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WRC 2018 第11戦 ラリー・グレートブリテン

サマリーレポート

WRC Rd.11 ラリー・グレートブリテン サマリーレポート

昨年トラクション不足に苦しんだウェールズのマディロードで
ダブルポディウムを実現するも、さらなる開発の必要性を痛感

 デビューイヤーとなった昨年、ヤリスWRCは高速ラリーで高いパフォーマンスを示し、スウェーデンとフィンランドで優勝した。一方で、実戦経験の少なさからいくつかのイベントでは苦戦し、改善すべき課題が浮き彫りになった。ラリー・グレートブリテン(GB)もそのひとつである。

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 ラリーGBは、イギリスのウェールズで行われる伝統のグラベル(未舗装路)ラリー。秋季のウェールズは天気が安定せず、森林・丘陵地帯のステージは雨や霧に見舞われることが多い。雨を多く吸収すると路面はマディ(泥状)となり、タイヤのグリップ力が大幅に下がる。その結果、エンジンのパワーが路面に伝わりにくい状態、すなわちトラクション(駆動力)がかかり辛くなるのだ。そのような路面で昨年ヤリスWRCは本来の力を発揮できず、TOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamはヤリ-マティ・ラトバラの総合5位が最高位だった。

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マディな路面でのトラクション性能が大幅に向上

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 トラクション不足の解決なくして、難関GBで優勝を争うことはできない。チームは昨年のラリーで多くを学び、地道に開発を続けた。近年WRCはテスト走行の制限が厳しく、ウェールズの道で頻繁にテストを行なうのは難しい。昨年の事前テストはドライに近い路面で行なわれたが、ラリー本番ではマディなコンディションとなり、テストで導き出したセットアップが上手く機能しなかった。しかし、今年の事前テストは雨にも恵まれ、ラトバラとオット・タナックはマディな路面で走行距離を伸ばし、十分なデータを収集。最終的にいずれも納得のできるセットアップに到達した。「トラクション、ハンドリングとも大幅に改善された。これでマディな道でも自信を持って走れるはずだ」と、ラトバラはヤリスWRCの進化を確信。17回目のスタートとなるラリーGBに、自信を持って臨んだ。



タナックが5本のSSベストタイムでデイ2総合1位に

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 10月4日(木)、ラリーはウェールズ北部の競馬場で幕を開け、短いステージながらエサペッカ・ラッピがSSベストタイムを、ラトバラが2番手タイムを刻んだ。そして、その良い流れは森林地帯のステージを走行する翌日のデイ2にも引き継がれた。前日からの断続的な雨により、デイ2の路面は全体的に湿り、一部は泥状に。ツイスティなコーナーが続きトラクション性能が試されるステージで、タナックは午前中の3本のSSをすべて制した。さらに、午後にも2本のベストタイムを記し、2位に28.8秒差を築いてデイ2を終えた。



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 「タイヤのグリップを確保しにくい路面で、クルマは大きく進化した。素晴らしいパフォーマンスを感じる」とタナック。第8戦フィンランドから3戦連続優勝を遂げ、ドライバー選手権では首位と13ポイント差の2位に浮上した。ラリーGBでも良い結果が得られれば、ドライバー選手権トップも見えてくる。



ラトバラ、ラッピも好調を保ちトップ3争いが激化

 デイ2で好調だったのはタナックだけでない。ラトバラもベストタイムを刻み、総合2位とわずか2.5秒差の3位につけた。また、事前テストでは主にドライコンディションでの走行となったラッピは、早朝のステージこそ濡れた路面に苦戦したが、その後セットアップを微調整しスピードアップに成功。ラトバラと4.6秒差の総合4位でデイ2を終えた。

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 昨年のラリーGBでは、トラクション不足以外の問題にも直面した。マディな路面を走り続けた結果、クルマの各部に泥が蓄積されていき、車両重量が大幅に増加してしまったのだ。最大で100kg以上の泥を拾い、特にクルマの後部に多くの泥が溜まった。その結果、重量配分が後ろ寄りとなり、フロントタイヤのグリップが低下。ステアリングを切ってもクルマが曲がりにくい、アンダーステアの症状にラトバラらは悩まされた。昨年の苦い経験を踏まえての対策は奏功し、今年のラリーGBでは泥の蓄積はかなり抑えられ、ハンドリングに対する影響もほとんど出なかった。

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首位を快走していたタナックにまさかのトラブル発生

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 ウェールズ中部に舞台を移した6日(土)のデイ3は、長い歴史を誇る人気のSSが続いた。好調のタナックは良いペースを保ち、安定した走りで2位に対するリードをさらに拡大。タイム差は一時48秒に広がり、このまま行けば余裕を持ってデイ3を終えられるはずだった。



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 しかしタナックは、午後のSS16で突然ストップ。デイリタイアすることになった。クルマのフロント下まわりが路面に強く当たり、アンダーガードが破損。その結果、衝撃がラジエターにも伝わり冷却水が漏れ出たのだ。タナックはエンジンの破損を防ぐためすぐにクルマを止めたが、その場でできることはなく、デイリタイアを受け入れるしかなかった。掴みかけていた勝利がスルリと指の間から逃げていき、失意のタナックは思わず天を仰いだ。



ラトバラは総合2位に、ラッピは総合3位に浮上

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 激しい上位争いを展開していたラトバラとラッピは、タナックのリタイアにより順位が繰り上がり、デイ3が終了した時点でラトバラは総合2位、ラッピは総合3位につけた。彼らは好調を保ち、ラトバラは2本のベストタイムを記録。ただしデイ3最後のステージのヘアピンコーナーでエンジンがストールして数秒を失っていた。タイトなコーナーでのエンジンストールは以前にも発生し、チームはその解決に力を注いできたが、対策を施しても、特定の条件においてはごく稀に回転が落ちてしまう状況だった。デイ3が終了した段階で総合2位のラトバラと、1位セバスチャン・オジエの差は4.4秒。エンジンストールで失った数秒は、僅差の戦いにおいて痛手である。チームは問題の完全解決に向けて、さらに力を入れなくてはならないと気持ちを引き締めた。



優勝をかけてラトバラとオジエが僅差のバトルを展開

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 最終日デイ4のSSは5本、計55.64kmと走行距離が短い。世界王者オジエとの4.4秒差を縮めるためには、最初のSSから全力でアタックしなくてはならない。一方で、マニュファクチャラー選手権を考えると、リタイアでポイントを逃すこともできない。ラトバラは非常に難しい状況でデイ4をスタートしたが、最初のSS19でラッピに次ぐセカンドベストタイムを、続くSS20では渾身のアタックでベストタイムを記録し、遂にオジエを逆転。3.6秒差をつけてトップに立った。ボーナスポイントがかかる「パワーステージ」のSS20 でも、ラトバラは最大得点となる5ポイントを獲得。ラリー2規定に基づきデイ4で再出走を果たしたタナックは、2番手タイムで4ポイントを手にした。



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 今シーズン初優勝に大きく近づいたラトバラだが、オジエは手強かった。崖沿いのターマック(舗装路)ステージで行なわれたSS21で差を縮められ、続くSS22では逆転を許してしまう。SS20の再走ステージとなるSS22でラトバラは、選んだタイヤと路面のマッチングがあまり良くなったこともあり、1回目の走行より約2秒タイムが落ちてしまったのだ。そして迎えた最終SS23での挽回はならず、ラトバラは前戦に続き総合2位でフィニッシュ。優勝は果たせなかったが、クルマの進化と自身のパフォーマンス向上に大きな手応えを感じ、笑顔で表彰台に立って勝者を祝福した。デイ4での両雄の戦いは、伝統の1戦の最終章を飾るにふさわしい名勝負だった。



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 ラッピもまた、総合3位争いを制し表彰台の人となった。彼にとっては今季3度目の総合3位であり、チームとしては4戦連続、今季5回目のダブル・ポディウムである。結果、マニュファクチャラー選手権のリードはさらに広げることができたが、タナックのデイリタイアもあり、チームとしてはそれを素直に喜ぶことはできなかった。



速さはトップレベルも、まだまだ強さが足らない

 タナックは、第7戦ラリー・イタリア サルディニアでも似たような問題で勝機を逸した。もちろんチームはイタリア後に対策を施したが、それが十分ではなかったのかもしれない。他のふたりのクルマに今回そのようなトラブルはなく、より路面が荒れていた前戦ラリー・トルコでも問題は起こらなかった。たまたま「当たり所」が悪かっただけなのかもしれないが、再発を完全に防止するためにはさらなる改善が必要である。ただ単に強度を上げるのであれば、アンダーガードの板厚を増やしたり面積を拡げるなど、変更自体はそれほど難しくない。しかし、そうなると必然的に重量が増し、前後重量配分も変わりハンドリングに影響が出る可能性がある。パフォーマンスと耐久性の、ぎりぎりのバランスを突き詰めなければならないのだ。チーフエンジニアのトム・フォウラーは、ラリー終了後すぐに改善計画の策定に入った。

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タイトルを巡る戦いは最終戦オーストラリアまで続く

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 ラリー・GBではパワーステージで得た4ポイントの加算に留まり、タナックはドライバー選手権3位に順位を落とした。結果、首位ティエリー・ヌービルとの差は21ポイントに拡大。かなり厳しい状況となったが、それでも「最終戦ラリー・オーストラリアの最後のステージが終わるまで、全力で戦い続ける」とタナックは極めて前向きだ。そしてチームも、マニュファクチャラーズタイトルの獲得と、タナックの逆転王者実現に向けて、全員がさらなるハードワークを続ける覚悟である。



RESULT
WRC 2018年 第11戦 ラリー・グレートブリテン

順位 ドライバー コ・ドライバー 車両 タイム
1 セバスチャン・オジエ ジュリアン・イングラシア フォード フィエスタ WRC 3h06m12.5s
2 ヤリ-マティ・ラトバラ ミーカ・アンティラ トヨタ ヤリス WRC +10.6s
3 エサペッカ・ラッピ ヤンネ・フェルム トヨタ ヤリス WRC +35.1s
4 クレイグ・ブリーン スコット・マーティン シトロエン C3 WRC +1m10.4s
5 ティエリー・ヌービル ニコラス・ジルソー ヒュンダイ i20 クーペ WRC +1m14.4s
6 アンドレアス・ミケルセン アンダース・ジーガー ヒュンダイ i20 クーペ WRC +1m15.9s
7 ヘイデン・パッドン セバスチャン・マーシャル ヒュンダイ i20 クーペ WRC +1m18.4s
8 マッズ・オストベルグ トシュテン・エリクソン シトロエン C3 WRC +1m21.6s
9 カッレ・ロバンペラ ヨンネ・ハルットゥネン シュコダ ファビア R5 +9m14.7s
10 ポントゥス・ティディマンド ヨナス・アンダーソン シュコダ ファビア R5 +10m48.9s
19 オット・タナック マルティン・ヤルヴェオヤ トヨタ ヤリスWRC +20m38.9s