GR Supra Racing car potential

GRスープラ
レーシングカーとしてのポテンシャル

1978年、セリカの上級モデルとして登場したスープラ。初代(A40/50系)はどちらかと言うとラグジュアリークーペの立ち位置だったが、1981年に登場した2代目(A60系)はその立ち位置をソアラに譲りスポーツ色を徐々に強めていった。1986年に登場した3代目はツーリングカーレースやラリーにも参戦。そして、1993年に登場した4代目(A80系)はトヨタスポーツカーのフラッグシップとして開発。基本性能に徹底的にこだわり、ドイツ・ニュルブルクリンクで鍛えたモデルとしても有名だ。そして2019年、17年の沈黙を破り5代目(A90)が復活した。

この5代目のチーフエンジニアは86のチーフエンジニアも担当した多田哲哉である。
多田はどのようなスポーツカーを作ろうと思ったのだろうか?

「一口にスポーツカーと言ってもジャンルは様々です。1年くらい色々な検討をした結果、『86の兄貴分となるピュアスポーツカーだろう』と。86を出したことで眠っていたトヨタファンの声が本社にたくさん届きましたが、その中で圧倒的だったのが『スープラの復活』でした。特にアメリカ市場からの声は大きかったですね。歴代モデルは必ずしもピュアスポーツではありませんでしたが、現在のGRカンパニーのミッション『レース由来のクルマを作る』からすると、新型スープラはこのベクトルのモデルだろうと」。

クルマの素性はホイールベースとトレッドで8~9割は決まる

歴代スープラから受け継がれたのは「直列6気筒エンジン」と「FRレイアウト」だが、一番のこだわりはどこだろう?
「歴代スープラは狭いながらも後席を用意していましたが、新型は2シーターに割り切ったことです。クルマの素性はホイールベースとトレッドで8~9割は決まります。これまでトヨタはスポーツカーであっても様々な市場要望を盛り込んだ結果、本来のパッケージングを実現できていませんでした。そこでGR スープラは“走り”を最優先するパッケージングを行なった結果、ホイールベース/トレッド比はスポーツカーの黄金比と呼ばれる1.6に近い1.55を実現しています」。

LEXUS LFAも上回る強靭なボディを実現

車体は高価なアイテムは使わずアルミニウム/スチールの骨格構造を採用。しかし、異なる素材同士の接合強度を追及した結果、ボディ剛性は86の約2.5倍、カーボンモノコックを採用するLEXUS LFAも上回る強靭なボディを実現。前後重量配分50:50はもちろん、直列6気筒エンジンを搭載しながらも、86よりも低重心を実現している。
 パワートレインは直列6気筒の3.0Lターボと8速ATの組み合わせである。
「エンジンはラリーカーが参考になりました。アクセルを踏んだ瞬間からフルブーストになってトルクが立ち上がるか? 気難しさはないのに速い……を目指しました。」

レーシングカーに仕立てる事も考慮された設計

このように“素性”にこだわったGRスープラだが、随所にカスタマイズやレーシングカーに仕立てる事も考慮された設計が行なわれている。ちなみに昨年3月のジュネーブモーターショーでノーマルより先にレーシングカー(GRスープラレーシングコンセプト)がお披露目されたが、これにもちゃんと意味がある。

「単なるイメージではなくル・マンLM-GTE規定に則って開発したモデルです。これまで量産車からレーシングカーに仕立てる際に、『ベースでこうしておけばよかった』と思うことばかりでしたが、先にレーシングカーを仕立てることで量産車にもいいフィードバックができました。」

少ないチューニングであってもサーキットを十分楽しめる

「86はエアロパーツなどコスメティックな部分がメインでしたが、GRスープラは、機能の部分に関する仕掛けをしています。これまでチューニングのネックになっていたのは“熱対策”です。エンジン、トランスミッション、デフ、ブレーキをどんなに強化してもクルマ側が対応していなければその能力は活せません。そこで、エクステリアにはダクトをいくつか設けています。また、エンジン/トランスミッション/デフにはオイルクーラー装着の際に必要なドレンを開けていますし、小さいながらもオイルクーラー装着用のスペースも用意しています。つまり、スープラはレーシングモディファイの事を凄く考えた量産車なのです。今までのクルマよりも少ないチューニングであってもサーキットを十分楽しめるはずです。」
確かに量産モデルには音や水の浸入などを考慮し蓋が付いているが、それを外してちょっと工夫をすると各部をクーリングできるような構造になっている。すでに昨年参戦したVLN9のマシンにも採用し、ニュルブルクリンク24時間レースのマシンには、オイルクーラーが装着されている。

今年3月に開催されたジュネーブショーでGRスープラGT4コンセプトが披露されたが、多田は「新しいGRスープラが『カスタマーモータースポーツの事を色々考えている』と言うメッセージの一つになります。このクルマが出る/出ないは置いておいて、GRスープラのカスタマイズの秘密を紐解いていくとこうなる……と言う一例です。私はこのクルマの原型でサーキットを走っていますが、滅茶苦茶面白いクルマですよ。」と語っている。