ヨタハチ・レーシング
復活プロジェクト

50年前にレースで活躍した
伝説のトヨタ・スポーツ800 レーシングが発見された。
「TOYOTA SPORTS 800 GR CONCEPT」
として現代に蘇らせるべく
TOYOTA GAZOO Racingが立ち上がった。

EPISODE 0 ヨタハチとは
トヨタスポーツカーの原点

写真/三栄書房

トヨタ・スポーツ800、通称ヨタハチは、1965年から1969年にかけて製造されたトヨタ初の市販スポーツカー。

開発担当主査は、初代カローラも手がけた長谷川龍雄氏。戦前、航空機の設計士だった長谷川氏は開発にあたり航空機の空力理論を徹底的に応用し、空気抵抗を限界まで抑えた。当時としては画期的な風洞実験を行い、ヨタハチは空力のセンターラインと重心のラインが揃っている唯一のクルマだった。

また、日本で初めて外板にアルミを採用し、総重量わずか580kgという超軽量化を実現。その為、エンジンは非力だったが、空力設計と軽さで最高速度は当時のトップクラスの155km/hを誇っていた。

写真/三栄書房

そんなヨタハチの凄さを物語るエピソードがある。

1966年、第1回鈴鹿500kmレース。ライバルはロータス・レーシング・エラン、フェアレディ1600、スカイラインGT、ホンダS600。強豪マシンに比べ非力なヨタハチに勝ち目はないと言われた。

だがレース後半、トップに立ったのはヨタハチ。その軽さは圧倒的な武器だった。ライバル達が次々と給油していく中、ヨタハチは快走を続け、ついに一度もピットによらず500kmを駆け抜けた。レース後、あまりの圧勝に不正を疑われタンクを開けると、そこにはまだ30%以上の燃料が残っていた。レーシングスピードでリッター9キロという驚異の低燃費だった。

EPISODE 1 RESTORE
ヨタハチの復活

とあるガレージで朽ち果てたヨタハチが見つかった。
車体ナンバー「UP15-10007」。
50年前、数々の耐久レースで活躍した伝説のレース専用車“7号車”だった。

まさに「第1回鈴鹿500kmレース」において1、2フィニッシュの栄冠を勝ち取った内の1台。当時のモータースポーツ車両開発を手掛けた河野二郎主査と第三技術部にてチューニングされ、ワークスドライバー田村三夫氏がドライブした貴重なヨタハチ・レーシング。

GR始動という節目にこの車両に巡り合ったことに運命を感じ、「TOYOTA SPORTS 800 GR CONCEPT」として現代に蘇らせるべく、プロジェクトが立ち上がった。

トヨタ・スポーツ800
GR CONCEPT
プロジェクト ボディ担当
トヨタ自動車
東日本株式会社
菊池敬厚

この朽ち果てたトヨタ・スポーツ800をGRとして甦らせるという話を聞いたとき、これは大変なことだなと思ったのと同時に、とても光栄に感じました。10007号車という歴史ある名車をレストアする事は、自分たちの腕も試されているとプレッシャーも大きかったです。
耐久レース仕様ということもあり、艤装品を含め改造跡が沢山あり、市販車と全く異なっていました。特に、軽量化の部分は現代では考えられない程、シンプル且つ、贅肉をそぎ落とす先人達の努力の跡が残っていました。
私たちは、エンジニアとしての魂やこのクルマに込められた熱い想いをしっかりと受け止め、それを次の世代へ引継ぐことが、このGRプロジェクトの使命だと感じています。

「当時の味を残しつつ、しっかり走れる」を目標に復元とGRチューニングを実施しました。ボディは半分以上の部分が職人の技で新たに作り直され、更に見えない部分にGRボディ補強を施し、また、サスペンションは当時のレーシングサスをそのままに凄腕技能養成部によるGRダンパチューニングにより旋回性能を向上しています。エンジンは当時の高回転チューニングを再現し、加工精度向上とバランス取りを行い高回転の伸びを更に磨きました。また、オーナーズクラブ様による部品入手のご協力や、トヨタグループ各社様の部品製作のご協力など、このクルマのもつ魅力が「この指とまれ」となりエンジニアを惹きつけ垣根を越えた輪を作り、プロジェクトに関わる全ての人の情熱と技能と技術により特別な1台が完成しました。五感を使ってクルマと対話しながら上手く走れたときに「ニコッ」となれる、そんなスポーツドライビングの楽しさのヒントがつまっています。

トヨタ・スポーツ800
GR CONCEPT
プロジェクト リーダー
トヨタ自動車
小川裕之

EPISODE 2 TUNE UP
ヨタハチのGR化

部品も設計図もない中、ヨタハチを愛する多くのメンバーによって復活を遂げた7号車。

仕上げは、GRとしてのチューニング。思わず走りたくなる“気持ちいい乗り味”づくりだ。

トヨタ・スポーツ800
GR CONCEPT
プロジェクト チューニング担当
トヨタ自動車 凄腕技能養成部
(TOYOTA GAZOO Racing)
梶川仁

GR化に向け、サーキットだけでなく低速から高速まで、一般道や峠道でもしっかり走れて、安心で安全ということを心がけました。荒れた路面、フラットな路面、特殊路面、あらゆる道で走らせて車の評価を行い、ヨタハチの長所を伸ばしつつ弱点を補うようなイメージでチューニングを施しました。具体的には、前後バランスなど50年前の車とは思えないほどバランスの良さを感じたので、そこは長所と捉えて伸ばしつつ、一方で減衰感、車の収まりみたいなところはさらに良くできると考え足まわりを調整しています。ヨタハチならではの「CONTROL AS YOU LIKE.= 意のままに操れる、最高に気持ちいい乗り味」を追求できたのではないかと思います 。

EPISODE 3 SHAKE DOWN
TOYOTA SPORTS 800 GR CONCEPT始動

TOYOTA GAZOO Racingのモノづくり技能と最先端のスポーツカーテクノロジーで「TOYOTA SPORTS 800 GR CONCEPT」として生まれ変わったヨタハチ。果たしてその乗り味はどんなものか。ジャーナリストたちにインプレッションを尋ねてみた。

日本自動車ジャーナリスト協会
(AJAJ)会員
日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
日下部保雄

トヨタ・スポーツ800ほんとに久しぶりに乗せてもらいました。乗ってみてわかったのは、いかに軽い車を造って、パワーがないクルマでもいかに楽しむことができるかということ。それをほんとにダイレクトに感じることができました。とっても楽しくて、また懐かしい思いです。
GRとの共通点は、人が楽しく運転できること、それに尽きると思います。サスペンションやコックピット、その中でうまく作り上げるというのはヨタハチからGRまで共通して流れていることだと思います。

日本自動車ジャーナリスト協会
(AJAJ)会員
日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
岡本幸一郎

まずこの小ささに驚きました。この小ささが逆になんかすごく新鮮な感じがしました。すごく原点な感じがしますよね。全てミニマムで、全て手の内にあって操ったとおりにクルマが一生懸命反応してくれて。ベース車の良さを活かしてこの操る楽しさをより積極的に味わえるようにしようという発想でこのクルマもはるか何年前に造られたと思います。そこから脈々と今のGRに繋がっているんだなという、息吹みたいなのを感じましたね。

日本自動車ジャーナリスト協会
(AJAJ)会員
日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
島下泰久

一言で言うと楽しかったです。スポーツカーの原点みたいなところがあるんじゃないかな。パワーが無くても軽いと操って楽しい。走る曲がる止まる全部いい。航空機のテクノロジーみたいな雰囲気もあって空力など期待させる姿がある。スピードと言う意味ではすごい速いわけじゃないけど、乗ってると充実感があって、ステアリング切るだけで、ブレーキ踏むだけで楽しい、気持ちいい。スポーツって速いことじゃなくて、やっぱりこう操ってる実感とか、普通の交差点を一つ曲がるだけでも「あぁ気持ちいいな、このクルマ思い通り動くな」っていう感動があれば、買い物だけでも行きたくなるみたいな、そういうことになると思うんですよ。そういう意味では、今回乗せていただいたこのヨタハチの延長線上にこれから楽しいクルマがいっぱいで出てくるのかなぁという期待を持ちましたね。

日本自動車ジャーナリスト協会
(AJAJ)会員
日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
鈴木直也

ヨタハチっていうと60代の人のノスタルジックアイテムなんだけど、今乗ったらものすごい新鮮。ひたすら面白かったというのが感想です。しかも古くない。今のスポーツカーってみんなヘビー級だけど、スポーツカーの楽しさって絶対的な馬力とかスピードは全然関係ないよねと。だってどっちがFUNかっていったら明らかにこっちのがFUNですよ。普段と違う景色、普段と違う操作感覚、全てがダイレクト。例えばシフトにしても2速でレッドゾーン近くまで引っ張って3に入れると、ちょっとエンジンがばらついたりするわけですよ。今のクルマって全部クルマが面倒見ちゃうじゃないですか。もちろんそのほうが便利といえば便利なんだけど、スポーツカーが便利だけでいいのかと。クルマ好きな人とか、クルマ作ってる人って果たしてそれでいいのか、どうやったらもっと楽しくなるのよっていう風に自問自答して模索してる。もっと面白いクルマ作りたいっていうパッションは、繋がってると思う。

CONCEPT

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