レーシングドライバー木下隆之のクルマ連載コラム

370LAP2024.08.28

「更なる進化を夢見て」

GRスープラGT4が、エボリューション2に進化するようです。2025年仕様として、現行モデルのウィークポイントに改良を加え、さらに戦闘力を高めるようなのです。2023年仕様のGRスープラGT4で戦う木下隆之には、特別な思いがあるに違いありません。

期待した耐久性アップ

GRスープラGT4が、2025年に「EV02」として進化することが発表されました。100台を超えるGRスープラGT4が、世界各地の選手権で戦っています。
僕は、2023年からNLSニュルブルクリンク耐久シリーズとニュルブルクリンク24時間にGRスープラGT4で参戦していますが、世界の強豪が集結するなかでトップ争いを繰り広げるものの、ライバルとの熾烈な戦いを制するのは簡単なことではありません。
ニュルブルクリンクを戦う我々のトーヨータイヤGRスープラGT4は、現在のところシリーズランキングで1位と2位につけています。それが戦闘力の高さを証明しているわけですが、タイヤの性能に助けられているところが多く、一発の戦闘力、とりわけ予選などではライバルの後塵を拝することも少なくありません。耐久レースとはいえ、最近ではスプリント化が激しくなっていますから瞬発力も欠かせないわけで、今回の正常進化は心待ちにしていたところなのです。

GT4規程では、メーカーが開発しFIAに登録された仕様で戦うことが義務付けられています。チームが個別に改良できるポイントは限られています。タイヤ、ブレーキパッド、サスペンションやダンパーなどの銘柄は変更が許されていますが、ブレーキを冷却するためにダクトを新設するとか、あるいはライト類の照度アップといった些細な改造も許されません。ですから、GT4を走らせる世界のチームは、メーカーのエボリューション化に期待しているのです。

トーヨータイヤを履く我々のGRスープラGT4は、そのリザルトが証明するように、戦闘力ではライバルを凌いでいるのですが、ウィークポイントがないわけではありません。2025年仕様のEVO2としてそこにメスが入ったのは朗報ですね。

エンジンの冷却性

まず、エンジン関係の冷却系が進化するようです。直列6気筒3リッターターボエンジンを搭載するGRスープラGT4は、強烈なエンジンパワーを発揮する代償として、高熱を持ちます。レース用のラジエターで対応していますが、それでも温度の異常上昇は抑えられなかったのです。ですから、気温の低い冬場ならまだしも、夏のシーズンには熱ダレによるパワーダウンが避けられませんでした。
僕が戦うニュルブルクリンクは大陸性気候であるために、気温の上がり下がりが激しいのです。日本でいうところの春頃でも、降雪があると思えば気温が25℃を超えることがあるほどです。夏日のレースは戦闘力の低下を確認しています。
冬場であっても、ライバルの背後を追走し、スリップストリームを使うような場面では冷却性が悪化します。それによりパワーダウンの兆候も確認しています。というような反省から、今回の進化メニューには、クーリングシステムの改良がリストされているのです。
エンジンそのものを換装するとか、あらたにチューニングを施すことは大掛かりですが、冷却系の改良であれば、それほど大掛かりな工事にはなりません。コスト的にも有利です。とても賢明なモディファイだと思いますね。

シフトの改良

GRスープラGT4は驚くことに、7速オートマチックトランスミッションが組み込まれています。純粋なレーシングマシンだというのに、イージーなドライブを想像させるオートマチックであることを意外に思うかもしれませんね。市販されるノーマルのGRスープラには、6速マニュアルの設定はありません。オートマチックのみです。そのオートマチックをそのままレース仕様に組み込んでいるのです。
それでも、致命的な足枷にはなっていません。2ペダルマニュアルのような電光石火のシフトは不可能ですが、変速の速さはオートマチックから想像するほど鈍重ではありません。各ギアもダイレクトに動力を伝達するようにロックアップしますから、駆動ロスも最小限です。
ただし、ギアリングには不満がありました。たとえばトップギアの7速は、最高速度260km/h以上でしかマッチしません。BOPでパワー制限されているGRスープラGT4では、ニュルブルクリンクの最長のストレートでも270km/hほどがマックスです。つまり、7速ではほとんど加速せず、かといって6速では回転系の針はレッドゾーンに釘付けです。ちょうどいいギアリングではないのです。それが改良されるとのことです。コーナーによってギアが合う合わないの不具合が解消されるのは嬉しいことですね。
変速スピードにも改良が加えられたと聞きます。

ホイールボルトの強化

僕がとっても嬉しく感じるのは、ホイールボルトの強化です。これまでのボルトは耐久性が乏しく、レース中にたびたび折れるというトラブルに見舞われていました。ホイールボルトが破損するとホイールが外れます。一般的にはクラッシュしますね。運良くガードレールの餌食にならなかったとしても、リタイヤは覚悟しなければなりません。最悪の場合はドライバーが怪我をします。そのホイールボルトに改良が加えられたのは朗報なのです。

ニュルブルクリンクのノルドシュライフェには数多くの難所がありますが、その一つのプラッツガルテンはジャンプ台になっています。しかも着地と同時に右旋回しなければなりません。つまり、ホイールボルトには着地の衝撃と旋回のストレスが同時に加わるのです。その瞬間にボルトが折れることが少なくありませんでした。
それを避けるために僕は、タイムロスを覚悟でジャンプを抑え、着地してからようやく旋回挙動に移行していました。これからはそう労わることをせずに済むのですね。ホイールボルト破損によるリタイヤから逃れられるだけではなく、ラップタイムにも影響すると思われます。

まだまだ詳細な部分で改良を期待したい部分はあります。冒頭で紹介したように、ブレーキダクトの追加も操作系のモディファイも許されませんから、あとはメーカー頼み。チームではつけられないポイントの改良は期待したいところです。ただ、こうして年次改良で戦闘力を高めてくれるのは嬉しいことですね。

キノシタの近況

NLSニュルブルクリンク第7戦が終わり、次戦まではしばしのサマーブレイクです。今回もマシントラブルに泣かされましたが、このオフの時間を利用して、対策してほしいものですね。我々のGRスープラGT4は耐久性だけが取り柄ですので、それさえ確立すれば勝算はあると思っています。

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