年秋の恒例イベントとしてすっかり定着した「トヨタモータースポーツフェスティバル 2010(TMSF)」が、11月28日(日)、静岡県の富士スピードウェイで開催され、1960年代から現在まで国内外で活躍したトヨタのレーシングカー、黎明期の名ドライバーから現役トップドライバーまでが集結、25000人を超えるファンがスタンドを埋め尽くした。「TMSF」はトヨタがF1に参戦する前年の2001年に、トヨタのモータースポーツ活動を応援してくれるファンの皆さんへの感謝イベントとして初開催、年々、その規模を拡大しながら今年、記念すべき10回目を迎えた。初年度からのコンセプトである"ファンの皆さんとの触れ合い"の気持ちは変わらず、普段はなかなか入ることが出来ないピットガレージで作業風景を見ることが出来たり、ドライバーが積極的にサインや写真撮影に応じるなど、レース開催時とは違った和気あいあいとした雰囲気が会場を包み込んでいた。
ーキットイベント日和とも言うべき見事な晴天に富士山の雪が反射するまばゆい日差しの下、「クラシックカー・パレードラン」でイベントが始まった。60年代に発売されて国内外のレースで活躍、世界中に熱烈なファンを持つ「トヨタ2000GT」、「トヨタスポーツ800」、70年代に特に若手のクルマファンに人気を博した「TE27カローラ・レビン」、「TE27スプリンター・トレノ」がオーナーの手によって悠々とコースイン。いずれも完璧なコンクールコンディション、ピカピカのボディとクラシックカー特有の流れるようなフォルムにそこかしこからため息が聞こえてきた。
スーパーGTやフォーミュラ・ニッポンの現役レーシングカーのフリー走行を大型バスの窓から体感する「サーキットサファリ」では、トムスの関谷正徳監督から現役ドライバーまでが1台ずつに乗り込んでガイドを担当し、攻略ポイントから自身のエピソードに至るまでを丁寧に解説、バスから降りてきた参加者は一様に満面の笑顔だった。こちらも恒例の「サーキットタクシー」では、「IS F」に加えて、世界限定発売500台で間もなくデリバリーが始まる「LFA」が登場、開発にたずさわった飯田章選手に加え、世界のトップドライバー小林可夢偉選手、中嶋一貴選手もステアリングを握ってアクセル全開で走行する助手席でそのスピードとサウンドを堪能、興奮した表情で降りてきたラッキーな参加者からは感嘆の声が漏れた。また、ショートコースではトヨタテストドライバーの精鋭集団による同乗走行イベント「トップガン同乗体験」を開催、総勢300名のテストドライバーのトップ9名、トップガンが限界ぎりぎりかつ正確無比のテクニックで参加者を魅了した。
年もイベントならではの特別なコンテンツが多数行われた。「フォーミュラ・ニッポン・スペシャルバトル」、「スーパーGT・スペシャルバトル」は通常のレースでは有り得ないほど周回数が少ない一発勝負で、しかも今年最後のバトルだけに随所でヒートアップするシーンも見られチームメカニックの心配そうな表情が大型ビジョンに映し出されたが、ファンは大興奮だった。「Vitzスペシャルラウンド」は、Vitzレースの上位ランカーとプロドライバーがペアを組んだミニ耐久レース。トップアマの好走に触発されたプロが猛烈な接近戦を展開した。「NASCARスペシャルラン」では、2台のマシンがアメリカンな野太いエンジン音を響かせながら全開でデモ走行、最後はNASCARの特徴である白煙もうもうのドーナツターンで締めくくった。
「ドリフト・エクストリーム」、「ドリフト車庫入れ選手権」では、もはや人間業とは思えないハイレベルのテクニックが次々と飛び出し、ファンはもちろんのことプロドライバーがピットから身を乗り出して見つめる姿も。「バトルロワイヤル2010」では、VitzからスーパーGTまでの各カテゴリーのレーシングカーを別のカテゴリーのドライバーがドライブした。
「LFAチャレンジ」では、スーパーGTのドライバーペアが真剣勝負を展開、V10の甲高いエンジン音と高いコーナーリング速度がLFAのポテンシャルをアピールしていた。トヨタモータースポーツの歴史を彩った懐かしいレーシングカーの走行もファンの視線を集めた。「トヨタ2000GTスピードトライアル(1966年)」、「トヨタ7(1969年)」、2台の「トヨタTS010(1990年代にル・マン24時間などで活躍」、「スープラ(1997年全日本GT選手権チャンピオン)」、「チェイサー(1998年全日本ツーリングカー選手権チャンピオン)」、「SC430(2006年スーパーGTチャンピオン)」は、いずれもエポックメイキングなレーシングカーとしてファンの心に刻まれている。久しぶりにステアリングを握った往年の名ドライバー、細谷四方洋選手、田村三男選手の快走はレースファンの目を潤ませた。
ルマを"持つ"、"走る"、"語り合う"喜びや楽しさを追い求めるGAZOO Racingを率いてきたマスターテストドライバー・故成瀬弘氏への追悼の気持ちを全面に込めて行われた「GAZOO Racing スペシャルラン」には、過去最多11台のクルマたちが出演した。普段はあまり表に出ることはないがトヨタには総勢300名のテストドライバーがいて、日々、開発のためのテスト走行を行っている。その頂点に立ったマスターテストドライバー・成瀬氏は今年6月に事故のために急逝。1963年にトヨタに入社した後、メカニックとしては「スポーツ800」、「2000GT」、「トヨタ7」、「セリカ」など、テストドライバーとしては「MR2」、「スープラ」、「アルテッツァ」、「MR-S」、そして「LFA」など主にスポーツタイプを担当した。ニュルブルクリンクへの挑戦は1970年代に開始、現地でニュルマイスターと呼ばれるほどニュルを愛し精通していた。スペシャルランは成瀬氏が情熱と技術を注ぎ込んで世に送り出した様々なクルマたちのうちの2台、「スープラ」を飯田章選手、「MR2」を大嶋和也選手、今年のニュル24時間のチームメイトのドライブでコースインして幕を開けた。
GAZOO Racingは、レースを通じた"クルマの味づくり"の一環として2007年にニュルブルクリンク24時間への挑戦をスタート。初年度に2台そろって完走を果たした「アルテッツァ#109」、「アルテッツァ#110」、さらに2008年にエアコンやオーディオを装備したままのほぼノーマルのクルマにもかかわらずクラス2位に入賞して話題になった「IS250」がコースへ。いずれも当時ステアリングを握ったドライバーたち、モリゾウこと豊田章男選手、武田架奈美選手、佐藤久美選手があの頃と変わらぬ快音を響かせた。
続いて、2009年にニュル24時間へ挑戦、過酷な戦いの中で発売直前の最後の"味付け"を行った「LF-A#14」が木下隆之選手の手によって飛び出して行った。さらに2周目には、今年のニュルで活躍した「LFA#50」と「LFA#51」をニュルを共に戦った脇阪寿一選手、アンドレ・ロッテラー選手が駆ってコースイン、メインストレートではまるでバトンタッチをするかのように「LFA#50」と「LFA#51」が「LF-A#14」を両サイドからオーバーテイク。音楽のヤマハが開発を担当した管楽器を彷彿とさせる伸びのあるV10サウンドがサーキット中に響き渡った。毎年20万人以上の大観衆が詰めかけ、ミニ、ゴルフからポルシェ、アストン・マーチンに至るまで200台ものクルマと1000人を超えるドライバーが参加するニュル24時間は、昨今は各国の自動車メーカーが多数参加してポテンシャルのアピールを行っている。上位チームは当然のようにプロのレースメカニックによって構成されているが、GAZOO Racingは"人を鍛え、クルマを鍛える"をキーワードに例年、トヨタの社員メカニックが奮闘している。しかもエンジンはノーマル、サスペンション、ブレーキ、タイヤをレース用に換装し、エアロパーツを装着した程度のライトチューニングにもかかわらず、BMW M3、ポルシェGT3、アウディR8などレース専用チューニングのマシンに交じって総合18位、
アストン・マーチンやコルベットといったレース経験豊富なマシンと戦ってクラス優勝を成し遂げた。「LFA#50」と「LFA#51」は、あの日のゴールの瞬間と同じようにスタンド側を「LFA#51」、ピット側を「LFA#50」のフォーメーションでチェッカーフラッグの下を誇らしげに駆け抜けた。
AZOO Racingが目指すクルマ作りを表現する3台のコンセプトカーも走行した。「SPORTS HV Concept」はまだまだエコカーにスポーティーなイメージが無い頃に、"エコと走る楽しさの両立"をテーマに成瀬氏の発案で開発がスタート。パドルシフトの4輪駆動、2シーターのオープンスポーツカーを木下隆之選手が操って軽快に駆けた。武田架奈美選手がステアリングを握った「FR Hot Hatch Concept」は、コンパクトカーがFF主流となる中で、FR特有のドライビングの楽しさをなるべく安く味わってもらうことが狙い。成瀬氏は"若い人たちに150万円くらいで提供できたら"と語っていた。昨年8月に100台限定で発表されわずか1週間で完売した「iQ GRMN」にスーパーチャージャーを搭載した「iQ+Supercharger Concept」は佐藤久美選手が担当、発売を期待するファンの熱い眼差しに追われながら約20%アップのパワーを武器に登りセクションもぐんぐんと加速していた。最後は11台のクルマすべてによるパレードランが行われ、2台の「アルテッツァ」と「IS250」には、直前まで「トップガン同乗体験」でファンサービスを担当していたテストドライバーの江藤正人選手、高木実選手、平田泰男選手が乗り込んだ。メインストレートに全車が停まり、実況アナウンサーが「マスターテストドライバー・成瀬弘さんの情熱は、これからもGAZOO Racingのメンバーに引き継がれて行く…」と宣言し暖かい拍手に包まれた時、遠くニュルブルクリンクの空から優しく見守ってくれた成瀬さんの笑顔が見えた気がした。
ランドスタンド裏のイベントスペースやパドックでも様々なアトラクションが行われて盛り上がったが、GAZOO Racingブースも終日、たくさんのファンでにぎわった。ピット内にはデモ走行を行った11台のクルマの他に、「2000GT」、「セリカ」、「MR2」など懐かしいクルマたちが展示された。初登場した、がずぺっとやルーキーちゃんの着ぐるみもお子さんや女性ファンに大人気。また、「GAZOO会員サーキット体感キャンペーン」では"体感と触れ合い"をキーワードに「サーキットサファリ」、「サーキットタクシー」、「ピットツアー」、「GRMN/G's交流会」を実施、抽選で選ばれた会員の皆さんが"この日だけの特別な体験"に素敵な笑顔を見せてくれた。