// 2024 season

モータースポーツジャーナリスト古賀敬介のWRCな日々

  • WRCな日々 DAY55 - 大激戦となった開幕戦モンテカルロ 熾烈な優勝争いの中で見えたものとは?

大激戦となった開幕戦モンテカルロ
熾烈な優勝争いの中で見えたものとは?

WRCな日々 DAY55 2024.2.7

昨年、最終戦ラリージャパンを含む3勝を挙げドライバー選手権2位を獲得したエルフィン・エバンス、モンテカルロ通算9勝を誇るセバスチャン・オジエという強力なふたりに加え、ラリージャパンで10本のベストタイム(うち1本はノーショナルタイム)を刻んだ勝田貴元。今季、パートタイムでの出場となる世界王者カッレ・ロバンペラこそ出場を見合わせたが、それでも2024年WRC開幕戦ラリー・モンテカルロにおけるTGR-WRTのラインアップはコンペティティブであり、チームとしてのポテンシャルは非常に高いレベルにあった。

昨年と同じようにモナコでのセレモニアルスタートに続いて行なわれた木曜日の2本のステージでは、エバンスが連続でベストタイムを記録。2本、合計46.2kmのナイトステージで、総合2位のティエリー・ヌービルに15.1秒という大差を築いた彼の走りは圧巻だった。エバンス自身は「1本目のステージは想像以上にグリップが高かった」「2本目はコンディションが一定ではなく、コーナーごとにどこまで攻められるのか判断するのが非常に難しかった」とコメントするなど、それほど大きな手応えを感じてはいないようだった。ところが、刻まれたタイムは素晴らしく、ラリーに持ち込んだセットアップが上手く機能し、クルマの仕上りが良いことを感じさせた。

2024年シーズンを迎えるにあたり、TGR-WRTはGR YARIS Rally1 HYBRIDのエンジンをアップデート。低回転領域でのアクセルペダル操作に対するレスポンス改善をはかった。それに加え、セットアップの範疇ではあるが、「さらにしっかりとストロークする」ようにと足まわりをチューン。2022年のデビュー年から安定して高いパフォーマンスを発揮してきたGR YARIS Rally1 HYBRIDではあるが、荒れた路面での接地性はやや不足していたとチームのエンジニアは言う。その傾向はグラベル(未舗装路)ラリーに限らず、ターマック(舗装路)ラリーでも見られ、例えば2022年にベルギーで行なわれたWRCイープル・ラリーではグリップ不足が顕著だった。荒れた路面でクルマが少し跳ねやすいという、ドライバーたちからのフィードバックに対し、エンジニアたちは地道に改善に取り組んできたのだ。そして、トリッキーなコンディションのナイトステージで、まずはクルマが正しく進化を遂げたことが証明された。

エバンスは、フルデイ初日となった金曜日のデイ2も好調を保ち首位の座をキープ。しかし、総合2位に対するリードは4.5秒に目減りした。オジエが一気にペースを上げ、ヌービルを抜いて総合2位に順位を上げてきたのだ。オジエは、木曜日のナイトステージでエバンスに21.6秒差をつけられていた。その理由のひとつとして、出走順が4番手とライバルよりもやや後方だったことも影響したようだ。オジエが走るころには、既に前走者たちによるコーナーのインカット走行により多くのグラベルが路面に掻き出され、グリップがかなり低くなっていたという。しかし、金曜日は出走順が3番手となったことで僅かながらコンディションは改善。それもオジエの快進撃を後押しし、3本のベストタイムでエバンスの背後に迫った。いずれにせよ、デイ2でもGR YARIS Rally1 HYBRIDは好調だったといえる。

流れがやや変わったのは、土曜日のデイ3だった。オジエは依然好調だったが、エバンスは午前中のステージで失速。首位の座から滑り落ち、ヌービル、オジエに次ぐ総合3位に順位を下げてしまった。最初のつまずきは、8番手タイムに終わった2本目のSS10だった。そのステージでエバンスは、Rally1の全車共通供給パーツであるハイブリッドシステムにトラブルが発生し、ハイブリッドブーストを得られず大きくタイムをロス。総合2位に順位を下げた。同じトラブルは続くSS11でも起こり、エバンスは5番手タイム。その後、ミッドデイサービスでトラブルは解決されたが、午後のステージでもエバンスのペースは思うように上がらなかった。

チームによると、クルマもセットアップも特に悪くはなかったという。故に失速の理由は明確ではないが、午前中のトラブルにより走りのリズムを失ってしまったことが響いたのではないかとチームは推測する。ラリーはメンタルが大きく影響するスポーツであり、クルマとのシンクロ率や僅かな自信の差がタイムに大きく影響する。金曜日まで感じていたいいフィーリングと自信が、アンラッキーなトラブルによって失われたとしても不思議ではない。そのような状況で限界に挑もうと無理をすると、大きなミスをする確率が格段に高まる。そのためエバンスは大きなリスクを冒してまで総合優勝を狙うことを断念し、シーズン全体を考えて可能な限り多くのポイントを持ち帰るアプローチに切り替えた。総合3位という結果と手にした21ポイントを、エバンスだけでなくチームもポジティブに捉えているようだ。

通算10回目のラリー・モンテカルロ優勝を狙っていたオジエは、金曜日のペースアップにより優勝を狙える位置につけた。そのきっかけとなったのは、2本目のSS4およびSS5でのベストタイムであるが、特にSS5では18.31kmのステージで2番手タイムのエバンスに11.2秒差、5番手タイムのヌービルに16.9秒差をつけるなど、飛び抜けた速さだった。

このSS5は、今大会でもっとも美しいステージと言われていたが、路面コンディションは非常に複雑だった。ステージのスタートは昼過ぎ。路面はドライおよび湿っているセクションが大部分を占めたが、凍結区間も少なくなかった。勝負を分けるのはどこがどれくらい凍っているかのジャッジだが、それがとにかく難しい。週前半のレッキでペースノートを作った時からは随分と時間が経過し、当然コンディションは変化している。そのギャップを埋めるのがセーフティクルー(=グラベルクルー)の仕事であるが、セーフティクルーがコースを走ってから、実際にステージが始まるまでには2時間程度ある。特にSS5は日が高くなってからのステージのため、その2時間で凍結していたアイスが溶けてしまっていた場所も多かったようだ。当然、そうなることは選手もセーフティクルーも理解しているが、どれだけ路面状況が変化するのかを予想することは難しい。そして、オジエのセーフティクルーを務める元WRCドライバーのシモン・ジャン=ジョセフは、このSS5で素晴らしい仕事をした。多くのドライバーが、凍結区間が多く残っていると予想し所々で大幅に速度を抑えたのに対し、オジエはジャン=ジョセフによる精度の高い修正済みペースノートを信頼し、トリッキーなステージを攻め切った。その結果が圧倒的なベストタイムであり、セーフティクルーがいかに重要な存在であるかを改めて知らしめたステージだった。

金曜日の3本のベストタイムにより、オジエは首位エバンスと4.5秒差の総合2位に順位を上げた。勢いに乗るオジエは、土曜日のデイ3でも3本のベストタイムを刻むなど好調を保ち、午後のステージでは一時的にトップに立った。しかしながら首位で一日を終えることはできず、ヌービルと3.3秒差の総合2位で最終日を迎えることに。オジエも速かったが、ヌービルもまた2本のベストタイムを刻むなど非常に調子が良く、クルマに対して大きな自信を持っているような走りだった。土曜日はヌービルだけでなく、今季ヒョンデに「復帰」したオィット・タナックもベストタイムを記録。全体的に、土曜日はヒョンデ勢がスピードを上げていったという印象が強い一日だった。そして、その傾向は最終日の日曜日でさらに強まり、ヌービルは3本のベストタイムでオジエの追撃を振り切り、2020年大会以来となるモンテカルロ優勝を手にした。

オジエも非常にいい走りをしていたが、全力でアタックしてもヌービルのペースには届かなかったと証言している。彼らの力関係は2020年大会を思い出させるものであり、ラリー終盤はヌービル&ヒョンデにやや分があったようだとTGR-WRTのエンジニアは分析している。より具体的には、ラリー前半のステージは全体的に路面が少し荒れていたりトリッキーで、そのような状況ではGR YARIS Rally1 HYBRIDの改良された足まわりが抜群のグリップを発揮。トラクションもしっかり効いていた。対してヒョンデのi20N Rally1 HYBRIDは荒れた路面で接地がやや安定せず、オンボード映像でもクルマが大きめに動く挙動が見てとれた。しかし、ラリー後半はスムースな路面が増えi20N Rally1 HYBRIDの挙動は安定。それがヌービルの自信を高め、スピードアップに繋がったと考えられる。

全体的に見て、今大会での両陣営のパフォーマンスはイーブンに近く、路面やコンディションとの相性により勢力図がステージごとに微妙に変化した。それもあって非常に見応えのあるラリー展開となり、世界最速を競うに相応しい一戦になった。そして、勝利を逃したとはいえ、TGR-WRTのエンジニアたちはクルマの仕上りやラリーの内容については、かなり満足しているようだ。ターマックラリーにおいては、荒れた路面での接地性が大きく向上したことが確認されたからである。また、マニュファクチャラー選手権に関しても、オジエとエバンスの獲得ポイントに加え、勝田のパワーステージ3番手タイムによってもたらされた3ポイントにより、合計46ポイントを獲得。2位ヒョンデに対し、1ポイント差ではあるがリードを築いた。長いシーズンの初戦であることを考えれば、上々のスタートを切ったといえるだろう。

古賀敬介の近況

シーズンの始まりはウインターラリーが2戦続きます。ということで、僕も雪山でスノートレーニング。1月には仲間のレースカメラマンたちとスキー合宿をしました。雪質がとても良かったので連日目一杯滑りまくり、全身筋肉痛に悲鳴を上げながらも、とてもいいリフレッシュになりました。

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