ラリー車両解説
GR YARIS Rally1 HYBRID
GR YARIS Rally1 HYBRIDは、2022年のFIA Rally1技術規則に準拠して新たに開発された最高峰ラリーカーである。Rally1は、2021年までトップカテゴリーを担ってきたWRカー(ワールドラリーカー)に代わる新規定車両であり、サスティナブルなモータースポーツを推進するための技術が多く採用され、そのひとつとして、トップカテゴリーのラリーカーとして初めてハイブリッドユニットが搭載された。
先代のヤリスWRCから引き継がれた1.6L直噴ターボ・エンジンに組み合わされる、全車共通のハイブリッドユニットは、3.9kw/hのバッテリーとモーター・ジェネレーター・ユニット(MGU)からなり、加速時には最大で100kw(約134馬力)のパワーと、180Nmのトルクを発生させる。つまり、エンジンとハイブリッドユニットが組み合わさると、Rally1は最高出力500PS以上、最大トルク500Nm以上を発揮することが可能である。また、ブレーキ時にはエネルギーを回生し、サービスパーク等ではバッテリーを外部電源に接続して充電することもできる。エンジンに関しては、新たに100%持続可能な非化石燃料が用いられた。合成燃料とバイオ燃料を混合した再生可能な燃料が、FIA世界選手権のモータースポーツで使用されるのは、Rally1が初めである。
レギュレーションの変更により、シャシーはスペースフレーム構造となり、ドライバーとコ・ドライバーの安全保護は従来のボディシェルよりもさらに強化された。外装では、2017年から2021年までのWRカーに見られたカナードなどエアロパーツの一部が、コスト抑制のために禁止されたが、サイドスカートや大型リヤウィングなど、クルマの走行安定性を高めるための要素は残されており、ハイブリッドユニットを含むパーツの冷却のためにボディサイドにはエアダクトが設けられる。
トランスミッションもコスト抑制のためレギュレーションでに簡素化され、前後機械式デフによる四輪駆動はそのままに、アクティブセンターデフは廃止。また、シンプルな機械式シフトの5速ギヤボックスを採用し、ステアリング付近のパドルを用いてのシフトチェンジは行なえなくなった。さらに、ダンパーのストローク量も短くなるなど、ハイブリッドユニット以外は全体的にシンプルな構造の車両となった。
2023年シーズンを戦うGR YARIS Rally1 HYBRID2023年車は、2022年車をベースにしながらも、ボディサイドのエアダクトの形状変更により、冷却効率と空力性能を最適化。機械式デフの諸元変更によるトラクション向上や、エンジンの吸気系変更によるトルク向上など、総合性能を高めるための改善が施された。2024年車については、低回転域でのレスポンスをさらに改善するためエンジンがアップデートされ、トルク曲線が改良された。また、外観についてはカラーリングが大きく変わり、マットブラックをベースとするものに改められた。これは負け嫌いを表わす「速さ」をイメージしたもので、競技車両がモータースポーツを起点とした、もっといいクルマづくりに繋がっていく「プロトタイプ」であり、ここから進化していくことを表わすものである。
GR YARIS Rally1 HYBRIDは、GR ヤリスの市販モデルをベースに、ヤリスWRCによる5シーズンのWRC参戦経験を活かして開発された。2017年にデビューしたヤリスWRCは、トヨタが20年ぶりにトップカテゴリー参戦のために開発したクルマであり、参戦2戦目のラリー・スウェーデンではやくも優勝した。しかしその後、様々な国のラリーで多くの試練も経験し、チームと選手は貴重な学びを実戦から得た。そして、2021年までの5シーズンに渡る参戦で、ヤリスWRCはエンジン、エアロダイナミクス、サスペンション、駆動系などをアップデート。ラリーを重ねるごとにパフォーマンスと信頼性を向上させていった。2018年にはマニュファクチャラーズタイトルを獲得し、2019年、2020年と二年連続でドライバーズタイトルとコ・ドライバーズタイトルを獲得。最終シーズンとなった2021年には12戦9勝を挙げ、獲得可能なタイトルを総なめにした。その、ヤリスWRCで培ってきたノウハウを、チームのエンジニアはGR YARIS Rally1 HYBRIDに全て投じ、サスティナブルな新時代のWRCを戦うラリーカーを世に送り出した。
各路面に対応する
3種類のタイヤ
グラベル用とターマック用ではタイヤのホイールサイズが異なる。グラベルでは15インチ。一方ターマックでは18インチタイヤを装着する。1大会で使用できるタイヤの本数は規定で決められており、いつタイヤを交換するかも重要な戦略のひとつとなる。
大会やSSごとに違う
セッティング、装備
クルマの仕様やセッティングは参戦するイベントごとに異なる。グラベル、スノー、ターマックの各ラリーでは使用するタイヤが違い、ブレーキやサスペンションも大きく異なる。スムーズな路面を走行するターマックラリーではぎりぎりまで車高を低め、荒れた路面のグラベルラリーではクルマが路面と接しないように車高を高める。また、降雨など路面コンディションの変化に応じて、随時サスペンションや駆動系のセッティングを変更する。夜間の走行時には、ボンネットにライトポッドと呼ばれる補助灯を装着して視認性を高める。
サービスパークでの作業は
時間との戦い
サーキットレースではピットでクルマの整備および修理をするが、ラリーではサービスパークで作業を行う。競技がスタートすると作業をできる時間やタイミングは限られ、通常は朝のスタート前に15分、日中に30分、そして夜に45分作業する事ができる。なお、夜のサービスを終えたクルマはパルクフェルメと呼ばれる車両保管場に入れられ、翌朝のサービスまで整備作業を行なうことはできない。
主要諸元
エンジン | |
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形式 | 直列4気筒直噴ターボエンジン(およびハイブリッドパワーユニット) |
排気量 | 1,600cc |
最高出力 | 500馬力以上 |
最大トルク | 500Nm以上 |
ボア×ストローク | 83.8mm x 72.5mm |
エア・リストリクター | 36mm(FIA規定による) |
トランスミッション | |
ギアボックス | 機械式5速シフト |
駆動方式・差動装置 | 4WD、機械式ディファレンシャルx2 |
クラッチ | 焼結ツインプレート・クラッチ |
シャシー/サスペンション | |
フロント/リア | マクファーソン・ストラット |
ダンパーストローク量 | 270mm |
ステアリング | 油圧式ラック&ピニオン |
ブレーキ・システム | ・グラベル用:300mm ・ターマック用:370mm |
寸量および重量 | |
全長/全幅/全高 | 4,225mm(空力パーツ込)/1,875mm/調整可能 |
トレッド幅 | 調整可能 |
ホイールベース | 2,630mm |
最低重量 | 1,260kg |
性能 | |
最高速度 | 201kph(理論値) |