11月16日(金)〜19日(日)にかけて、愛知県・岐阜県を舞台に2023年シーズン世界ラリー選手権(WRC)の最終戦となる第13戦「フォーラムエイト・ラリージャパン2023」が開催され、眞貝知志/安藤裕一組(GR YARIS GR4 RALLY DAT)がナショナルクラスで優勝を飾りました。勝田範彦/木村裕介組(GR YARIS JP4-RALLY2)は、競技2日目にリタイアを喫しています。
「人材育成」と「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」の実践を目的に、全日本ラリー選手権に参戦するTGR。2023年は、勝田/木村組がGR YARIS JP4-RALLY2、眞貝/安藤組がGR YARIS GR4 RALLY DATでそれぞれ参戦を続けてきました。チームは全日本ラリー選手権に続くシーズンの集大成として、2台体制でWRCラリージャパンへの参戦を決定しました。
全日本ラリー選手権最終戦を準優勝で締めくくったチームは、ラリージャパンに向けて、3日間におよぶテストを実施。今シーズンのターマック(舗装)ラリーで得た知見を活かし、サスペンションを中心に改良を施しました。ラリースタート前、勝田選手は「テストにおいて様々なパーツを試したことで、ラリージャパンに向けて良い状態に仕上がりました」と笑顔を見せています。眞貝選手も、「全日本ラリー最終戦からもDATにはさらに細かい改良を行っているので、その感触を確かめながら、しっかりと走り切りたいです」と抱負を語りました。
2023年のWRCラリージャパンは、昨年に続き、愛知県と岐阜県にまたがるエリアで開催。舗装された林道を中心に22のスペシャルステージ(SS・タイムアタック区間)が設定され、4日間の総SS走行距離は304.12kmと、昨年よりも走行距離が増えています。晩秋の開催で朝夕の気温が低く、山間部は天候も不安定。さらに路面には落ち葉も敷き詰められており、クルマやタイヤだけでなく、クルーやチームにとってもタフな戦いとなります。また、サービスパークが置かれた豊田スタジアムや岡崎市の岡崎中央総合公園でSSを実施するなど新たな試みも盛り込まれた大会となりました。
11月16日、豊田スタジアムでのセレモニアルスタートに続き、SS1「トヨタスタジアムSSS」で華々しくラリーが幕を開けました。最初に出走した勝田選手がナショナルクラスのベストタイムをマーク。しかし、眞貝選手はジャンプでの着地時にエンジン冷却部品を破損し、リタイアを余儀なくされています。
激しい雨が降ったラリー2日目、勝田選手は滑りやすく危険なコンディションにおいても安定したペースを刻み、2番手以下との差を2分以上にまで拡大するなど、素晴らしい走りを披露します。ところが、長い1日を締めくくるSS9「トヨタスタジアムSSS」において、コンクリートウォールに左リヤホイールをヒット。足まわりのダメージが大きく、ラリー続行を諦めることになりました。
眞貝選手は、メカニックによる車両修復を経て、2日目に再出走。変化の激しいコンディションにおいて、着実にポジションアップを果たし、3日目には堅実な走りでクラス2番手にまで浮上します。最終日のSS18でトップに立った眞貝選手は、クラス2位以下に大差をつけてナショナルクラスを制覇。さらに、ラリー中はDATに関する様々なトライも行い、チームに貴重なデータを持ち帰ることに成功しました。
豊岡悟志(TGR-WRJチーム監督)
全日本ラリー選手権とはレギュレーションが異なるなか、メカニックもしっかり準備して、このラリージャパンに挑みました。今年初めて経験したスタッフは、WRCの舞台で戦う喜びを強く感じたようです。眞貝選手は初日のSSでダメージを受けて、どうなるかと思いましたが、素晴らしい結果に驚いています。勝田選手はとても残念でした。パーツが少ないことは分かっていましたが、そういった状態でラリーに出ることは、クルーに申し訳ない事態になると、あらためて勉強になりました。今シーズンは勝田選手のクルマと眞貝選手のクルマが異なっていたので、それぞれのチームを明確に分けた活動となりました。それぞれがひとつのチームとしてまとまることができたと感じています。今回、スーパーSSやリエゾン区間でも、多くのファンの皆さんが手を振ってくれて、ラリーがこんなに歓迎されるんだと本当に感動しました。1年間、応援ありがとうございました。
勝田範彦(ドライバー)
まず、眞貝選手にはおめでとうと言いたいです。チームとしては今年の集大成として挑みましたが、路面は雨も降って滑りやすく、難しいラリーになりました。今回は僕のミスでリタイアとなってしまい、応援してくださった皆さんには申し訳ありません。かなり滑りやすいコースだったので警戒していたのですが、予想以上に滑ってしまいました。今シーズンは新しいクルマで、慣れるために色々と苦労もありました。その中で知見を積み重ね、日本の道に合う特性やパーツを開発することができました。速いクルマに仕上がった手応えもあります。これまでチームのみんなと苦労してきたので、今回リタイアとなり悔しい結果となってしまいましたが、1年間応援いただき、本当にありがとうございました。
眞貝知志(ドライバー)
3日間通じて雨や雪、落ち葉、低い路面温度が複雑に絡み合ったために、気持ちよく走れるステージがひとつもなかったほどコンディションの厳しいラリーでしたが、リエゾンでもSSでもたくさんの人に応援して頂き、感動しながらラリーを進めることができました。今回は全日本ラリーでは稀な20km超えのSSが何本もありましたが、その中で今シーズンずっとチームの皆さんと続けてきた、DATの制御や冷却の改良が効果を発揮し、何の問題もなく走り切ることができました。初日のスーパーSSにおいてクルマにダメージを負わせてしまったので、自分自身には落第点を付けるべきだと思っていますが、チームの皆さんにクルマをしっかり直して頂き、良い状態で再び送り出して頂けたからこそ、この場所に立っていると感謝しています。また、僕らのクルマの最大の特徴はオートマチックトランスミッションを搭載していることにあります。実戦を舞台に、性能を証明できたことをうれしくと思います。今回の優勝は、チームの皆さん、トヨタの皆さんと一緒に獲得した成果だと考えています。
丸田智(チーフメカニック)
今回はWRCなので、メカニックとしてはコミュニケーションや連携の面で大きな違いがありました。全日本ラリーでは人材育成という意味合いもあり、多くの人数で作業する場合もありましたが、WRCでは作業できる人数が限定されています。その対応として、いつも以上に作業毎に役割を明確にすることで、抜け漏れや遅れなく適切に作業することができました。今年はスタートから本当に変化の多い1年で、22年の知見を活かしながらも、ラリー2とDATという新しいクルマを導入するため、ゼロからのスタートとなりました。ただ、その変化があったからこそ、TGR-WRTからの学びも含め、クルマや人ともに学びの多い1年にすることもできました。1年前と比べると、チーム全員がメカニックとして、大きく成長している実感があります。
山下直人(勝田号エンジニア)
勝田選手のクラッシュの瞬間は観客席から観ていたので、修理すればなんとかなると思いましたが、実際に確認すると、スペアがない部品が損傷してしまっていました。グラベル用パーツを使うなども検討しましたが、残りのSS距離も長く危険と判断し、リタイアすることとなりました。私自身は全日本ラリー選手権第6戦カムイからエンジニアとしてチームに加わるまでラリーの知識はゼロでしたが、この半年間の経験でとても多くのものを得られました。今回のラリーを終えてからも、得られたデータを踏まえて解析を行います。量産車も含め、様々なクルマに対して、もっといいクルマづくりに貢献できるよう、この活動で得られた知見を今後の開発に活かしていきたいと思っています。
坂本祐樹(眞貝号エンジニア)
ラリージャパンには、冷却系、特にDATの温度が大丈夫なのか、事前のテストを重ねて挑みました。初日の夜は、メカニックを含めて全員で一生懸命作業をこなして、2日目に万全の体制でラリーに挑めるように準備しました。スーパーSSではジャンプ台などがあったので、フロント周辺のパーツの用意などを事前にメカニックに依頼しておくべきだったと感じました。DATは、参戦当初は温度も厳しいまま、戦闘力が劣る状態でクルーに乗ってもらうことになりました。ただ、走らせ続けていただいたことでレベルアップし、全日本のクルマとして恥ずかしくない状態でWRCを走れたと思いますし、クルーには感謝しています。今年1年、DATで今までになかったものをやらせてもらいました。開発チームのエンジニアとも活発に交流することができました。いずれ量産車にも活かしていけたらと考えています。
フォーラムエイト・ラリージャパン2023 ナショナルクラス最終結果
1 眞貝 知志/安藤 裕一(GR YARIS GR4 RALLY DAT)
4:07:50.4
2 村田 康介/梅本 まどか(トヨタGRヤリス)
+4:07.2
3 山本 悠太/立久井 和子(トヨタ86)
+11:18.1
4 中山 透/松浦 俊朗(トヨタGRヤリス)
+34:34.7
5 佐々木 康行/松下 和樹(トヨタGRヤリス)
+54:55.4
6 相原 泰祐/萩野 司(ダイハツ・コペン)
+58:33.5
7 堀田 信/川西 晴雄(トヨタGRヤリス)
+1:12:31.6
8 萩原 泰則/原田 晃一(スバルWRX STI)
+1:15:21.0
9 高田 幸治/関本 貴史(トヨタGRヤリス)
+1:47:19.1
10 清水 宏保/保井 隆宏(トヨタ・ヴィッツ)
+1:49:52.7
R 勝田 範彦/木村 裕介(GR YARIS JP4-RALLY2)
参戦13台、完走10台
TOYOTA GAZOO Racingは、「もっといいクルマづくり」のために「人を鍛え、クルマを鍛える」活動の一環としてGRヤリスで全日本ラリー選手権に参戦し、将来の車両開発に活かします。
TOYOTA GAZOO Racingの全日本ラリー選手権(JRC)における活動は、パートナー企業の皆さまによって支えられています。