チーム新加入のタナックが初戦で総合2位に入り
3位ラトバラと共にモナコの表彰台に上った
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WRC復帰初年度最初の戦いとなった去年のラリー・モンテカルロで、TOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamはヤリ-マティ・ラトバラが2位に入り、シーズンをスタートした。そして、復帰2年目となった今年はヤリスWRC 3台をエントリー。新たにオット・タナックをドライバーとして迎え、2年目のシーズン開幕戦に臨んだ。
ラリー・モンテカルロを前に、3名のドライバーはそれぞれ異なるターゲットを掲げた。チーム2年目のラトバラはシーズンを見据えた戦略を重視し、ニューカマーのタナックはまずヤリスWRCに慣れることを最優先。そして、WRカーでのモンテカルロ出場は今回が初となるエサペッカ・ラッピは、可能な限り多くの経験を積み重ねることを目標に置いた。
前年のチームメイト、ハンニネンの支援を受け戦うラッピ
ラッピにとって心強かったのは、去年までチームメイトだったユホ・ハンニネンが、彼の「セーフティークルー」を担ったことだ。ターマック(舗装路)ラリーでは、降雨などによりコースコンディションが大きく変わり、レッキ(競技前に行われるSSの下見走行)と実際のSS走行時では路面の状態が大きく異なるケースが少なくない。グラベル(未舗装路)ラリーならばクルマやタイヤの対応幅が広く、多少のコンディション変化なら問題なく走れる。しかし、ターマックではたとえトップドライバーであっても、全開走行時は予期せぬ路面グリップ変化に対応することは難しい。そこで、選手の安全を高めるという目的で、SSの開始直前にチームのスタッフが実際にコースを走行し、路面状態の変化を選手に報告することが許されている。そのスタッフは「セーフティークルー」と呼ばれ、各選手は信頼の置けるスタッフと契約。自分と同じような運転の技術やスタイルを持つスタッフならば、安心して仕事を任せられるからだ。ラッピにとって、去年まで同じクルマで戦っていたハンニネンは心から頼れる兄のような存在であり、大きな精神的後ろ盾となった。
今年のラリー・モンテカルロのSSは、レッキ時はその多くがドライ路面だった。しかし日陰の部分には一部雪が残り、またウェット路面は夜間気温が下がると凍結し日中とはグリップレベルが大きく変わる。モナコでの華麗なるセレモニアルスタートに続いてフランス山中で始まったデイ1の2本のSS は、まさにそのような路面が舞台となった。特にSS1は凍結箇所が多く、どれほど注意深く走ってもミスを完全にゼロにすることは難しい。このラリーを何度も制している世界王者でさえもスピンをしたほどだ。いきなりコースを外れ大幅にタイムを失ったトップドライバーもいる中で、ラッピは、SS1で3番手タイムを記録。最初の難関を、ハンニネンの的確な情報提供を得て走破したのである。
ヤリス初戦のタナックがSSベストタイムで総合2位に浮上
競技2日目のデイ2は、タナックのSSベストタイムで始まった。ドライ中心ながら一部ウェットのSS3で、タナックはチーム加入後初となるトップタイムを記録し、順位を総合4位に上げた。その後も降雨により湿った路面のSSで2〜3番手タイムを刻み続け、総合2位に浮上。SS6では2回目のベストタイムをマークするなど、好調にデイ2のステージを走り続けた。そして、6本のSSを終え首位と14.9秒差の総合2位でデイ2を終了した。タナックは「クルマのフィーリングはとても良い。とにかくハンドリングが機敏で自分が思っているように動く。また、トリッキーな路面でも自信を持って走ることができる。まだ改善できる部分はあるに違いないが、現時点でもクルマにはかなり満足している」と、顔を輝かせた。
テストで感じていた良いフィーリングが実際のラリーでも変わることなく得られ、タナックはヤリスWRCに全幅の信頼を置きラリーを続けた。デイ3のコースはドライ、ウェット、新雪、シャーベット状の溶けた雪、アイスバーン、泥で覆われた舗装路と、ありとあらゆる路面コンディションがSS中に現れた。そのようなコースでは100%正しいセッティングやタイヤ選択を行なうことは不可能であり、いろいろ妥協をしながらベストな走りを見つけていかなければならない。クルマには対応力の広さと、高い安定性が求められるが、タナックを始めとするヤリスWRCの3クルーは、自信を持ってSSをアタックし続けた。タナックはSS10とSS11でベストタイムを記録。デイ2の総合5位から3位に浮上したラトバラは、ベテランらしく安定したペースを維持した。そしてラッピは、パンクで一時5位に順位を落としたが、その後自力で挽回に成功し、デイ2と変わらぬ総合4位でデイ3を走り終えた。その結果、ヤリスWRCは総合2-3-4位という理想に近いフォーメーションで、翌日の競技最終日デイ4に臨むことになった。
例年以上に悪条件のSSを走破し2クルーが表彰台に立った
モナコを基点とする最終日のデイ4は、SSの走行距離が短く、タナックとラトバラはポジション維持を最優先する戦略をとった。モナコの北側フランス山中のSSは全体的にドライであると考えられたが、実際は雪やアイスバーンに覆われたパートも多く、最後まで予断を許さない路面コンディションが続いた。しかし、タナックとラトバラは終始落ち着いた走りで4本のSSを走破。ただ完走することだけでも難しいとされる伝統のラリー・モンテカルロで、2年目のTOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamは2-3位に入り、表彰台に2クルーが上った。チームとしての最高位は2位と、去年と変わらない。しかし今年はライバルの脱落に助けられて得た2位ではなく、タナックが自らのスピードで勝ち取った2位である。また、ラトバラの順位は去年の2位よりもひとつ下がったが、内容的にはむしろ充実していた。いずれにせよ、ヤリスWRCは特に大きなトラブルなくトリッキーなSSを走り抜き、ドライバーをふたり表彰台に導いたのだ。チームにとっては、今後のシーズンに向けて非常に勇気づけられる内容のラリーとなった。
最終SSのミスで4位を失うもラッピは完走を果たす
残念だったのは、デイ3で総合4位につけていたラッピである。着実な走りで経験を蓄積してきたラッピは、最後まで自分のペースを保ち続けようとした。しかし、最終SSで僅かなドライビングミスによりコースを外れスタック。復帰を果たしたもののタイムを大きく失い、SSフィニッシュ後順位は7位に落ちていた。最後の最後でミスをし、チームの2-3-4フィニッシュを実現できなかったことをラッピは心から悔やみ、自分に対する怒りからしばらくクルマの中に閉じこもり続けた。しかし、チームメイトが、そしてライバルが次々とラッピに声を掛け、彼の気持ちを和らげようとした。多くのトップドライバーが、ラッピと似たような経験をし、それを糧に成長してきたのだ。ラッピの心の痛みは自分のことのようによく理解できる。だから、思わず励ましたくなるのだろう。ただしラッピは、すべてのSSを走り切るという目標自体は達成し、やや目減りはしたがポイントも獲得した。彼が得た今回の経験は、来年のラリー・モンテカルロで必ずや大きな推進力となるだろう。
タイトルを目指す戦いはまだ始まったばかり
現場でチームの戦いを見守り続けたGAZOO Racing Companyの友山茂樹プレジデントは「クルマにトラブルなく3台すべてが完走したのは、とても素晴らしいことだと思います。そして、この難しいラリーでの2、3位という結果は喜ぶべきものです。しかし、今年の我々の目標はタイトル争いに加わりチャンピオンになることなので、これからさらにクルマを鍛え、優勝を狙って戦わなければなりません」と、開幕戦ラリー・モンテカルロを総括した。シーズンはまだ始まったばかり。今後、ライバルも確実に力を高めてくるだろう。1戦1戦ハイレベルなラリーを戦い抜き、好結果を残し続けなければならない。11月の最終戦ラリー・オーストラリアをゴール地点とする、緊張感に満ちた長い戦いの日々が始まった。
RESULT
WRC 2018年 第1戦 ラリー・モンテカルロ
順位 | ドライバー | コ・ドライバー | 車両 | タイム |
---|---|---|---|---|
1 | セバスチャン・オジエ | ジュリアン・イングラシア | フォード フィエスタ WRC | 4h18m55.5s |
2 | オット・タナック | マルティン・ヤルヴェオヤ | トヨタ ヤリスWRC | +58.3s |
3 | ヤリ-マティ・ラトバラ | ミーカ・アンティラ | トヨタ ヤリスWRC | +1m52.0s |
4 | クリス・ミーク | ポール・ネーグル | シトロエン C3 WRC | +4m43.1s |
5 | ティエリー・ヌービル | ニコラス・ジルソー | ヒュンダイ i20 クーペ WRC | +4m53.8s |
6 | エルフィン・エバンス | ダニエル・バリット | フォード フィエスタ WRC | +4m54.8s |
7 | エサペッカ・ラッピ | ヤンネ・フェルム | トヨタ ヤリスWRC | +4m57.5s |
8 | ブライアン・ブフィエ | クザビエ・パンセリ | フォード フィエスタ WRC | +7m39.5s |
9 | クレイグ・ブリーン | スコット・マーティン | シトロエン C3 WRC | +9m06.7s |
10 | ヤン・コペツキ | パヴェル・ドレスラー | シュコダ ファビア R5 | +16m43.0s |