最終戦までもつれ込んだシリーズチャンピオン争いは プロ、クラブマンシリーズともに若手ドライバーがGR86/BRZ Cup初代王者に輝く
競技車両やレギュレーションが変更され、新たなシリーズとしてスタートした「TOYOTA GAZOO Racing GR86/BRZ Cup」。7月に富士スピードウェイで開幕した同シリーズは、毎月1大会が全国各地のサーキットで開催され11月19日~20日に岡山国際サーキットで行なわれた第5大会第5戦、第6戦で初年度シーズンの幕を下ろした。

昨年まで、旧型車両で行われていた86/BRZ Raceは、2013年から9年間のシリーズ開催により多くの参戦車両が市場に出まわっていたことや多くの参戦希望により、プロフェッショナルシリーズとクラブマンシリーズEXPERT、クラブマンシリーズOPENの3クラス制で競われていた。だが、今季は新型マシンのGR86(ZN8)とBRZ(ZD8)へスイッチする必要や移行期間が短かったために、プロフェッショナルシリーズとクラブマンシリーズの2クラス制を採ることとなった。それでも開幕戦には、プロフェッショナルシリーズ39台、クラブマンシリーズ50台の計89台がエントリーし86/BRZ Raceから変わらぬ盛況さをみせた。
前述のように今季はスタートが7月となったため計5大会6戦のシリーズとなり、以前の86/BRZ Raceでは年間8~10戦のシリーズというのが一般的だったため、これまでよりも短期間かつ少ない大会数での勝負となった。つまり、1戦あたりの重要度が増し、取りこぼしの出来ない戦いが続くことになった。
プロフェッショナルシリーズの結果を振り返ると、コンスタントにポイントを重ねていったのが、22歳の若手ドライバー#80伊東黎明選手だった。開幕戦で3位に入り初表彰台に登ると、第3戦の十勝スピードウェイではポールトゥウィンとファステストラップの完勝でフルポイントを獲得した。第4戦でも入賞を果たして、ポイントスタンディングをリードした状態で最終戦に挑んだ。伊東選手が第4戦までに獲得してきたのは40ポイントで、2位の#7堤優威選手と#504冨林勇佑選手が31ポイント、4位の#123松井孝允選手が30ポイントとトップから4選手までが10ポイント差となっていて、シリーズチャンピオン争いを有利に運んでいた。ただ、最終戦の岡山国際サーキットは週末に2回の決勝レースを行なうダブルヘッダーとなっていて、予選のトップタイムやファステストラップのポイントを合わせると43ポイントの獲得が可能だった。つまり、第4戦までノーポイントの選手でも状況次第ではシリーズチャンピオンの可能性を残していたのだ。
今季は6戦のシリーズということやマシンが新型となったことが、チャンピオン争いを激化させ最終戦まで混沌とした理由といえる。見る方にしては興味深い戦いだったが、選手やチームにとっては、最終戦が非常にストレスの掛かる1戦だったに違いない。
このようにエントリーした全選手にチャンピオンの可能性を残した最終戦は、11月19日(土)に予選と第5戦決勝レースを実施。今季は雨がらみのレースが多かったが、レースウィークが迫るにつれて降雨の予報もなくなり全セッションがドライコンディションで行なわれた。
土曜日の予選は、ベストタイムが第5戦、セカンドベストタイムが第6戦のスターティンググリッドとなるため、2周以上の計測が必要で、予選は予定通りの10時20分から35分の15分間で競われた。1周目のアタックでトップに立ったのは前戦鈴鹿で2位に入った#160吉田広樹選手で1分45秒302のコースレコードを記録。続けて、ポイントスタンディング上位の冨林選手が3番手、松井選手が4番手、ポイントリーダーの伊東選手が7番手、堤選手が11番手という順位になる。翌アタック2周目の結果は、冨林選手がトップタイムをマーク、松井選手が4番手、1周目のアタックでトップとなった吉田選手が5番手、伊東選手が7番手、堤選手が8番手となり、ポイントランキング2位の冨林選手の好調さが目立ち、シリーズチャンピオンに一歩近づいたように見えた。
予選終了から4時間のインターバルを経て14時35分から第5戦の決勝スタート進行が始まる。朝方は10℃に満たない気温だったが、サーキットには強い日差しが照り付け、決勝レース時は気温16.5℃、路面温度25℃まで上昇した。36台のマシンがスターティンググリッドに並び、14時54分、12周の決勝レースの幕が開けた。1コーナーをトップで通過したのはポールポジションの吉田選手、2番手に冨林選手、3番手には松井選手が浮上。吉田選手は2周目にファステストラップを記録して後続を引き離しかかる。だが2番手の冨林選手も徐々に吉田選手のギャップを詰めていき、2周目終了時には1.3秒あった差がレース中盤の6周目には0.5秒に縮まった。だが吉田選手も後続とのギャップをコントロールしながら隙を見せない。吉田選手、冨林選手、松井選手のトップ3はオープニングラップから変わらず12周目にチェッカーを受けた。吉田選手はポールトゥウィンとファステストラップのフルポイントを獲得しシリーズチャンピオン争いに加わった。ポイントリーダーの伊東選手は6位、追っていた堤選手は7位とともにポイントを積み重ねた。
第5戦の結果を受けて、ポイントリーダーとなったのは伊東選手と冨林選手で46ポイント、4ポイント差の42ポイントで松井選手と吉田選手が追い、堤選手が35ポイントで伊東選手から11ポイント差。第5戦までを終了しシリーズチャンピオンの可能性を残したのは、この5選手だった。
一夜明けた11月20日(日)、最終決戦となる第6戦決勝レースが行なわれた。
前日第5戦で3位獲得によりポイントリーダーとなった冨林選手がポールポジションからのスタート。ランキング2位の松井選手が4番手、同じく2位の吉田選手が5番手、冨林選手と同点でポイントリーダーとなる伊東選手が7番手、逆転を狙う堤選手が8番手とシリーズチャンピオンの可能性を持った選手全員がトップ10内からのスタートとなった。
第5戦と同じく12周の決勝レースは、予定通り11時5分にフォーメーションラップがスタート。ホールショットを決めたのは冨林選手だったが、バックストレートからヘアピンで2番手からスタートした#10菅波冬悟選手に抜かれてしまう。菅波選手は2周目を終了した時点で2番手の冨林選手と1.2秒のギャップを築き独走に入る。しかし、レース序盤から驚異的な追い上げを見せたのが8番手スタートの堤選手で、オープニングラップから毎周1台をパスして5周目には2番手を走行する冨林選手の背後に迫った。勢いに乗る堤選手は6周目のアトウッドコーナーで冨林選手をパスするとトップを走る菅波選手にターゲットを移す。すると8周目の1コーナーで菅波選手を抜き、8番手から一気にトップに立った。一方のポイントリーダーだった伊東選手やポイントランキング上位の吉田選手、松井選手はポジションを落としていき、シリーズチャンピオン争いは冨林選手と堤選手の一騎打ちとなる。8周目を終了した時点で堤選手はトップ、冨林選手は3番手となっていて、このままの順位だと冨林選手が3ポイント差でシリーズチャンピオンを獲得する状況だった。堤選手は終盤までラップタイムが落ちず最終的には後続に2.2秒差を付けてトップでチェッカーを受ける。冨林選手も後続からプレッシャーをかけられたもののポジションを守りきって3位でフィニッシュ。この結果によって58ポイントで冨林選手が初代GR86/BRZ Cupのチャンピオンに輝き、2位には55ポイントで堤選手、3位には50ポイントで吉田選手という年間シリーズランキング結果となった。
シリーズチャンピオンとなった冨林選手はeモータースポーツで頭角を現し、2016年にはグランツーリスモのマニュファクチャラーカップで世界チャンピオンを獲得。実車レースに参戦したのは2018年が初めてで、2020年はクラブマンシリーズEXPERTを主戦場とし、プロフェッショナルシリーズにステップアップしたのは2021年から。86/BRZ Race開始以来、クラブマンシリーズからステップアップして王者となった初めての選手となる。
一方のクラブマンシリーズは、こちらも最終戦までシリーズチャンピオン争いがもつれ込んだ。第4戦までに2勝を挙げていた#186勝木崇文選手が#125松井宏太選手を12ポイントリードして第5戦を迎え、ランキング3位の#380菱井将文選手までがシリーズチャンピオンの可能性を残していた。第5戦は2番手からスタートした勝木選手が2番手でチェッカーを受けるが、トップでゴールした選手にペナルティが科されたために1位となり、第6戦を前に松井選手との差を20ポイントまで拡げた。第6戦のスターティンググリッドは松井選手が2番手、勝木選手が5番手となっていて、勝木選手が圧倒的に有利だった。だが松井選手が1周目終了のコントロールラインをトップで通過し勝木選手にプレッシャーをかける展開となり、松井選手がファステストラップを記録して勝木選手がノーポイントだと逆転される状況となる。しかし、松井選手は中盤からラップタイムが落ちてポジションを下げてしまう。一方の勝木選手は序盤こそスタート順位の5番手を走行していたが、徐々にペースが厳しくなると終盤にはミッショントラブルにより大幅にラップタイムが落ちる。それでも勝木選手は12周目に10位でチェッカーを受けて、クラブマンシリーズのチャンピオンを奪取した。
プロフェッショナルシリーズ チャンピオンコメント
♯504冨林勇佑選手
「最終戦のレースウィークは16日(水)から走り始めて感触は悪くなかったのですが、ライバル勢のペースが速くチャンピオンを意識することはありませんでした。そして今回は予選前日に2回のタイム計測があり、1回目は4番手と調子良かったのですが、2回目は同じような走りをして18番手だったのでかなり落ち込みました。ただ予選結果が3番手とポールポジションだったので、チャンピオンの可能性があると感じました。決勝レースはもちろん勝ちたかったのですが、スポンサーやダンロップタイヤを含め皆さんのことを考えるとチャンピオンを取ることが与えられた仕事だと思い、勝利の欲は押し殺して走りました。」今季はチームが頑張ってくれて良いマシンに仕上げてくれて、ダンロップタイヤもどのコンディションでも安定した性能を発揮してくれました。僕は2020年から86/BRZ Raceに参戦し、そこでの評価によってスーパーGTにも乗ることができました。このシリーズには感謝していますし、そこでシリーズチャンピオンになれたことは何よりも嬉しいです。熾烈な戦いで落ち込むこともありますが、すごく楽しいレースなので来年も出られればと思っています」
クラブマンシリーズ チャンピオンコメント
♯186勝木崇文選手
「まずはシリーズチャンピオンを獲得できて非常に嬉しいですが、最終戦はかなり辛くシリーズを制する難しさを十分に体感しました。本心で言えば第5戦を終えた時点でシリーズチャンピオンを決めたかったのですが第6戦までもつれ込んでしまって、最後はミッションが壊れてしまったものの何とか10位でチェッカーを受けられました。今回の予選は2戦ともにポールポジションを取るつもりでしたが、第5戦は2位で第6戦の5位は想定外でした。岡山国際サーキットの成績をみると菱井選手が速く、松井選手との戦いもあってまったく気を抜くことができませんでした。それでも第5戦のフロントローがシリーズチャンピオンへの大きな一歩となったと思います。1年を通してみると、開幕戦から勝利を重ねられて、ポールポジションやファステストラップなど1ポイントずつ積み重ねられたことがシリーズチャンピオンにつながったと思っています。クラブマンシリーズで念願のチャンピオンになれたので、来年はステップアップして活躍したいです」
【2023年 GR86/BRZ Cup 暫定スケジュール(2023年1月31日時点)】
ラウンド | 日程 | 開催場所 |
---|---|---|
第1戦 | 2023年5月13日(土)・14日(日) | スポーツランドSUGO(宮城県) |
第2戦 | 2023年6月11日(日) | オートポリス(大分県) |
第3戦 | 2023年7月22日(土)・23日(日) | モビリティリゾートもてぎ(栃木県) |
第4戦 | 2023年8月19日(土)・20日(日) | 十勝スピードウェイ(北海道) |
第5戦 | 2023年9月9日(土)・10日(日) | 岡山国際サーキット(岡山県) |
第6戦 | 2023年10月28日(土)・29日(日) | 鈴鹿サーキット(三重県) |
第7戦 | 2023年11月25日(土)・26日(日) | 富士スピードウェイ(静岡県) |
【2022年シリーズポイントランキング(最終)】
プロフェッショナルシリーズ
順位 | No. | ドライバー | 車名 | 合計ポイント |
---|---|---|---|---|
1 | 504 | 冨林 勇佑 | エアバスターDL・GR86 | 58 |
2 | 7 | 堤 優威 | T by Two CABANA Racing | 55 |
3 | 160 | 吉田 広樹 | 埼玉トヨペットGB BS GR86 | 50 |
4 | 80 | 伊東 黎明 | OTG DL GR86 | 46 |
5 | 123 | 松井 孝允 | NETZ富山Racing GR86 | 42 |
6 | 10 | 菅波 冬悟 | OTG TN滋賀 GR86 | 32 |
クラブマンシリーズ
順位 | No. | ドライバー | 車名 | 合計ポイント |
---|---|---|---|---|
1 | 186 | 勝木 崇文 | Star5 ダイシン GR86 | 96 |
2 | 125 | 松井 宏太 | TEAM SAMURAI GR86 | 87 |
3 | 380 | 菱井 将文 | 徳島トヨタ GR86 | 63 |
4 | 201 | 大﨑 達也 | 奈良トヨペットCR DL GR86 | 47 |
5 | 759 | 岩本 佳之 | C名古屋 GR86 | 32 |
6 | 2/6 | 咲川 めり | Generations GR86 | 25 |