レーシングドライバー木下隆之のクルマ連載コラム

371LAP2024.09.11

「エンジェルナンバー」

ただ単に車両を識別するためのゼッケンなのですが、それには深い思いがあるようです。これまでゼッケンで幸運を手繰り寄せてきた木下隆之が思いを語ります。

エースナンバーは?

トヨタが走らせるスーパーGT500のゼッケンは「30番代」が多いようです。
♯36がトムスGRスープラ、♯37もトムスGRスープラ、♯38がセルモGRスープラ、♯39がサードGRスープラですね。板東商会のGRスープラは♯19で、エネオスGRスープラは♯14。そんな例外はあるものの、トヨタは歴代のーパーGT500を30番代で統一しているようですね。
僕が全日本GT選手権(現・スーパーGT)GT500で走らせていたスープラは(この頃はまだGRではなかった…)、♯32番でした。僕が昔は日産契約ドライバーだったから、「23」ではなくひっくり返して「32」がいいよと誰かが勧めてくれたからなのだけど、都合よくそれはトヨタの30番代の公式にあてはまったのです。

日産のエースナンバーは伝統的に「23」です。日産→ニッサン→2と3、だから「23」です。ダジャレのようでもあるけれど、もはや23番は日産のエース号車しか纏うことのできない栄光の番号ですね。
日産の工場には数多くの社員用の送迎バスがありますが、その多くも「23」です。「横浜100 へ・・23」というように、レースマシンではなく、関係車両の登録ナンバーも「23」に拘っているのです。もうこうなると「ダジャレでしょ」などと言えなくなりますね。

全日本ツーリングカー選手権のR31スカイラインGTS-Rは、ゼッケン「24」でした。つまり「23」のエースではなく、その二軍的な立場ですね。確かに最新の最強パーツは23号車から順番に供給されるのがレース界の不文律ですから、戦闘力には差がありました。ですが、あと少しの努力でエース号車に手が届くという意味では、意欲を湧き立てるには都合のいい数字でしたね。

僕はかつて、ニスモが走らせる共石スカイラインGT-Rで全日本ツーリングカー選手権を戦っていたことがあります。文字通りニスモのエース号車だったのですが、スポンサーの希望でゼッケンは「55」でした。せっかく掴んだチャンスだから、心の底では「23」だったら嬉しいのに…と願っていたのです。今の若いファンがあのマシンを見たら、日産のエース号車には思えないでしょう。それでも後年、「あれはいわば23号車ですものね」と言われることがあって、つまり、23番の数字を見せるだけで内容が伝わる、というあたりが数字の力ですね。

かつて全日本F3選手権を戦っていた頃のゼッケンは「32」でした。フォーミュラには縁のなかった日産が本格参戦を始めたこともあり、「23」番は僭越だからとひっくり返して「32」としたのです。ここから出世すれば「23」だぞという強い願いがあったわけです。のちに、そのゼッケンをトヨタに移籍して背負うことになるとは夢にも思いませんでしたね。

人気のあるゾロ目

僕はかつて、ゼッケン「44」のスカイラインGT-Rでニュルブルクリンクに挑戦していました。いまでも破られていない(自らが敗れていない…)、日本人予選総合最高位と総合順位を記録したのですから、験がいいのかもしれません。

ニュルブルクリンク24時間にGT500仕様のスープラを送り込んだ時のゼッケンは「33」でした。「44」のスカイラインGT-Rを走らせたチームがGT500仕様スープラにマシンをスイッチしたわけですが、「44」をそのまま引き継ぐことにはどこか抵抗がありました。そのため、魂はそのままに「33」したわけです。
このスープラも、ニュルブルクリンクで自身最高のサードファーステストタイムを記録しています。決勝中のベストタイムが総合で3番だったのです。残念ながら、総合で3位を走行中に相棒のクラッシュリタイヤにより、日本人初の表彰台の夢が手のひらからポロリとこぼれ落ちてしまいました。その意味では、悲劇の数字であり、そのまま素直に「44」を引き継いでいれば良かったとも感じましたね。
ただ、あの悔しさがあったからそれをバネに今でも走れているわけです。ポジティプに思考するならば、「33」も幸運のゼッケンだったのかもしれませんね。

ゾロ目とは「二つのサイコロを振って同じ目が出ること」から転じて、連勝式の競馬で同じ枠の馬が1着と2着になることをそう呼ぶことになったといいます。目が揃う→揃う目→ゾロう目→ゾロ目です。ですから元々は博打用語だったのですね。という意味でいえば、勝負事でもあるモータースポーツでのゾロ目は縁起がいいことになります。ゾロ目のマシンが多いのはそれが理由かもしれませんね。

ゼッケン「55」で全日本GT選手権に参戦していましたが、運が良かったようで何度か勝利を手にしています。
同じく「55」番の共石スカイラインGT-Rで全日本ツーリングカー選手権でも勝っていますし、自身初のインターナショナルレースである「国際ツーリングカー選手権インターTEC」でも勝利しています。やはり験がいいのかもしれません。

ゼッケン「11」番も縁起がいいですよね。スーパー耐久に三菱ランサーエボリューションで参戦して、とにかく勝ちまくりました。あまりに偉そうな物言いに嫌われそうですが、僕が更新中のスーパー耐久最多勝記録の多くを「11」番のランサーエボリューションで稼いでいるのです。
ポルシエ911やフェアレディZの大排気量マシンが揃うクラス1を相手に、排気量2リッターのクラス2マシンとして史上初で最後の総合優勝をもぎ取ってもいます。そのレースは、コンパクトマシンに向いている仙台ハイランドだったということも幸運でしたし、朝からずっと雨でした。運も見方をしていたのも事実ですから、とても幸運なゼッケンなのです。
ちなみにその年は、前人未到の全戦ポールを獲得し、全戦優勝もしています。「11」ほど幸運な数字はないのかもしれませんね。

スピリチュアルな世界

エンジェルナンバーという概念があるらしいですね。
その名から想像できるとおり、「天使からのメッセージが込められた数字」だそうです。まあ、占いの一種であり、スピリチュアルな世界なのです。
ためしに、今年僕が戦っているトーヨータイヤGRスープラGT4のゼッケンである「71」の意味を検索してみると、ワクワクしてきました。

「あなたが決めたことや、やっていることは正しい」
「高い収入が得られるように、あなたを導いてくれるでしょう」
「投資をしたお金の何倍もの利益を、生み出せるようにしてくれるでしょう」
「あなたのこれまでの努力が、上司や同僚、部下などから高く評価されるでしょう」

まことに都合のいいメッセージが届けられました。
トーヨータイヤは、二台のGRスープラGT4を走らせています。エース号車は「70」ですから必然的にセカンド号車が「71」になったわけで、そこには取り立てて熱い思いがあったわけではなさそうでした。強いていえば「素数だなぁ」くらいのことで、やや寂しく感じていたのですが、ここまで持ち上げてくれるエンジェルナンバーだと聞いて、思い入れが深くなりましたね。

ダジャレからの数字もゾロ目も、あるいはエンジェルナンバーも最終的にはスピリチュアルな世界ですから、信じさえすれば気持ちも高揚してきます。それがきっかけで運動物質のテストステロンも湧いてきます。それが速さに結びつきます。数字と成績には科学的な因果関係はないのでしょうが、精神の浄化という意味では身体機能である運動物質の分泌を促すでしょうから、あながち科学的根拠がないわけではなさそうですね。
なんの思い入れもなかった「71」が輝いて見えてくるようになりました。まさにエンジェルナンバーですね。

キノシタの近況

エンジェルナンバー「71」の次戦は10月19日です。日本人初のシリーズチャンピオンに向けて落とすことのできない一戦なのです。なんか勝てるような気がしてきました。

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