ホームイベント1-3フィニッシュで今季2勝目を達成。
しかし「もっといいクルマづくり」に終わりはない。
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すべては3年前のラリー・フィンランドから始まった
今から3年前の2014年7月、トヨタ自動車社長の豊田章男は初めてラリー・フィンランドを訪れ、あるひとつの大きな決心をした。「フィンランドにWRCチームの開発拠点を置こう」と。豊田は、かつて4度WRCチャンピオンとなったトミ・マキネンが製作した、GT86(日本名ハチロク)のラリーカーの助手席に座り、多くのドライバーが「WRC最高のSS」と名を挙げる「オウニンポウヤ」のSSを実際に走行。コースサイドの人々の笑顔と興奮、ラリーの素晴らしい雰囲気、そしてクルマに大きな負荷を課すフィンランドの道を体験し、この地こそが「もっといいクルマづくり」の開発拠点に相応しいと確信した。フィンランドの道でマキネンとクルマづくりについて深く話し合い、意気投合した豊田は、マキネンをプロジェクトの指導者に指名。マキネンは、WRCの常識から考えると異例ともいえる短期間でチームとクルマを作り上げ、今シーズンの開幕戦であるラリー・モンテカルロに2台のヤリスWRCを送り込んだ。そう、すべては3年前のラリー・フィンランドから始まったのである。
人々の生活道路が世界最高峰のスペシャルステージに
豊田が感銘を受けたラリー・フィンランドの道は、自然の地形を活かした、森の中の未舗装路(グラベル)である。フィンランドの主要幹線道路はもちろん舗装路だが、都市部を少し離れると依然として多くの未舗装路が残り、そこに住む人々にとっては重要な生活道路となっている。そして、ラリーの舞台となるフィンランド中部ユバスキュラ周辺の未舗装路は、全体的に道幅が広く、緩やかなコーナーが続き、アップダウンが大きい。法定速度を遵守して走行しても、初めてフィンランドの未舗装路を体験した者は「道が持つ迫力」に気圧されるだろう。そしてラリー・フィンランドでは、その生活道路がクルマとヒトの限界を競うSSと化し、WRCでもっともSSの平均速度が高いハイスピードグラベルラリーの舞台となる。つまり、生活道路とSSの間に垣根はなく、その道を普段から走る人々の運転技術は自然と上がる。多くの優れたラリードライバーを生みだす土壌が、フィンランドには整っているのだ。
目指したのは、ドライバーが全幅の信頼を置けるクルマ
TOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamの3名のドライバー、そして彼らの走りを支える3名のコ・ドライバーは、いずれもフィンランド人である。左右だけでなく上下方向にも大きくうねり、ジャンプをしながらコーナーを曲がっていくような道で彼らは育ち、腕を磨いた。そして、やはりフィンランド人であるマキネンが陣頭に立って開発したヤリスWRCは、そのような道でも最高の力を発揮するような設計がなされている。エアロパーツはハイスピードになればなるほどクルマをしっかりと路面に押し付け、クルマの安定性を向上させる。また、長いストロークが確保されたサスペンションは、クルマが宙に浮くギリギリまでタイヤを路面に接地させようとする。「いかなる状況でもドライバーが自信を持って、安心して走れるようなクルマづくりを目指してきた。どれだけ性能が高いクルマを作っても、ラリーではヒトがクルマを100%信じられない限りはその性能を引き出すことはできない。私自身もドライバーだったからわかるが、とにかく全幅の信頼を置けるクルマを目指した」と、マキネン。そして、彼がチームと共に精魂込めて作り上げたヤリスWRCは、ホームイベントであるラリー・フィンランドで、その持てる力をフルに発揮した。
ラッピとラトバラが連続SSベストタイムでラリーを牽引
ヤリスWRCの3名のドライバーは、3本目のステージとなるSS3でまずラトバラがSSベストタイムを記録し、SS4でトップに立った。そして、SS4からSS7にかけてはWRカー4戦目のラッピが連続ベストタイムをマーク。「クルマに自信を持って走ることができている。もっと速く走ることだってできる」と言い、さらに4本のSSベストタイムを積み重ね、SS10でラトバラを抜き総合1位で初日を締めくくった。しかし、競技3日目のデイ3が始まると、前日の不利な早い出走順から開放されたラトバラが本来の力を発揮。SS14から18にかけて5本連続ベストタイムを記録し、ラッピを抜き返しトップに返り咲いた。「高速コースでのヤリスWRCのハンドリングは本当に素晴らしい」とラトバラが言えば、2位ラッピは「ヤリ-マティのスピードにはついていけない」と、ベテランの凄みさえ感じさせる走りに敬服。そしてユホ・ハンニネンも一時3位につけ、3台のヤリスWRCがトップ3を占めた。
しかし、盤石と思われたラトバラにまさかの結果が待ち受けていた。SS19を快調に走っていたラトバラは、コースの途中で突然ストップ。電気系にトラブルが発生したのだ。ラトバラとコ・ドライバーのミーカ・アンティラは自力での対処を試みたが、クルマは起動せず。彼らは手にしかけていた勝利を失った。ラトバラは「こういうことも起きるのがラリーだ。残念だけど受け入れなければならない。しかし、ヤリスWRCが速かったことは確かだし、これからのラリーに向けて大きな自信になった」と、悔しい気持ちをぐっと飲み込み、ポジティブに将来を見据えた。
今季2勝目で大きな自信を得るも、いいクルマづくりに終わりはない
ラトバラのリタイアにより首位に浮上したラッピは「ヤリ-マティは本当に速かった。だから、このような形で1位になるのは本意ではない」と、複雑な心の内を吐露しながらも、自身の初優勝、そしてチームにとってのシーズン2勝目に向けて集中力を高めた。既に充分なリードは得ていたが、最後まで走り切ることの難しさはよく知っている。ラッピは最終日の最後のSSまで一切気を抜くことなく戦い続け、そして地元フィンランドでWRC初優勝を成し遂げた。最終SSを走り終えたラッピのもとに、マキネン、ラトバラ、そして3位に入り初表彰台を獲得したハンニネンが駆け寄り、若きラッピの勝利をまるで自分のことのように喜んだ。一丸となってクルマを開発し、共に戦ってきたチームとしての勝利が、そこにはあった。
「今回のラリーで、自分たちのクルマづくりが正しかったことが証明された。そして、ラッピが並外れた才能の持ち主であることも。しかし、私たちの戦いに終わりはない。ヤリ-マティのトラブルは、今まで起こったことがないものだったが、彼の優勝を阻むことになり本当に申し訳なく思う。絶対に再発しないよう、対策に全力を尽くす。また、次のラリー・ドイチェランドはターマック(舗装路)ラリーで、我々がもっと成長をしなければならない路面での戦いとなる。より良いクルマを作り上げるために、これからさらに集中して開発に臨まなくてはならない」と、マキネンは地元ラリーでの勝利を喜びながらも、次なる戦いに向けて素早く気持ちを切り替えた。
RESULT
WRC 2017年 第9戦 ラリー・フィンランド
順位 | ドライバー | コ・ドライバー | 車両 | タイム |
---|---|---|---|---|
1 | エサペッカ・ラッピ | ヤンネ・フェルム | トヨタ ヤリス WRC | 2h29m26.9s |
2 | エルフィン・エバンス | ダニエル・バリット | フォード フィエスタ WRC | +36.0s |
3 | ユホ・ハンニネン | カイ・リンドストローム | トヨタ ヤリス WRC | +36.3s |
4 | テーム・スニネン | ミッコ・マルックラ | フォード フィエスタ WRC | +1m01.5s |
5 | クレイグ・ブリーン | スコット・マーティン | シトロエン C3 WRC | +1m22.6s |
6 | ティエリー・ヌービル | ニコラス・ジルソー | ヒュンダイ i20 クーペ WRC | +1m33.1s |
7 | オット・タナック | マルティン・ヤルヴェオヤ | フォード フィエスタ WRC | +1m53.6s |
8 | クリス・ミーク | ポール・ネーグル | シトロエン C3 WRC | +3m12.6s |
9 | ダニ・ソルド | マルク・マルティ | ヒュンダイ i20 クーペ WRC | +4m11.5s |
10 | マッズ・オストベルグ | トースタイン・エリクソン | フォード フィエスタ WRC | +4m21.2s |
21 | ヤリ-マティ・ラトバラ | ミーカ・アンティラ | トヨタ ヤリス WRC | +20m15.8s |