ペースノートのイメージとリアルがより近づいた
でも完成度は6、7割程度で、さらに改善していく
── 勝田選手はサーキットレースの全日本F3選手権で優勝もされています。フォーミュラカーは走り出せばドライバー1人で戦いますが、ラリーはコ・ドライバーとふたりで戦うのが特徴ですね。
勝田貴元選手(以下、勝田):
コ・ドライバーの役割というのは、ものすごく重要です。ペースノートの情報を読むタイミング、読み方など、すべてがドライバーにとっては命綱。情報をできるだけ聞き逃さないようにと常に集中していますが、道に突然岩が出てきた時などはやはり聞き逃しやすくなります。そういう時に、経験豊かなコ・ドライバーは「今、聞き逃した可能性があるな」と予想し、同じ情報を復唱したり、あえて少し待ってくれたりとかします。
また、難しいのは、例えば次のコーナーが来る3秒前にノートの情報を読めばいいのではなく、コーナーの速度によって読む早さを変える必要があります。ヘアピンコーナーが続くような低速のセクションは余裕がありますが、時速180kmで右、左、右と高速コーナーが連続するような時は、次のコーナーが見えてから読むようだと通り過ぎてしまいます。だから、コ・ドライバーもレッキ(事前のコース下見走行)の時に「このコーナーはこれくらいの早さで読まないといけないな」とか、ドライバーと同じようにイメージして、それを本番で実践しているんです。
── だからこそ、コ・ドライバーの経験値や体調が、走りやタイムに影響するのですね。レッキは本番とは違って低い速度で下見走行するだけですよね。なのに、なぜ本番ではいきなり全開で走れてしまうのでしょうか?
勝田:
レッキでは2回走りますが、まず1回目はペースノートを作ります。コーナーがどれくらいきついか、次のコーナーまで何メートルかとか、走りながらドライバーが感じた数字を伝え、それをコ・ドライバーがペースノートに書き込んでいきます。
そして、2回目ではコ・ドライバーがその情報を読み、ドライバーが走りながらチェックするのです。その時に何をしているかというと、実際は時速60kmとか(道路本来の)速度制限に従って、当然本番よりゆっくり走っているのですが、頭の中では常に全開で走らせています。ラリー本番ではどれくらいのスピードが出て、このコーナーではこういう動きになるだろうとか、ブレーキングポイントはどのあたりになるだろうかなど、高い速度で走ることをイメージしながらペースノートをアジャストしていきます。
── それほどに高い想像力が求められるのですか。だから本番で、思いきりアタックできるのですね。
勝田:
はい。ラリーを始めた最初の頃は、言われたことを聞きながら、目の前の道を確認することしかしていませんでした。何を何のためにチェックしているのかを、わかっていなかった。でも、段々とイメージできるようになっていき、頭の中で走らせられるようになっていくとペースノートの精度が上がってこのイメージと、実際の走りであるリアルがかけ離れなくなりました。
正直、今でも難しいステージでは完成度があまり高くないことやイメージしきれていない時もあって、完成度は6、7割程度だと考えていますが、経験を積むことでさらに改善できると思っています。
すごいグラベルクルーをはじめ
TOYOTA GAZOO Racing WRTのドライバー皆が手本になる
── コ・ドライバーとペースノートの重要性が良く分かりました。ターマックラリーでは、選手よりも少し前にステージを走って最新の情報を伝える「グラベルクルー」も重要な存在ですよね?
勝田:
コ・ドライバーと同じぐらい大事な役割を担っていると思います。彼らが伝えてくる最新の路面情報が間違っていればミスに繋がりますし、タイムにも大きく影響します。グラベルクルーは、ターマックの路面にどれくらい泥や砂利、雪が出ているかをチェックし、数日前に僕達が作ったペースノートの情報をアップデートしてくれます。
それだけに僕達のペースノートのイメージを、彼らとしっかり共有できていないとだめですし、危険度に対する感覚のスケールを僕と彼らで合わせていく必要があります。彼らが『これくらい砂利が出ているくらいなら大丈夫』と判断しても、それが僕の感覚と合わなければクラッシュしてしまいます。逆も然りで、そういった感覚をきちんと合わせ込み、グラベルクルーのアジャストを信頼できれば、よりリスクなく、速く走れるようになります。
── 勝田選手のグラベルクルーは元TOYOTA GAZOO Racing WRTのドライバー、ユホ・ハンニネン選手がドライバーを務めていますね。
勝田: ユホさんは、現役時代にフィンランド人でターマックが一番速いと言われていたすごい選手ですし、本当に助けられています。やはり、経験豊かでなおかつ優れたドライバーでないと、グラベルクルーは務まりません。現役の選手と同じ感覚で走りをイメージして「行ける」「行けない」など路面コンディションを判断しなければならないので。
── ラリーカーにリヤシートはありませんが、そこにグラベルクルーの2人も乗って、4人で一緒に戦っているような感じでしょうか?
勝田: まさに、その通りだと思います。
── 勝田選手は開幕からただひとり5戦連続で総合6位以内に入るなど安定感が高く、SSでのベストタイムも出していますね。以前からテストではワークスドライバーより速いタイムを出すこともあったと聞いていますが?
勝田:
これは僕の感覚ですけど、例えばカッレ(ロバンペラ)の場合は、実際のラリーでどれくらいのペースで走るのかということを想定しながらテストをしています。『ラリー本番ではこれくらいのペースになるだろうから、このペースにセッティングを合わせよう』とか、限界を詰めるというよりも、本番を考えてテストでは走っているのだと思います。
一方、セブ(セバスチャン・オジエ)は、テストでも1発目からガンと限界でアタックすることもあって、ドライバーによってもアプローチが違うのはおもしろいですね。
── オジエ選手のような世界王者や、何度も優勝しているエルフィン・エバンス選手といった最高峰のドライバー達と一緒に仕事をできるTOYOTA GAZOO Racing WRTは、とても素晴らしい環境ですね。
勝田: 本当にありがたいです。あと、そういったドライバーたちを担当しているエンジニアと一緒に仕事をできるのも大きいです。コメントを共有できますし、他のドライバーたちがどう感じたのかなど、答え合わせもできるので。ドライバーごとにクルマの感じ方は違うし正解はないかもしれませんが、やっぱりセブのように速い人が答えに近いと思いますし、ものすごくいい環境でやらせてもらっています。
── 最近はコンスタントに彼らと同じようなタイムが出るようになってきていますが、自分でまだ足りていないと感じる部分はありますか?
勝田:
本当に速いトップドライバーたちは、例えばボーナスポイントがかかるパワーステージで"真の全開勝負"になった時、クラッシュせずに全コーナーでギリギリの走りをできます。それを、自分もできるようにならないといけないと思っています。それができるようになると、パワーステージだけでなくて、ここ一番のときにも全開アタックができるようになるので。
また、今年グラベルラリーを戦って感じたのですが、路面がガタガタだったり、石や岩が多く出ているような道では、高い次元で安定させる走りがまだできていないですね。
── でも、チームは勝田選手のタイヤマネージメントの上手さを高く評価していると言っています。
勝田: 確かに、周りのドライバーと比較すると全開で走っても最後までタイヤが残っていることが比較的多く、そこは自分でもポジティブに思います。ですが、それでもセブがタイヤマネージメントに特化して走った時などは、やはり目を見張る上手さなので、それを目指したいと思います。データの比較など、色々な部分を解析しながら改善していきたいです。
連続の4位も嬉しくない。
3位と4位も、1位と2位も天と地の差がある
本当の達成感を得られるよう、レベルを上げていく
── 第4戦ポルトガルでは、そのオジエ選手と総合3位争いを繰り広げ、自己最高位の総合4位。続くサルディニア(第5戦イタリア)でも、コ・ドライバーが熱中症になって最終日にペースを落としながらも総合4位に入りましたね。
勝田:
正直な気持ちを言ってしまうと、結果としては悪くはないと思いますが、僕の気持ちとしてはどちらも4位はそれほど嬉しくない。どちらかというと、悔しい気持ちの方が強かったです。やはり、ドライバーとしては3位と4位は天と地の差ですし、1位と2位も天と地の差だと感じるので、めちゃくちゃ悔しいですね。
生意気な気持ちではなく、この先上に行くためにはもっと頑張らないといけない、まだまだやらないといけないことが多いと感じました。
── ここまでやってきて、達成感や充実感を覚えたラリーはありますか?
勝田:
本当の意味での達成感は、まだ得られていません。僕の中でそれを感じられるのは、全日程、全ステージを全開でミスなく最後まで走り切れた時だと思います。そして、その時は結果が3位でも4位でも、達成感を得られるような気がします。どこかでミスをしたなと感じた時、達成感は半減してしまうので、少しでも早く達成感を得られるように、さらにレベルを上げていきたいですね。
今後のエストニア(第7戦)とフィンランド(第10戦)では、基本的には皆がフラットアウト(全開)で走るラリーなので、今の自分の実力がどの位置にあるのかが見えると思います。その2戦では、最初から最後まで達成感を得られるような走りができたらなと思っています。
インタビュアー古賀敬介の目
総合2位獲得。WRC初表彰台でも心から悔しがった勝田選手
今回の勝田貴元選手インタビューは、2戦連続で総合4位に入った第5戦ラリー・イタリア(サルディニア)後に行なわれた。その直後の第6戦サファリ・ラリーで、勝田選手は総合2位を獲得し、WRCの初表彰台を獲得した。
それにも関わらず、最終日に王者・オジエ選手と戦い初優勝を逃したことを勝田選手は心から悔しがり、さらなる成長の必要性を口にした。プロのWRCドライバーとして目指すは優勝、そしてワールドチャンピオン。高い目標を設定しているからこそ、2位に甘んじる気持ちはいささかもない。夢を叶えるために、全力を尽くし続ける。その強い意志を、勝田選手から感じ取った。