381LAP2025.02.12
「学生スポーツのプロ化について」
学生スポーツの人気が沸騰しているようです。といってもアメリカでの話です。ただ、日本でも密かに盛り上がりつつあるようなのです。大学自動車部がプロ化しているその現状を、自身も明治学院大学自動車部主将だった木下隆之が考察します。
空前の学生スポーツ人気
なぜ、全米学生フットボールの人気はここまで高いのでしょうか。カレッジフットボールは毎年、数十億ドルの広告収入を生み出しています。ESPN(アメリカのスポーツ専用チャンネル)の放送権料は、2026年以降の契約で、6年間で76億ドルだと言われています。日本円にして約1兆2000億円ですから、驚愕の数字ですね。この盛り上がりはスポーツ業界全体に大きな影響を与えています。
たしかに、全米学生フットボール(カレッジフットボール)は非常に人気のあるスポーツです。フットボールだけではなく、アメリカには優れた興行スポーツが存在します。大谷翔平に代表されるメジャーリーグはもちろん、プロバスケットボールやNASCARなど、アメリカンドリームを体現できるスポーツが数多くありますが、学生スポーツで76億ドルを稼ぐなど、日本の常識からすると考えられません。
その中でも、箱根駅伝は学生スポーツとして成功を収めている好例と言えるでしょう。もはや正月の風物詩として、日本中に認知されています。僕は年末年始、実家に帰ってのんびりと正月を過ごすのですが、1月2日は往路、1月3日は復路を観戦するためにテレビに釘付けです。箱根駅伝は単なるマラソンではなく、日本のスポーツ文化や地域経済に大きな影響を与えていると思います。
なぜあれほど感情移入できるのでしょうか。
箱根駅伝に出場するには、関東学生陸上競技連盟に加盟する大学に所属していることが第一条件です。基本的に関東以外の大学は参加できません。大学の日本一を決定する試合であると誤解されがちですが、じつは地方選手権なのです。
箱根駅伝以外にも学生駅伝には、出雲駅伝や全日本大学駅伝があります。
出雲駅伝(出雲全日本大学選抜駅伝競走)は、大学駅伝シーズンの幕開けを告げる大会で、毎年体育の日に開催されます。前年の3位までがシード校となり、残りの13校は各地区学連の推薦チームです。
全日本大学駅伝(全日本大学駅伝対校選手権大会)は、毎年11月第1日曜日に名古屋・熱田神宮から三重・伊勢神宮までの8区間106.8kmで競われます。前年に好成績を残したシード校や全国8地区の選考会を勝ち抜いた代表校、オープン参加の日本学連選抜、東海学連選抜の計27チームに出場資格が与えられます。箱根駅伝、出雲駅伝、全日本大学駅伝の3大会は「学生三大駅伝」と呼ばれています。
なぜ学生スポーツが、あれほど興行として人気なのでしょうか。
個人的な考察ですが、やはり学生ならではの初々しさや、刹那的な瞬間に感じられる感動が大きいのだと思います。プロスポーツ選手ではないせいか、インタビューに対する答えや仕草などが素直です。そして、出場資格は在学4年に限られますから、活躍できる期間が短いということも魅力のひとつかもしれません。箱根駅伝のために大学に入学し、厳しい陸上部のトレーニングを耐え抜き、それでもわずかな差で出場を逃す選手がいます。一方で、出場資格を手にした選手がいて、そこには涙や悔しさ、喜びの爆発があります。つまり、青春そのものなのです。そこに感動が芽生え、興業的な魅力が生まれるのでしょう。
かつては、ラグビー日本一決定戦が正月の風物詩として親しまれていました。社会人王者と学生王者が真の日本一を争いましたが、実力の差が広がり勝負にならなくなったため、その歴史が途絶えてしまいました。アメリカンフットボールも同様に、実業団と学生の実力差が大きくなり大学生チームの出場は取りやめとなりました。
再び箱根駅伝の例を挙げますが、箱根駅伝は社会人と競うことがないため、実力の違いが露わになりません。卒業と共に競技から引退する選手が多く、社会人陸上に挑戦しても成功する選手は少ないようです。つまり、厳然とした学生と社会人の力の差が存在しつつ、それでも箱根駅伝は廃れないということです。これは、興業スポーツは、絶対的な実力とは無縁であることを証明しています。
人気の学生スポーツ
先日、東京オートサロンのトーヨータイヤブースで、グランツーリスモのイベントが開催されました。グランツーリスモの世界チャンピオン、宮園拓真選手に大学自動車部の学生が挑戦したのです。結果から言えば、宮園選手の圧勝でした。彼はいわばプロであり、デジタルネイティブな学生とはいえ、本来はバーチャルではなくリアルな競技に取り組んでいることもあり、当然の結果とも言えるでしょう。
僕が驚いたのは、彼らが着ていたチームウェアに、スポンサーのロゴがプリントされていたことです。実は僕も明治学院大学の自動車部を卒業しているので、自動車部員がどれほど資金的に困窮しているかを理解しているつもりでしたが、時代の流れを痛感しました。今では、企業は学生にも目を向け、スポンサーシップを提供しているのです。
大半は企業側のリクルート対策だと聞きました。体育会自動車部員の属性ははっきりしています。学歴的には大学卒業見込みです。自動車に関してはプロ級とは限りませんが、クルマが好きであることは間違いありません。企業側も優秀な人材を求めてリクルート活動を積極的に行っているわけです。そのために、学生時代からコミュニケーションを求めているのです。
冒頭で紹介した全米学生フットボールや箱根駅伝は興業としての人気がありますが、大学自動車部員のスポンサーシップはそれとは別の人気です。それでも、これほど学生モータースポーツが注目されるようになるとは、自動車部OBとして感激です。
もしかすると近い将来、大学自動車部のリアルなレーストルツメが開催され、プロレースよりも興業的に成功するかもしれません。僕は自動車部OBなので、その知見が役立つと思います。大会運営を今から考えておくべきかもしれませんね。
キノシタの近況
今年のニュルブルクリンク参戦マシンを確認してきました。ドイツはまだ雪深く、サーキット走行はできませんでしたが、3月の開幕戦に向けて着実に体制が整いつつあります。応援よろしくお願いします。