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WRC 2019年 第5戦 ラリー・アルゼンティーナ

サマリーレポート

WRC Rd.5 ラリー・アルゼンティーナ サマリーレポート

優勝争いに加わるスピードがクルマにありながらも、
想定外のトラブルでポディウムフィニッシュを逃す

 雷を伴う激しい雨が降り続き、アルゼンチンの大地は大量の水を含んだ。通常なら砂状の路面は比較的水はけが良いが、それが追いつかないくらいの降雨により路面は一部が泥濘(でいねい)化。マディな路面となった。競技開始前のレッキ(コースの事前下見走行)では、深い泥にはまり抜け出せなくなった選手もいたほどだった。そのような悪コンディションの路面を、以前のヤリスWRCは不得手としていた。エンジンが生み出す力が、滑りやすい泥の路面ではきちんと地面に伝わらなかったのだ。しかし、チームが地道な改善作業を続けた結果、滑りやすい路面でのグリップ性能は大きく向上し、昨シーズンの終盤には泥状の路面でも速さを発揮できるようになった。そして、今季最初のマディな路面でのラリーとなったWRC第5戦ラリー・アルゼンティーナでも、ヤリスWRCは走り始めから速く、シェイクダウンではオィット・タナックがベストタイムを記録。0.7秒差でクリス・ミークが続くなど、クルマの仕上がりは非常に良かった。

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ヤリスWRCが通算200回目のベストタイムを記録する

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 ラリーのサービスパークが置かれる、ビージャ・カルロス・パスの市街地で4月25日木曜日の晩に行なわれたスーパーSSでは、タナックがベストタイムをマーク。そして、翌日金曜日の本格的なグラベルステージでも、オープニングのSS2でミークがベストタイム、タナックがセカンドベストを刻み好調を維持。SS4終了時点での総合順位は1位ミーク、2位タナック、3位ヤリ-マティ・ラトバラとなり、TOYOTA GAZOO Racing WRTは最高のスタートを切った。そして、ヤリスWRCはラリー期間中に合計7本のベストタイムを記録。途中、タナックがヤリスWRCにとって200回目となるベストタイムをマークし、現行規定WRカーの中で最初に200回のレコードを記したラリーカーとなった。



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 このように、ヤリスWRCはアルゼンチンでもトップを争うスピードがあったが、結果的には前戦ラリー・フランス(ツール・ド・コルス)に続き、表彰台フィニッシュを逃してしまった。最上位はミークの総合4位。ラトバラは5位、タナックは8位に終わった。昨年のアルゼンチンではタナックが独走で優勝し、チーム加入後最初の勝利を手にした。大きな自信を持ち、入念な準備をして臨んだ1戦だっただけに、表彰台を逃したことにチームの誰もが深く失望した。



ミークが世界王者オジエと激しい総合3位争いを展開

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 ミークにとってアルゼンチンは、2015年にWRC初勝利を飾った思い出のラリーである。そして、ヤリスWRCで初めて臨んだ今年のアルゼンチンでも序盤から速く、SS4ではタナックをかわして首位に浮上。SS6までラリーをリードし続けた。その後ミークは路面コンディションの変化にうまく対応できず、総合4位に順位を落としてしまった。加えて、翌日はパンクやSS中のミスコースによる10秒ペナルティなどが重なり、さらに遅れをとった。それでも十分に表彰台を狙えるポジションに居続け、終盤はセバスチャン・オジエと激しい総合3位争いを展開した。



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 ラリー最終日、ミークはアルゼンチンの名物ステージである「エル・コンドル」で大会2回目のベストタイムを記録。続くSS17ではオジエをかわして総合3位に順位を上げた。そして迎えた最終ステージ、エル・コンドルの2走目で、今季初ポディウム獲得を実現すべくミークは攻めの走りを続けた。しかし、フィニッシュまであと約6kmというところでタイヤの空気圧が低下。ペースが落ち6番手タイムに終わった。一方、オジエはベストタイムを記録。その結果順位が入れ替り、僅か1.4秒差でミークは4位となり、惜しくも表彰台登壇はならなかった。



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 「クルマの調子はとても良く、最終ステージも途中までは気持ち良く走れていた。なぜタイヤの空気が抜けてしまったのかは分からないが、ラリーではそのような事も起こるから仕方がない」と、ミーク。表彰台にはあと1歩届かなかったが、総合4位は今季チーム加入後のベストリザルトである。開幕から毎戦着実にポイントを獲得しており、クルマにも慣れてきた。「このまま自分がやるべき事を着実にやり続ければ、きっと正しい方向に向かうはずだ」と、ミークはポジティブな気持ちでラリー・アルゼンティーナを締めくくった。



本来の速さを取り戻しつつあるラトバラがラリー終盤に奮闘

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 今季第4戦まで苦しい戦いが続いていたラトバラは、序盤総合3位につけるも、タイヤの空気抜けやスピンで遅れをとり、金曜日は総合8位に沈んだ。しかし、その後全体の歯車が噛み合い始め、土曜日のSS11から13にかけて3番手タイムを記録。SS14では2番手タイムを刻むなど調子が一気に上がり、総合6 位で最終日の朝を迎えた。そしてラトバラは、日曜日2本目のSS17で2番手タイムを記し、パワーステージに指定された最終のSS18でも快走。ベストタイムには僅か0.1秒届かず2番手タイムだったが、選手権ボーナスの4ポイントを獲得。総合でも5位に順位を上げるなど、上昇気流に乗ってラリーを終えた。



タナックの快走を阻んだ、電気系のトラブル

 昨年、この地でチーム加入後最初の勝利をあげたタナックは、今年のアルゼンチンでも速さはトップレベルだった。金曜日はミークと激しい首位争いを展開し、SS7では大会3本目のベストタイムで総合1位に立った。しかし、続くSS8でドライブシャフトにトラブルが発生しペースダウン。それでも首位と13.4秒差の総合3位につけ、まだ十分に優勝を狙える位置にいた。反撃を誓って臨んだ翌日土曜日の午前中は、2本のベストタイムで首位に肉薄し総合2位に。午後の再走ステージでの首位浮上の可能性が高まった。しかし、午後最初のSS13でタナック車に異変が起きた。バッテリーの電圧が低下し、それがタイムに大きく影響した。何とか総合2位の座は保ったが、続くSS14で事態はさらに深刻に。かなり厳しい状況である事を認識しながらタナックはスタートを切ったが、途中で電圧が大きく下がりクルマがストップ。なす術なくデイリタイアとなってしまった。

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 その後の調査で、バッテリーに電気を充電するオルタネータに問題があった事が判明した。オルタネータのトラブルは昨年何度か発生し、今季も第3戦メキシコで起こってしまった。チームのエンジニアはメキシコ終了後すぐに対策に着手し、パーツの供給を受けるサプライヤーと共に改善を行なった。その結果、第4戦フランスでは何も問題は起こらなかったが、今回のアルゼンチンでまたしてもオルタネータがアキレス腱となってしまった。ラリー期間中に原因の解析を進めた結果、問題はオルタネータ本体ではなく、取り付け部分にあった事が判明した。これまで、テストや実戦で1度も不具合が出た事がないトラブルだったが、それは理由にならない。タナックに対して本当に申し訳ないという気持ちを抱き、テクニカルディレクターのトム・フォウラーはラリー終了後すぐにフィンランドのファクトリーに戻り、休む間もなく改善作業を開始した。

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トヨタ自動車の量産車開発技術者に品質改善の協力を要請

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 オルタネータの問題に関して、本当ならばすぐに対策部品を投入したい。しかし、次戦ラリー・チリまで1週間しかインターバルがなく、新たにパーツを作る時間的な余裕はない。そのためチームは、エンジニアとメカニックが知恵を絞り、該当個所に応急処置を施すことでチリ戦に臨む事を決めた。また、今年1月からテクニカルコーディネーターとしてチームに参画しているトヨタ自動車の近藤慶一は、改善計画を策定。それは、オルタネータ周りに限った改善ではない。クルマの他の部分にも、今回と同じように思いも寄らぬ問題の種が隠れている可能性がある。そのため、改めてクルマの各部の構造や設計を徹底的に精査し、必要に応じて改善を実施する事にした。トヨタ自動車の電気系エンジニアにコンタクトをとり、量産車開発者目線での品質改善も進めることにしたのだ。ラリー・チリ終了後すぐに、品質改善計画は実行に移される。



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 なお、今回のアルゼンチンは長雨の影響もあってか路面がかなり荒れ、タナック車はフロントウインドウにひびが入るほどの衝撃を地面から受けた。その際、衝撃はボディにも伝わり、非常に強固な設計のボディに若干の歪みが生じた。そこでチームは、クルマをチリへと移送する前に全車両のボディ修正を実施した。その際は地元のTOYOTA GAZOO Racing Argentinaからメカニックが応援に駆けつけ、チームのメカニックは彼らと力を合わせて修正作業を進めた。トヨタに携わる多くの人々の支援を受けて、チームは次なるラリー・チリに挑む。



RESULT
WRC 2019年 第5戦 ラリー・アルゼンティーナ

順位 ドライバー コ・ドライバー 車両 タイム
1 ティエリー・ヌービル ニコラス・ジルソー ヒュンダイ i20クーペ WRC 3h20m54.6s
2 アンドレアス・ミケルセン アンダース・ジーガー ヒュンダイ i20クーペ WRC +48.4s
3 セバスチャン・オジエ ジュリアン・イングラシア シトロエン C3 WRC +1m04.8s
4 クリス・ミーク セブ・マーシャル トヨタ ヤリス WRC +1m06.2s
5 ヤリ-マティ・ラトバラ ミーカ・アンティラ トヨタ ヤリス WRC +1m21.1s
6 ダニ・ソルド カルロス・デル・バリオ ヒュンダイ i20クーペ WRC +1m26.7s
7 テーム・スニネン マルコ・サルミネン フォード フィエスタ WRC +4m57.3s
8 オィット・タナック マルティン・ヤルヴェオヤ トヨタ ヤリス WRC +14m24.8
9 マッズ・オストベルグ トシュテン・エリクソン シトロエン C3 R5 +14m28.5s
10 ペドロ・へラー マルク・マルティ フォード フィエスタ R5 +20m14.5s