スポーツ走行ガイド Vol.5 事前整備(走行会前)

サーキットに行く前の点検項目を紹介

これまでのガイドでもご説明したとおり、走行会の前には必ず愛車の点検を行いましょう。事前点検は自分の安全のためだけでなく、一緒に走行する方々の安全のためでもあります。ここでは、サーキットに出かける前の事前整備についてあらためてお伝えします。
走行会はタイムスケジュールがタイトである場合も多く、現地に到着してから慌てて準備や整備を始めると、思わぬ見落としが発生するおそれがあるほか、現地でトラブルが見つかると参加を中止しなければならないこともあります。自宅で事前の整備をしっかりと行い、走行会当日を迎えるようにしましょう。
なお、整備作業の際にはゴーグルや手袋を装着し、ケガややけどなどにも注意しましょう。不具合や不安な箇所がある場合は、お近くのGR Garageや自動車整備工場にご相談ください。

各種点検、整備、交換作業

各種点検、整備、交換作業は適切な工具や装備で、取扱説明書等の指示に従い適切に実施しましょう。

1.油脂類

●エンジンオイル

サーキット走行は、エンジンにとって負荷の高い使用環境です。そのエンジンを保護するためにも、オイルの量と汚れのチェックは必ず行いましょう。オイル量に関しては、油圧の低下を防ぐためにも、指定の範囲内で上限付近まで入れた状態でスポーツ走行することが、一般的に推奨されています。可能な限り、サーキットに行く前には新しいオイルに交換しておきましょう。なお、油量の確認はエンジンを停止して行ってください。走行直後はオイルの温度が高くやけどの恐れがあるため、エンジンの熱が十分に冷めてから確認しましょう。

オイルゲージ

オイルゲージの印の上側が「Hi/High」、下側が「Low」のオイル量になります。サーキット走行の際は「Hi/High」のオイル量が適切。

●冷却水

エンジンオイルと同様、エンジンを冷却するための冷却水(クーラント)も非常に重要な役割を担っています。冷却水は単なる水ではなく、ロングライフクーラント(LLC)と呼ばれる不凍液を薄めて(最低気温により濃度を調整する必要があります)充填してあります。
冷却水は、エンジンブロック内部に設けられた経路を通過する際にエンジンの熱を吸収し、エンジンルーム内に設けられたラジエーターで放熱することによりエンジンを冷却しています。そのほかにも、冷却系統を構成する金属部品内部の防錆や、冬場の凍結を防止する働きをしています。冷却水の劣化や液量・濃度不足は、オーバーヒートや錆の発生や凍結によるラジエーターの破損の原因となるため、リザーバータンクを確認して残量や劣化具合をチェックしましょう。

GR86エンジンルーム内各種補充・交換口

GR86エンジンルーム内各種補充・交換口①冷却水(クーラント)②エンジンオイル③ブレーキフルード④ウォッシャー液

GRヤリスエンジンルームエンジンルーム内

GRヤリスエンジンルームエンジンルーム内各種補充・交換口①冷却水(クーラント)②エンジンオイル③ブレーキフルード④ウォッシャー液

●トランスミッションオイル、デフオイル、T/Fオイル

トランスミッションオイルやデフオイル、T/F(トランスファー)オイル(4WD車両が対象)は、車体の下部を覗き込んで、各部にオイルの滲みや漏れ等がないかを確認しましょう。

GR86のジャッキセット位置

GR86のジャッキセット位置。取扱説明書をご確認のうえ実施してください。 Garageにてご確認ください。

GRヤリスのジャッキセット位置

GRヤリスのジャッキセット位置。取扱説明書をご確認のうえ実施してください。

下まわり点検の際にジャッキアップを行う場合は、地面が固く平らで安全な場所で行ってください。マニュアル車はシフトレバーをR、オートマチック車はPにし、パーキングブレーキをしっかりとかけましょう。また、FRの後輪をジャッキアップする際には、安全のために前輪に輪留めを装着しましょう。車両を持ち上げるためにガレージジャッキを使用する場合は、正しい位置にガレージジャッキをセットしてください。クルマの下にもぐり込む場合は、必ずジャッキスタンド(うま)を使用し、安全に注意しながら点検を実施してください。ジャッキスタンドの位置も、ガレージジャッキと同様にボディサイド下部にあるジャッキアップポイントに正しくかけてください。

主なオイル漏れ確認ポイント

ジャッキアップして覗きこんで確認する際は車両の底面の上記の箇所を目安にオイル漏れや滲みが無いか点検する。

2.ブレーキ類

●ブレーキパッド

ブレーキパッドの残量(最薄部)を目視で確認しましょう。ブレーキローターの回転方向から摩耗しやすくなる傾向があるため、ブレーキキャリパーが進行方向前側に付いているクルマは上側から、進行方向後ろ側に付いているクルマは下側から薄くなっていくので参考にしてください。パッドウェアインジケーターがブレーキローターと干渉して異音が発生したり、メーター内にあるブレーキのウォーニングパイロットランプが点灯する場合も、交換の目安と言えます。
ブレーキパッドの交換には専用工具が必要な場合も多いため、十分な残量があることを確認してから走行会に臨みましょう。走行当日もこまめに残量を確認するだけでなく、万が一の場合に備えて予備を持っていくことをおすすめします。

タイヤを外した状態

タイヤを外した状態で、ブレーキローターとブレーキキャリパーの隙間からブレーキパッドの消耗度合が確認できる(黄色点線枠内)。画像はGRヤリス。

●ブレーキローター

ブレーキローターは、摩耗具合やひび割れ、変型が発生していないかを確認しましょう。ブレーキを踏んだ際に振動が出る場合には歪みが発生していることがあるので、お近くのGR Garageや自動車整備工場で点検を行ってください。

スポーツ走行ガイド Vol.4 1,ブレーキ/ブレーキローターへ

●ブレーキホース

サーキット走行では、特に高温環境下での使用に伴ってブレーキシステム全体に大きな負担がかかります。その中でもブレーキホースは、ブレーキフルードの油圧をブレーキキャリパーに伝える重要な役割を担っており、万が一破損した際には最悪の場合ブレーキが効かなくなる恐れがある部品です。ホース本体の変形、接合部からのフルード滲みなどがないか確認してください。スポーツ走行を実施する頻度によっては、外観上で問題がなくとも内部でゴム部の劣化が進んでいる場合もあるので、2〜3年ごとに定期交換することをおすすめします。

スポーツ走行ガイド Vol.4 1,ブレーキ/ブレーキホースへ

●ブレーキキャリパー

ブレーキパッドをブレーキディスクに押し付けるブレーキキャリパーは、ブレーキング時に大きな熱を発生します。前輪であれば、タイヤを外した際にステアリングを切り、内側も異常がないか確認を行ってください。ブレーキフルードのエア抜き後は、ブリーダープラグが規定トルクで締められているかもチェックしましょう。ブリーダープラグは錆びが進行すると固着したり折れたりするので、その状態も合わせて確認が必要です。なお、ブレーキキャリパー本体も熱にさらされることで劣化していきます。サーモラベル(温度を測るためのシール)を貼ったり、キャリパー塗装面の変色などを確認し、温度管理にも気を配りましょう。

スポーツ走行ガイド Vol.4 1,ブレーキ/キャリパー

GR86のブリーダープラグ

GR86のブリーダープラグ。ブレーキフルードの漏れや滲みが無いか、規定トルクで締結されているか確認。

●ブレーキフルード

ブレーキシステムを作動させるための油圧を伝えるブレーキフルードは、熱の影響を受けて劣化していきます。エンジンルーム内のリザーバータンクで汚れや残量をチェックしましょう。スポーツ走行の際には、ブレーキフルードが沸騰することで気泡が生じ、ブレーキの効きが甘くなってしまう現象(ベーパーロック現象)が発生します。その場合には『エア抜き』という作業が必要となるため、お近くのGR Garageや自動車整備工場で点検を行ってください。

ブレーキフルード

ブレーキフルードはブレーキの効き具合や感触のほか、エンジンルームのリザーバータンクで色による目視の確認も実施。

3.締結

●全般

クルマは多くのナットやボルトが装着されていますが、スポーツ走行で大きな負荷がかかると緩んでくる場合があります。特に、ブレーキまわりやシャシー周辺の緩みは重大な事故につながるリスクがあるため、こまめに確認をするようにしましょう。部位によって最適な締め付けトルクが異なるため、整備書を確認するか、GR Garageなどに相談をしましょう。走行前にはボルトに合いマークをつけておくと、緩みをチェックできて便利です。

アイ(合い)マークの例

アイ(合い)マークの例。トルクレンチなどの工具を使用せず、目視だけで締結を簡易に確認できる。

●ホイールナット

ホイールナットはタイヤ交換などで脱着頻度が高く、走行中に外れてしまうと大きなトラブルに直結します。自分だけでなく周囲にも危険を及ぼすため、きちんと規定トルクで締まっているかを確認しましょう。
プリセット型のトルクレンチは “カチッ”と音がして設定トルクに達したことを知らせてくれる便利な工具ですが、何度もカチカチと音を鳴らして締め込んだりするとボルト破断などのトラブルを招くこともあるので注意しましょう。なお、取り付けの際にはホイール接地面やボルト部分などの清掃も同時に行いましょう。

GR86のホイールナット締結順

GR86のホイールナット締結順。

GRヤリスのホイールナット締結順

GRヤリスのホイールナット締結順。

●足まわり部品

クルマの「走る」、「曲がる」、「止まる」を担うシャシーや足まわり部品の緩みは、重点的にチェックを行いたいところです。時に縁石などの衝撃を受け止める足まわりには大きな負荷がかかるため、ナックルやアーム類、ダンパーの取り付け部など、緩みがないか確認を行いましょう。
大きなボルトは規定トルクも高く、個人で作業が難しい場合は、お近くのGR Garageや自動車整備工場に相談をしましょう。

GR86フロントブレーキ部のナックル、ハブ、ロアアームの装着位置

GR86フロントブレーキ部のナックル、ハブ、ロアアームの装着位置。

GRヤリスリア部のトレーリングアームの装着位置

GRヤリスリア部のトレーリングアームの装着位置。

●その他

足まわり関連以外にも、バッテリーまわりやエンジンマウントボルトの緩みなどもトラブルの原因となります。バッテリーは端子の緩みだけでなく、ステーの締め付けトルクも確認しておきましょう。エンジンマウントは、エンジンをクルマのボディに取り付け、振動を防ぐ役割を担います。このボルトが緩むと、エンジンの振動がひどくなるだけでなく周辺の機器にも影響を及ぼすため、異常を感じるようなことがあれば点検を受けてください。

GR86のバッテリー搭載はエンジンルーム助手席側

GR86のバッテリー搭載はエンジンルーム助手席側。

GRヤリスのバッテリー搭載位置はラゲージルーム(中央)のデッキボード下

GRヤリスのバッテリー搭載位置はラゲージルーム(中央)のデッキボード下。ただし、バッテリーがあがってしまったときは、エンジンルーム内にある救援用端子を使用。詳しくは取扱説明書を参照。

4.脱落、ガタつき

●外装部品

スポーツ走行では、高速走行で縁石を乗り越えたりする衝撃や予想以上の風圧で、外装部品に想定外の力がかかることもあります。特にバンパーやミラー、スポイラー類などは、走行前に軽く揺すって取り付け状態をチェックしましょう。

●足まわり部品

スポーツ走行によって足まわり部品にかかるストレスは、通常走行とは比べものにならないほど高いものです。サスペンションとタイヤをつなぐハブベアリングやロッド類などにもガタつきがないか、揺らして確認してみましょう。
ハブベアリングは、スポーツ走行を行う際にガタが出ていないかジャッキアップした状態で軽く縦に揺らしてチェックし、振動やガタが出ている場合は、点検のうえ交換することを推奨します。また、ステアリングラックとタイロッドエンドは、タイヤを横に揺らすことで緩みやガタのチェックを行うこともできます。

5.その他

●タイヤ

スポーツ走行の際には、タイヤの空気圧チェックと溝の残りを確認し、サイドウォールやトレッド面にキズやひび割れ、損傷がないかを確認しましょう。空気圧は、走行を重ねるごとに刻一刻と変化します。まずは、自宅にて指定空気圧がしっかり入っているかどうかを確認してください。また、サイドウォールは外側だけでなく、内側部分も確認するようにしましょう。

●マウントパーツ関連

車体には、制振・防振を目的としたゴム製のマウントパーツ(ゴムブッシュ)が多数装着されています。足まわりを構成するアーム類の多くはゴムブッシュを介して接続されており、ゴムブッシュが劣化や破損したりすると、乗り心地が悪化したり操縦性にも影響を及ぼします。なかでもマフラーハンガーマウント、エンジンマウント、サスアームブッシュなどはサーキット走行の熱や振動の影響で劣化しやすいマウントパーツであり、走行の準備段階で点検を行い、ゴム部分の亀裂や劣化がある場合には交換することをおすすめします。

●ドライブシャフト

ドライブシャフトは、駆動力をタイヤに伝達する重要なパーツのひとつ。点検時にはシャフト部分を揺すって、ジョイント部のガタがないかを確認しましょう。ブーツ部分の破れ、グリスの漏れ、異音や振動が出ている放置すると、シャフト自体の破損につながります。ドライブシャフトが破損すると走行不能となるため、異常を感じた時は必ずGR Garageや自動車整備工場で点検を受けて下さい。

スポーツ走行ガイド Vol.3 2.パワートレインへ

タイロッドエンドも常に適正トルクを保つようにトルクレンチによる「増し締め」が必要。

GRヤリスのドライブシャフトブーツ例。

6.まとめ

スポーツ走行は、一般的な公道を走る時よりもクルマ全体に大きな負荷がかかります。トラブルを未然に防ぐためにも、特にエンジンや駆動系、サスペンションなどの事前点検をしっかりと行いましょう。
たとえば、サーキットへの往復時には、音楽を止めてクルマの声に耳を傾けてはいかがでしょうか。日常の運転でも、ステアリングやアクセル・ブレーキから伝わる感触や音、匂いなど、五感をフルに活かして愛車の状態を把握し、違和感がないか、常に観察する癖をつけ、安全にスポーツ走行を楽しみましょう。

※本ガイドは一般的なスポーツ走行に関するルールや注意事項であるため、事故を完全に防げるとは限りません。
運転者は常に自らの責任で周囲やご自身のクルマの状況を把握し、安全にスポーツ走行をお楽しみください。