327LAP2022.11.10
痛恨のミスコース!?
2022年のF1日本グランプリは、話題満載のレースとなった。コロナ禍により3年ぶりの開催。史上最多の観客動員数。日本人ドライバーの凱旋帰国。そして何よりも、ホンダエンジンを走らせるM・フェルスタッペンがドライバーズタイトルを決めた。中身の濃いレースだったのだ。だが木下隆之は、あまり話題にならなかった裏の出来事を今回のF1日本GPのMVPにしたいという。それはN・ラティフィの…。
話題盛りだくさんのF1日本グランプリ
2022年のF1日本グランプリは、中身の濃いレースだった。コロナ禍により、久しぶりの開催を多くの観客が待ち侘びていた。鈴鹿飢餓に陥っていた多くのファンが足を運んだことで、史上最多の観客動員数を誇った。そんな中、ホンダエンジンを搭載するM・フェルスタッペンが余裕で優勝。しかも、鈴鹿でドライバーズタイトルを決めた。これ以上ない華やかなレースとなったのだ。
だがその一方で、クスっと思わず笑ってしまうような出来事もあった。
僕がもっとも驚いたのは、ドライバーズタイトル獲得の確信を、チーム関係者の多くが戸惑っていたことだ。M・フェルスタッペンがぶっちぎりで優勝し、僚友S・ペレスが2位。ホンダが1-2を独占した。ポイントランキング上位のC・ルクレールが3位。L・ハミルトンが5位。残されたレースの結果がどうあれ、M・フェルスタッペンの王者は確定した。にも関わらず、ゴール後、例年より少し静かな雰囲気だった。
トップチェッカーのM・フェルスタッペンが、パレードランを終えてピットロードに戻ってくる。「祝チャンピオン」のメッセージを掲げたのだが、本人はキョトンとしている。
「おれ、チャンピオンなの?」
怪訝な表情なのだ。
チームスタッフも同様で、いつもならば派手に祝福するはずのところが、互いに探り合っている。
「本当にチャンピオンなのか?」
「掲示板にはそう書いてあるぞ」
「でも、1点足りないんじゃないの?」
ソワソワしているのである。
「計算したところ、まだチャンピオンは確定していないと思いますよ」
テレビの解説陣も、M・フェルスタッペンのチャンピオン確定を疑っていた。
ゴール後のインタビューで「あなたが今年のチャンピオンですよ」と告げられても、まだキョトン。世界チャンピオンになったにも関わらず、それが確信できないドライバーは前代未聞であろう。
競技規則書では…
というのも理由があった。
レースは雨にたたられ、スタート後にクラッシュが多発した。2周終了時点で赤旗が発動されレース中断。再スタートは小降りになった2時間後。3時間ルールが適用され、スタート時刻から3時間が過ぎた段階でレース終了。本来の53周から28周に短縮されての選手権となったのだ。
これによって、多くの関係者が、選手権ポイントのすべてが加算されることはないと勘違いした。53周のレースが28周になり、本来優勝者に与えられる25ポイントが19ポイントに減る。M・フェルスタッペンはC・ルクレールに対してタイトル確定の8ポイント差をつけることができずに、チャンピオン確定は次戦アメリカグランプリに持ち越されると考えたのだ。
だが、昨年の途中に、競技規則が改訂されていた。
「レースが再開されない場合にはフルポイントは与えられない」としていた慣例ではなく、「レース中断後でも再開されれば、その周回数がどうであれフルポイントが与えられる」に変更されていたのだ。
したがって今回の鈴鹿戦でM・フェルスタッペンは、たとえ28周のレースになってもフルポイントを獲得、正真正銘のチャンピオンになった。だが、多くの関係者がその新ルールを知らなかったために、混乱になったというわけである。
付け加えておくならば、この新ルールも改訂されるようだ。
というのも、この新ルールに照らし合わせれば、数周で赤旗中断、その後再スタートするも数周で赤旗発動、そのままレースが終了した場合でもフルポイントが与えられてしまうことになる。最悪の場合、1周もせずにフルポイント獲得もあり得るわけだ。
その是非に関する議論はここでは避けるが、それはあまりにも…との異議を尊重して競技規則が改訂されるとのことだ。
ともあれ、今年のF1日本グランプリは、トップでチェッカーを受けたドライバーがチャンピオンを確信できず、いつもとは異なる趣の王者確定シーンとして歴史に名を残すことになったのだ。
ある意味で、記録と記憶に残るレースだと言えよう。
コースはどっち?
M・フェルスタッペンのゴール後の珍事件よりも、驚いた珍事がある。ウイリアムズのN・ラティフィがミスコースをしてしまったのである。金曜日の走行開始直後のことだ。
勇躍コースインしたN・ラティフィは、初めての鈴鹿サーキットのレイアウトに戸惑っていた。鈴鹿は世界でも稀な「8の字」型のレイアウトである。立体交差で右回りが左回りになる。その意味ではちょっと複雑である。
N・ラティフィは、シケインを通過するために、おそらくこんな呪文を唱えていたに違いない。
「高速130Rを抜けたら右…、高速130Rを抜けたら右…、高速130Rを抜けたら右…」
確かに高速130Rを抜けたらシケインに向かって右ステアすればメインストレートに戻ってこられる。だから彼はその通りに走った。130Rを抜けて初めて目の前に現れたコースに沿わせるように、右方向にステアリングを切り込んだのだ。
彼の行為は正しい。「高速130Rを抜けたら右…」なのだから。
ただそこはシケインではなく、西コースの周回路だったのである。
鈴鹿サーキットは一周約5.8kmと長い。レースはフルコースで開催されているのだが、場合によっては東コースと西コースに分ける。可動式のパイロンやタイヤバリアで西と東をセパレートさせることで、それぞれをコースとして活用するのだ。
そのための西コース周回路が、塞がれていなかった。だからそこがシケインと勘違いしたN・ラティフィは、ミスコースしたというわけだ。幸運なことに、ミスコース先はパイロンで規制されていたために、東コースに紛れ込むことは免れたが、危ういところだった。こうして僕がここで茶化すことを躊躇わせるような事故になっていたかもしれない。
それにしてもN・ラティフィ選手は、事前にシミュレーター走行してこなかったのだろうか。F1チームには、リアルと遜色ないシミュレーター設備があるという。そこで走り込みコースを習熟し、セッティングを煮詰めてからサーキットインすると言われている。
だが、その報道が怪しいことが暴露されてしまった。もし事前にシミュレーター走行してきたのならば、N・ラティフィがミスコースするはずがないのだ。
実は過去に、鈴鹿でシケイン絡みの珍事件があった…。
それはまだいずれ紹介しましょう(笑)
キノシタの近況
GRスープラGT4で参戦したニュルブルクリンク4時間のリザルトが、TGR-E(TOYOTA GAZOO Racing Europe GmbH)のSNSで紹介されていましたね。嬉しいです。それにしても、この写真だけだとサーキットレースに思えない。紅葉のノルドシュライフェを走るスープラは、ほとんど峠族ですね。