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WRC 2018 第7戦 ラリー・イタリア

サマリーレポート

WRC Rd.7 イタリア サマリーレポート

2018年シーズン前半戦最後のサルディニアで見えた
現時点でのパフォーマンスと今後に向けての改善点

 サルディニア島は、イタリア屈指のリゾートであり国内外の多くの観光客が陽光を求めて島を訪れる。「ラリー・イタリア サルディニア」のサービスパークが置かれる、島北東部のアルゲーロも人気の保養地で、青い空と海が人々を魅了する。しかし、ラリーウィークが始まった6月の第2週目前半は生憎の悪天候となり、断続的な雨が地面を濡らした。そのため競技初日のデイ1から翌デイ2にかけてのグラベル(未舗装路)ステージは、多くの部分がウェットコンディションとなった。

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完全復活を目指すラトバラが3位スタート

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 ラリー・イタリア サルディニアといえば、もうもうと土煙を上げながらラリーカーが走行するシーンが目に浮かぶが、競技2日目のデイ2は降雨により表面がマッド(泥)に覆われた路面も多く、例年と様相が大きく異なった。「自分の記憶では、このラリーでは過去10年くらい雨が降っていなかったはずだ。サルディニアというよりも、イギリスのラリーGBのような泥だらけのコースが多く苦労した」と、総合3位につけたヤリ-マティ・ラトバラ(ヤリスWRC 7号車)はデイ2を振り返った。



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 ここ数戦アクシデントにより苦戦が続いていたラトバラは、過去に優勝経験があるサルディニアで流れを変えようと強い決意でラリーに臨んだ。SSの事前下見走行であるレッキでは、普段のラリー以上に注意深くステージの状態をチェック。特に、大きな石がある所ではレッキカーから降りて確認し、路面に埋まっている石についても、それが本番中に掘り起こされる可能性があるかどうかまで詳しく調べた。また「ややアグレッシブだった自分のドライビングスタイルも改め、できるだけクルマにダメージを受けないような走りを心がけた」とラトバラは、万全を期してラリーに臨んだ。そして、安定した走りを続けながらもデイ2最終のSS9ではベストタイムを記録するなど、速さを示して1日を締めくくった。



3位につけていたタナックにまさかのトラブル発生

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 前戦ラリー・ポルトガルで失意のリタイアとなったオット・タナック(8号車)は、SS4でベストタイムを刻み、開幕戦から続く全ラリーでのベストタイム獲得記録を更新した。そして総合2位と5.7秒差の3位でデイ2最後のSS9に挑んだが、ジャンプの着地の際クルマのフロント部が地面に強く当たり、衝撃で冷却系が破損。エンジン本体にダメージが及ぶことを避けるため、タナックはすぐにエンジンを止めたが、フィニッシュ目前でデイリタイアを余儀なくされた。問題のジャンプはシェイクダウン時にも3回走っており、午前中の1度目の走行時も問題なくクリアした。タナックは午前の1走目と同じアプローチでジャンプを飛んだのだが、なぜか2走目ではフロントにダメージを負うことになってしまった。詳しく原因を精査する必要はあるが、アンラッキーな面も強いアクシデントだった。



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 サービスに移送されたタナックのクルマは、状態を調べるためにエンジンが降ろされた。コンピュータのデータ上ではエンジン本体に問題はなかったが、損傷の可能性がある補機類に関してはすべて外され、新しいパーツに交換するという大きな作業がメカニックによって行なわれた。そして、非常に短い時間でエンジンはボンネット内に再マウントされ、ヤリスWRC 8号車は息を吹き返した。勝機は失ったが、ラリー2規定に基づき再出走することでポイント獲得のチャンスはある。タナックはメカニックたちに対する感謝の気持ちを胸に、デイ3に再出走した。



スローパンクチャーでラッピがタイムロス

 昨年、WRカーで初めて出場したサルディニアで総合4位に入ったエサペッカ・ラッピ(9号車)は、デイ2最初のSS2でスローパンクチャーを喫した。そのためSSを走りきった後タイヤの交換作業を行なったが、搭載していたスペアタイヤはドライ路面で最大の効果を発揮するハードタイヤだった。しかしステージは依然濡れた路面が多く、ハードタイヤよりもソフトタイヤがマッチするコンディションだった。そのためラッピはペースを思うように上げられず総合10位に留まったが、サービスを挟んで午後最初のSS6では2番手タイムを記録。徐々にスピードを上げて行き、デイ2最終のSS9ではラトバラに続く2番手タイムを刻み総合4位まで順位を回復した。

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ラトバラとラッピが総合3位を巡り好バトルを展開

 デイ2が終了した時点で、総合3位ラトバラと4位ラッピの差は4.4秒。いずれもポジションアップが十分可能な位置につけていたため、結果的にデイ3ではラトバラとラッピが僅差のバトルを繰り広げることになった。デイ3最初のSS10ではラトバラがやや遅れをとり、差は僅か0.9秒に縮まった。しかし、続くSS10では6秒差に開くなど、ハイレベルなクリーンファイトが延々と続いた。ラトバラはSS12で2番手タイムを、ラッピはSS13でベストタイムを記録。再出走を果たしたタナックもSS10でベストタイムを刻み、ヤリスWRCは全車が高いパフォーマンスを発揮した。

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 しかし、デイ3最後のSS16を走り終えたラトバラのクルマに、まさかのトラブルが発生する。オルタネーターに問題が起こり、サービスへと戻るリエゾン(移動区間)でバッテリーの電圧が下がり走行不能となってしまったのだ。ラトバラとコ・ドライバーのミーカ・アンティラは、自力で問題解決を図るべく全力を尽くした。しかし、優れたエンジニアリング能力を備える彼らの力を持ってしても、トラブルを修復することはできず。デイリタイアを決断しなくてはならなかった。ラトバラは、アンティラの記念すべきWRC出場200戦目を表彰台の上で祝おうと、ステディな走りを続けてきた。しかし、残念ながらその思いはロードセクションで潰えてしまった。

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ラッピ、今シーズン初の表彰台フィニッシュ

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 ラトバラがデイリタイアした結果、ラッピは総合3位に順位を上げた。その時点で総合2位とも4位とも大きな差がついていたため、最終日のデイ4はリスクを負わず、クルマをフィニッシュまで運ぶ事がラッピの仕事となった。そしてラッピは、完全にコントロールされた走りでデイ4の4本のSSを走りきり、総合3位でフィニッシュ。今シーズン初、そして昨年WRC初優勝を果たしたラリー・フィンランド以来のポディウム登壇である。昨年の総合4位を上まわる順位でフィニッシュするというスタート前の目標を達成したラッピは「もちろん3位はとても嬉しい」と笑顔を浮かべながらも「しかし、上位ふたりとの差は大きく、彼らとこのラリーで勝負をするためには、もうひとつ上のレベルに進まなければならない」と、自身のさらなる成長を誓った。



さらなる性能と信頼性向上のため改善を継続

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 今回のラリー・イタリア サルディニアでは、ラッピの3位を筆頭に、デイ4で再出走を果たしたラトバラが7位、タナックが9位と、ヤリスWRCは全3台が完走を果たしポイントを獲得した。しかし、目標は優勝だっただけに100%満足できる結果ではない。チーフエンジニアのトム・フォウラーは「ポルトガルで起きた一部問題への対策は行いその成果は確認できたが、また新たなる課題が見つかった。今回は不運な面もあったとは思うが、同じような事が再び起こらないようにチームとしても全力で改善に努める」と、シリーズ前半戦最後のラリーとなったサルディニア戦を総括した。



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 パフォーマンスの面でも、信頼性の面でもヤリスWRCにはまだまだ伸び代がある。クルマの開発にゴールは存在しない。手をかければかけるほど、クルマはまるで生き物のように成長することを、チームは理解している。WRC次戦は、TOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamにとってのホームイベントである、第8戦ラリー・フィンランド。昨年はラッピが優勝、ユホ・ハンニネンが3位に入るなどシーズン最良の結果を得た。昨年以上のリザルトを狙うべくチームは、約6週間のサマーブレイク期間中にも開発を進めヤリスWRCのさらなる性能向上に努める。



RESULT
WRC 2018年 第7戦 ラリー・イタリア

順位 ドライバー コ・ドライバー 車両 タイム
1 ティエリー・ヌービル ニコラス・ジルソー ヒュンダイ i20 クーペ WRC 3h29m18.7s
2 セバスチャン・オジエ ジュリアン・イングラシア フォード フィエスタ WRC +0.7s
3 エサペッカ・ラッピ ヤンネ・フェルム トヨタ ヤリス WRC +1m56.3s
4 ヘイデン・パッドン セバスチャン・マーシャル ヒュンダイ i20 クーペ WRC +2m55.2s
5 マッズ・オストベルグ トシュテン・エリクソン シトロエン C3 WRC +3m10.9s
6 クレイグ・ブリーン スコット・マーティン シトロエン C3 WRC +4m31.7s
7 ヤリ-マティ・ラトバラ ミーカ・アンティラ トヨタ ヤリス WRC +11m22.1s
8 ヤン・コペツキ パヴェル・ドレスラー シュコダ ファビア R5 +13m14.6s
9 オット・タナック マルティン・ヤルヴェオヤ トヨタ ヤリスWRC +13m18.2s
10 テーム・スニネン ミッコ・マルックラ フォード フィエスタ WRC +15m30.4s