サーキット走行のまえには、メンテナンスを行おう
サーキットでのスポーツ走行を存分に楽しむためには、愛車のコンディションを常に把握し、最適な状況に保っていることが重要です。法律で定められている点検(いわゆる車検やディーラーなどで実施される6カ月点検、12カ月点検など)はあくまでも公道での日常使用を前提としたものであるため、サーキットでスポーツ走行をするような場合にはこれだけでは不十分と言えるでしょう。ここからご紹介するサーキットメンテナンスはあくまでも主要項目の紹介であり、『これだけ守っていれば万事OK』というものではありませんが、不測の事態が起きるリスクを低減するための一助としてご活用ください。
1.油脂類
●エンジンオイルの役割
エンジンオイルは、その名のとおりエンジン内部を循環し、様々な役割を担っています。主なところでは、ピストンやコンロッド、クランクシャフトなど金属部品同士の摩擦を減らす『潤滑』、熱を吸収する『冷却』、シリンダーとピストンの隙間で燃焼室の気密を保つ『密封』、燃焼時に発生するススやスラッジなどの汚れを取り込む『清浄』、各部の錆を防ぐ『防錆』といった役割を担い、エンジンの性能を100%引き出すために不可欠な存在と言えるでしょう。
エンジンオイルの点検は愛車の取扱説明書にしたがい適切な手順で行ってください。(画像はGR86)
スポーツ走行前のメンテナンスにあたって、エンジンオイルの量と汚れのチェックは必須です。サーキット走行はエンジンオイルにとって過酷な状況であり、油温上昇や油圧低下の懸念もあります。オイル量に関しては指定の範囲内で上限付近まで入れた状態でスポーツ走行することが一般的に推奨されています。また、できる限りスポーツ走行前には新しいオイルに交換しておきたいところです。エンジンオイルには上記のような役割があり、各パーツに高い負荷がかかるスポーツ走行ともなれば、その重要性は言わずもがなです。劣化しているオイルでは十分にその役割を果たすことができない可能性もあるため、走行前には必ずチェックしておきましょう。
走行時には冷却のためのクーリング走行を挟み、車種によって異なりますが、一つの目安として油温計で130℃を超えるような状況となった場合には、走行後にも交換をおすすめします。なお、オイル量の確認は必ずエンジン停止中に行ってください。また、走行直後はやけどの恐れもあるので、エンジンやその周辺が冷えてから実施しましょう。
また、スポーツ走行においては、ブローバイガスに混入するエンジンオイルが路面に流出しないよう、オイルキャッチタンク装着を推奨するサーキットもあります。サーキットマナーという点でも、気になる方は装着を。
愛車の取扱説明書をご覧のうえ、粘度(オイルの固さ)など愛車に最適なエンジンオイルを選択してください。
●トランスミッションオイル、デファレンシャルオイルの役割
エンジンのパワーを伝達する駆動系についても、オイルの管理は重要なメンテナンスと言えるでしょう。MTオイル(ATオイル)やデフオイル、トランスファオイルも、エンジンオイルと同様に内部パーツの潤滑や冷却、防錆の役割を担っています。いずれもエンジンオイルのように量をチェックすることは難しいため、ドレンプラグ、フィラプラグ、オイルシール等からのにじみがないか、忘れずに目視でチェックを行いましょう。
車両下を覗いて、トランスミッション下部からオイルの漏れや滲みなど無いか日常的に目視点検することも大切なメンテナンス。(画像はGR86)
画像はGR86の左右後輪の真ん中に装着されているデファレンシャル部。こちらもオイルの漏れや滲みなど無いか日常的に目視点検を。
トランスミッションはシフトフィールや音など、操作して違和感がないかという点も注意をしておきたい部分です。デフも含めオイル類は一度高温になると冷めづらく、連続走行時には注意が必要です。
可能であればエンジンオイル同様、走行前の交換が理想と言えますが、使用状況によっても異なるのでGR Garageのコンサルタントを始めとするプロのエンジニアとも相談をしながら判断をしてください。
2.パワートレイン
●ドライブシャフト
ドライブシャフトは、エンジンからトランスミッション、デファレンシャルへと伝わってきた動力を、最終的に路面と接地するタイヤに伝達する重要なパーツです。ドライブシャフトが壊れると、エンジンからの動力をタイヤに伝えることができなくなってしまうため、走行不能となってしまいます。振動や異音を感じたらすぐに点検を実施し、ドライブシャフトに異常がある場合は交換をおすすめします。
ドライブシャフトの両端には等速ジョイントが配置されており、この等速ジョイントがスムーズに回転できるようにグリスが塗布され、ダストブーツというゴム製で蛇腹状のパーツで保護されています。このダストブーツが劣化したり破れている場合は、水やほこりなどの異物が混入してグリスが劣化したり、グリスが漏れたりしてシャフトが滑らかに回転できなくなるため、スポーツ走行前にはダストブーツの点検も行うようにしましょう。
●プロペラシャフト
プロペラシャフトは、FR車や4WD車のエンジンで発生した動力を、エンジンから離れたデファレンシャルギヤに伝える車体中央部を前後に走る回転軸のこと。このプロペラシャフトは高速で回転するため、プロペラシャフト自体の回転バランスが悪いと、異音や振動を発生することがあります。
また、プロペラシャフトは構造上、車種によってユニバーサルジョイントという部品で二分割されていることが多いのですが、このユニバーサルジョイントも劣化などの不具合が発生すると、異音や振動が発生します。そのままにしておくと、回転バランスを失ったプロペラシャフト自体が破損してしまうトラブルにも繋がります。異常を感じた時は、必ずGR Garageや自動車整備工場で点検を受けて下さい。
●トランスミッション
トランスミッションは変速機のことで、エンジンの動力を最初に受けとめる重要な機構です。マニュアルトランスミッション(MT)やオートマチックトランスミッション(AT)は複数の歯車(ギヤ)で構成され、クルマの走行状況により適切なギヤを選択できるようになっています。また、無段階変速機のCVTは、プーリーとベルトの組み合わせでエンジンの動力を適切なトルクと回転速度に変速する機構です。
いずれも、定期的なオイル交換やフルード交換などの交換が欠かせませんが、スポーツ走行においてはトランスミッションへの負荷が大きいため、シフトが入りにくい、ギアの歯当たり音など摩擦音のような異音がする、ミッションオイルが焼けた臭いがするという症状が発生した場合は適切なメンテナンスが必要です。車種によって異なりますが、一つの目安として2〜3年に一度くらいの定期的なオーバーホールをおすすめします。
また、マニュアルミッションのトランスミッションにはクラッチが付いていますが、クラッチディスクは消耗品でもあるため、定期的な部品交換が必要となります。
GR86 マニュアルトランスミッション。
競技用GRパーツでGR86 マニュアルトランスミッション用にラインナップされているGRクロスミッション。シフトフィールおよび耐久性を向上させています。
競技用GRパーツでGRヤリス用※にラインナップされているGRクロスミッション&Loファイナルギアセット。スーパー耐久という過酷な現場で、ルーキーレーシングのドライバーにより鍛え上げられました。
※RSを除く
●マウント類
エンジンマウントやミッションマウントは、エンジンやトランスミッションの振動を軽減するように車体に取り付けるための部品です。マウント自体は主にゴム製で、このゴムが劣化したり亀裂が入ったりすると、エンジンの振動が大きくなったり、シフトチェンジした時のショックが大きくなったりします。エンジンマウントにトラブルがあった場合は、FF車や4WD車ではフロンタイヤのジャダーの原因になったりもします。また、ミッションマウントの劣化は、特にコーナリング中など横Gがかかっている時の変速が困難になったりします。
いずれもマウントの劣化は、最悪の場合エンジンやミッションの脱落につながる恐れもあります。また、振動の影響で周辺部品のボルト緩みやステー破断による部品の脱落の原因になる場合もあります。もしその影響を受けた部品がブレーキや燃料などに関わる重要な部品の場合、その危険性は計り知れません。定期的に点検を行い、ゴムの亀裂や劣化がある場合には交換することをおすすめします。
各種マウントパーツは見えにくい。愛車のエンジン音や振動に常に注意をはらうようにすると、いつもと違う音や振動で各種マウントパーツの不具合に気づくことができる。
画像はマフラーハンガーマウント。走行路面に近く劣化しやすいマウントパーツの一つ。劣化するとマフラーのがたつきによる異音や、脱落などの恐れがある。
3.まとめ
スポーツ走行は、一般的な公道を走る時よりもエンジンや駆動系、サスペンションなどクルマ全体に大きな負荷がかかります。そのため、公道ではあまり経験したことのないトラブルに見舞われてしまうことも少なくありません。そのトラブルを未然に防ぐためにも、エンジンオイルやミッションオイルといった油脂類、ドライブシャフトのブーツ、エンジンマウントなど目視で確認できる事前点検をしっかりと行いましょう。
点検をしていただきたい箇所は、今回ご紹介した部分以外にも多岐にわたります。ご自身で点検するのが不安な方は、事前にお近くのGR Garage に駐在しているGR コンサルタントにぜひ相談を。スポーツ走行中、またはその前後でクルマの異常を感じた時には、必ずお近くのGR Garage や自動車整備工場で点検を受けましょう。なお、 Vol.4 「サーキットメンテナンス 後編」では、タイヤ周りやブレーキ関係などをご紹介します。ぜひ合わせてご覧になってください。
※本ガイドは一般的なスポーツ走行に関するルールや注意事項であるため、事故を完全に防げるとは限りません。
運転者は常に自らの責任で周囲やご自身のクルマの状況を把握し、安全にスポーツ走行をお楽しみください。