアムかソフトか微妙なところ」 タイヤには個々に想定されている温度域(発動温度域)があります。今回は路面温度が低くミディアムでは発動温度域に対して厳しいが、ソフトにするとライフ(グリップの持続)が厳しくなるような微妙な温度域となり、チームではそれぞれのタイヤ選択に悩んでいました。
※4「燃料流量リストリクターが絞られている代わりに搭載ウェイトが軽い」 GT500のウェイトハンディ規定では、ウェイトハンディが50kgを超えると50kg分は燃料流量リストリクターを絞ることで相殺し、50kgを超えた量だけ実際にウェイトを積みます。例えば51kgの12号車はリストリクターを絞って1kgの実ウェイトを搭載。48kgの38号車は通常のリストリクターで45kgの実ウェイトを搭載しました。
最終戦では勝つしかない状況
何よりも不具合やトラブルを出さないようする
LEXUS勢は逆転タイトルを目指して最終戦に臨む
規則があるのでもちろんビッグチェンジはできません(※5)が、最終戦では何よりも不具合やトラブルを出さないようにしていくことです。ただ、9月にもてぎで行ったGTAの公式テストではRC F勢が好調だったし、良いデータも採れています。LEXUS勢はデータを共有していて、特にブリヂストンを使用する5台(5チーム)は、レースでもテストでも、走行が終わったらブリヂストンさんのエンジニアにも来てもらって一緒にミーティングしています。だからその日のうちにデータの共有化(※6)ができています。で、そのデータを利用して確実なレースをキッチリやっていきたいですね。ともかく我々は勝つしかないのですから。
ハンデの無くなる最終戦は、シーズンを通して実力のある車、速い車が上位争いをする事になると思います。それはLEXUSはもちろん、ニッサンもホンダも同じでしょう。そういった面では、(現在、LEXUS勢で最もポイントの高い)38号車は速いし、テストでも速かったから、特に心配はしていないですね。まあ理想を言うならLEXUS勢で上位6位を独占して逆転チャンピオン。これができれば最高ですね。
※5「ビッグチェンジはできません」 GT500クラスではエンジンは年間3基と使用基数が決められており、そのそれぞれに対して機械部分の変更はできません。だから最終戦では制御の部分、つまり様々な電子制御を行うコンピュータのプログラムを見直すことで、エンジンの"改善"と"進化"を行います。
※6「データの共有化」 クルマをセットアップして行く際のデータ、例えばサスペンションをどのように調整したか、などはとても重要でチームの外には出さないのが普通です。しかしLEXUS GAZOO Racing内ではデータの共有化を図っていて、特にブリヂストンタイヤを使用する5チームはブリヂストンのエンジニアも含めてデータを共有します。これによりLEXUS GAZOO Racing全体のレベルを高め、"もっといいクルマづくり"を進めています。