今年のFIA世界耐久選手権(WEC)シリーズ第7戦富士6時間耐久レースが迫ってきた。
開催日時は10月14日から16日まで。シリーズ第3戦ル・マン24時間レースで伝説の幕切れを迎えたトヨタTS050 HYBRIDが、故郷のファンの前で雪辱を期して臨むホームレースである。
昨年までの自然吸気V型8気筒エンジンとスーパーキャパシタの組み合わせに対して、今年のTS050 HYBRIDはV型6気筒ツインターボチャージャーエンジンとハイパワー型リチウムイオンバッテリーの組み合わせ。まったく性格の異なるマシンに生まれ変わった。
燃料流量の規制は昨年より厳しくなったが、ル・マンで記録された決勝中のベストラップタイムは1.2秒向上した。今年の富士でも、TS050 HYBRIDは迫力ある走りを見せてくれるはずだ。
小林可夢偉と中嶋一貴、そして富士の見どころ。
「WECで富士を走るのは今年が初めてなんです」と話すのは、今年からWECシリーズLMP1クラスにTOYOTA GAZOO Racingからフル参戦する小林可夢偉だ。
「ただ今までトヨタは、富士ではいい成績を残しているので、今年のクルマのパフォーマンスからいくと、良い結果が出せそうだなと見ています」
一方、ル・マンの優勝を目前で取り逃がしたチームメイトの中嶋一貴も、「富士は、僕らのクルマに合っているサーキットだと思っているので期待しています。たぶん見ていて、面白いレースになると思います。ル・マンではメーカー間のレースペースの差が小さくて面白いレースでしたが、富士はそれ以上に差が少なくなるはず。そこに食い込んでいって、前につきぬけたいです」と語る。
富士での見どころは、なんと言っても長いストレートでの最高速と第1コーナーでのエネルギー回生+ブレーキングだろう。1トン弱の車体が300km/hを超えるスピードでストレートを駆け抜け、一気に100km/hまで減速する。そのときエネルギー回生が行われてバッテリーへ充電が行われる。
回生されたエネルギーは、コーナーの立ち上がりやオーバーテイク時の加速「ブースト」として用いられる。TS050 HYBRIDはフロントにモーターを搭載する4輪駆動で、その加速は異次元のものである。
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周回遅れの車両を抜きながらも、速く走る技術。
レースの見どころはそれだけではない。実はコース後半、いわゆる第3セクターと呼ばれるテクニカルセクションでもWECならではの闘いを目撃できる。
WECを闘うドライバーの仕事は、ただ速く走るだけではない。できる限り速く走りながら、いかに周回遅れの車両を接触なく抜き、かつラップタイムを落とさないで走るか、そのテクニックが問われるのだ。
さまざまなクラスが混走するWECでは、レース中に必ず周回遅れの車両に追いつく。一般に「トラフィックに引っかかる」と表現される状況である。ダンロップコーナー先、テクニカルレイアウトの第3セクターはトラフィックの生じやすいセクションである。
「ドライバーによっては、ひたすら無線のマイクに向かって面白いことを言うやつ、いますよ。いきなり叫ぶから、何かあったんかなと思ったら、単純にトラフィックに引っかかっている」と小林は笑う。
「言い訳を含めて、『トラフィックに引っかかった、俺が遅いんじゃない!』と。実際、トラフィックに引っかかるとル・マンでは1周3秒、4秒ラップタイムが落ちることがあるんです。タイムだけを見ていたら、『あっ、こいつ何か失敗したな』と思われてしまうので、『そうじゃないよ』とアピールするんです」と中嶋。
レーシングドライバーの孤独。
レーシングカーのコックピットに収まり、サーキットを疾走するレーシングドライバーは孤独に陥る。無線こそつながってはいても、チームから目視できない場所もある。
第3セクターは特にそうだ。ここではトラフィックにひっかかりがちだが、それをチームがすべて把握して理解してくれるとは限らない。理解されていないなと感じたら、孤独に陥ったドライバーは無理をするようになり、往々にしてミスを犯しマシンを壊してしまう。だから、ドライバーとチームの間に築く信頼感は、耐久レースでは大きな要因になるのだ。
中嶋は言う。
「(レースの実戦オペレーションを担当する)TMG(Toyota Motorsport GmbH)は、もともとF1をやっていたチームなので、(タイムが第1という)F1マインド的なところがあったんです(笑)。でも、WECをやって5年目、タイムだけがすべてではない、という雰囲気になってきて、余計なリスクを負わなくてもいいという意味では、ドライバーにとってはすごくやりやすくなりました。でも、かといって、(できる限り速く走れという)プレッシャーがないのもだめなんですけどね」
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大容量モーターとV6ターボが4輪を駆動させる。
第3セクターに進入する際トラフィックに引っかかったら、接触のリスクが高いダンロップコーナーでは無理に抜きにかからず、第13コーナーへの立ち上がり、あるいはその先のプリウスコーナーへ向けての立ち上がりの加速でオーバーテイクするのがセオリーだという。
「ここでの加速はすごいですよ」と小林は言う。もちろん、バッテリーに充電された大容量の電気がモーターを駆動し、V6ターボエンジンの加速をブーストする。フルパワーなら1000馬力以上。その加速力は、TS050 HYBRIDの威力の見せどころである。
「後半戦の中で、一番期待できるレースなんじゃないかなと思うのでレースが楽しみです。TS050 HYBRIDの本当の速さと強さを日本のファンにお見せしたいです」と、中嶋は抱負を語る。トヨタの逆襲を目撃するときがやってきたようだ。
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