GR010 HYBRID ~レース参戦車両~ 解説
4年目を迎える “GR010 HYBRID”
信頼性、ドライバビリティ、整備性などをハイパーカー規定に沿って向上
WEC(世界耐久選手権)ハイパーカークラス(LMH)の規則では、新規開発車両の基本部分についてはホモロゲーションサイクルと呼ばれ、5シーズンの間は改変が禁止されます。このためLMHクラス初年度の2021年シーズンにデビューしたGR010 HYBRIDの場合、2025年シーズンまでは開発凍結期間となり、2024年型GR010 HYBRIDも基本部分は2021年型から引き継いでいます。
一方、2022年以降に参戦を開始した後発のライバル車両は複数シーズンにわたってLMHクラスのレースを解析した後、最新技術と知見に基づき開発されているため、基本部分を2021年型から引き継いでいるGR010 HYBRIDより伸びしろがある可能性があります。こうした新しいライバルに対抗するため、TOYOTA GAZOO Racing(以下 TGR)の開発陣は、限られた開発領域に最適な改良を加えて2024年型を開発しました。
ただ単に動力性能や空力性能を引き上げても、最大出力やトルクカーブ、あるいは空力効率に制限が加えられるうえBoPと呼ばれる性能調整も行われ、無駄が生じかねません。TGRの開発陣が2023年シーズンのデータを分析したところ、絶対的なパフォーマンスではライバル車両に対して明らかな弱点が見つからなかったことから、2024年型の開発は絶対的なパフォーマンスよりも信頼性、ドライバビリティ、整備性などの面に重点を置いて進められました。
その結果、2024年型GR010 HYBRIDのボディーワークは、2023年型からほぼそのまま受け継いだものとなっています。外観上の違いはヘッドライト回りや給油口に確認できるのみです。昨年採用したヘッドライトは少し暗いと評価されたので、今年はリフレクター構造を変更しました。これでより広範囲を照らすようにして、視認性を向上させています。また給油口は、2023年型まではボディ右側面に設けられていましたが、2024年型では反時計回りのサーキットで給油効率を上げるためにボディ両側から給油ができるよう改良されています。どちらもドライバビリティや効率を考慮した改良となります。
外観からは視認できませんが、デビュー時点で品質過剰だったアンチロールバーが、よりシンプルなシステムに改善され、整備性向上も図られました。さらに、信頼性を向上させるため、センサーや遮熱に関する改良も加えられています。
デビュー後4シーズン目を迎えるGR010 HYBRIDは、その熟成度を高め安定した性能を発揮することで後発のライバル車両に対抗していきます。そして7年連続世界選手権ダブルタイトルと共に、ル・マン24時間レースの覇権奪回を目指します。
主要諸元
ボディ | カーボンファイバー構造 |
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ギアボックス | 横置き7速シーケンシャル |
ドライブシャフト | トリポッドCVジョイント式ドライブシャフト |
クラッチ | マルチディスク |
ディファレンシャル | 機械式ロッキングディファレンシャル |
サスペンション | プッシュロッド式独立懸架ダブルウイッシュボーン(前/後) |
スプリング | トーションバー |
アンチロールバー | 前/後 |
ステアリング | 油圧式パワーステアリング |
ブレーキ | アケボノ・モノブロック軽合金キャリパー/ベンチレーテッドディスク |
ホイール | レイズ マグネシウム合金,フロント:12.5x18インチ,リア:14x18インチ |
タイヤ | ミシュラン・ラジアル,フロント:29/71-18,リア:34/71-18 |
全長 | 4900mm |
全幅 | 2000mm |
全高 | 1150mm |
車重 | 1040kg |
燃料タンク容量 | 90リッター |
エンジン形式 | V型6気筒直噴ツインターボチャージャー |
バルブ数 | 4/シリンダー |
エンジン排気量 | 3.5リッター |
燃料 | ガソリン |
エンジン出力 | 520kW/707PS |
ハイブリッドパワー | 200kW/272PS |
バッテリー | ハイパワー型・トヨタ・リチウムイオンバッテリー |
フロントモーター/インバーター | アイシン / デンソー製 |