WRC

2017シーズン インタビュー Vol.1

Tommi Mäkinen

TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team
代表トミ・マキネン

“大胆に一歩一歩”
世界制覇を目指す闘将トミ・マキネンのチーム哲学

WRC復帰を任されてわずか1年半、かつてのWRC王者トミ・マキネンはライバルが警戒する強い体制を見事に生み出した。 心血を注いスタッフー丸となって目標に歩む意識づくり。独創的なチームでひとつずつ課顆をクリアしながら、目指す王座へと突き進む。

Rally+
Text/Michel Lizin, RALLY PLUS Translation/Keiko Ito, Sayoko Chiba

 「この新たなチャレンジを引き受ける前にじっくりと考えたよ。負わなくてはならない重責を過小評価するわけにはいかないからね。WRCのことはわかっていた。僕はこの世界をまずはコクピットの中から、そしてその後は外から見る機会に恵まれた。どんなふうに人材を選んでチームを結成すればいいかも分かっていた。パーツ発注についても理解していたし、さらには“チームスピリット”をどうつくり上げたらいいかも知っていたと思う。チームとして、どんな精神に基づいて努力を重ねればいいかというものをある程度理解していなければ、この仕事を受けてはいなかっただろう」

 4度の世界チャンピオンに輝いた名ドライバー、トミ・マキネンがトヨタのWRCプロジェクトを任されたのは2015年の夏。当時、生まれ故郷のプーポラで自らが率いるトミ・マキネン・レーシングにいたスタッフはわずか15名程度である。それがすべてのスタート地点だった。

 「こんな大仕事に手を出して、ひょっとしたら、僕の頭がおかしくなったと思った人もいたかもしれない。でもそんなことはなかった。さっき言ったようにチームをつくるために何をすべきかは理解していたから、恐れるものなんてなかったんだ。まずは、以前から知り合いだった信頼できるエキスパートたちに声をかけた。それからスタッフ探しに奔走したんだけど、問題点のひとつだったのはフィンランドにはWRCに関する技術的な文化がなかったことだ」

しかし、マキネンはこのハンデをチャンスに変える大胆さを持ち合わせていた。契約したのはWRCの経験を持たないデザイナーやエンジニアたちである。

 「その大半はフィンランド人だ。高度な教育を提供する学校の出身者で、エンジニアとしてさまざまな分野での訓練を受けている。彼らのおかげで主にシャシーデザインにおいて、最先端のツールを使うことが可能になった。だからほとんどゼロからのスタートだったことは、チームづくりには逆に有利に作用したと思う。もちろん、それと同時に最新のWRCの知識を持つエンジニアも雇用した。彼らは現場の知識が少ない同僚たちに強制することなく“首輪を付けたまま”総合的な方向性を与えるという、賢さを持っていた」

 ただし、そのWRCの知識を持つエンジニア(元Mスポーツのトム・ファウラー/ヘッド・オブ・エンジニアリングやサイモン・キャリアー/ヘッド・オブ・デザイニングら)たちも技術部門を束ねる存在ではない。マキネンのチームはマシンづくりに大きな権限と発言力を持つ有名テクニカルディレクターは存在せず、合議制の“技術開発委員会”が方向性を決める点が大きな特徴となっているのだ。

 「多くの人数が関与して頻繁にミーティングを重ねている。大切にしているのは同僚意識だ。誰もが、他のスタッフたちが現在何をしているかが常に分かっている。そのおかげですべてが理路整然としていて、効率がいい。各エンジニア、各デザイナーだけでなく、ドライバーたちもそれに加わる。多くの人の目と頭脳がマシン開発のそれぞれの段階を追っているんだ。スタッフは各々別なことを担当しているが、全体像もきちんと理解している。それこそが僕らが一緒になってつくりあげた“WRCにおける僕らの企業文化”であり、“チームスピリット”だ。
 ここからは、豊富な経験と新しい考え方が融合して、多くの新鮮なアイデアが生まれている。僕は若者たちに仕事をさせるのが大好きだ。彼らは自分たちにとってのWRCが何であるかを自ら考え、革新的なものを生み出してくれる。若いスタッフたちのフレッシュなアイデアをまず聞いてみる、みんなの意見を聞きオープンに話し合っていくというのがこのプロジェクトを始めた時の目標のひとつだった。それが自分たちにとって、ベストな方法だったからね。隠し事はなしで、常に情報を共有する。誰かが何かを隠したりしていると、早い期間で成長することはできない。だから我々は、すべてをみんなで共有しているんだ」

もちろん、“デビューシーズン”を終えて改善すべき点があることも、マキネンは理解している。

 「チーム立ち上げ当初は、すべてのことをできるだけ早くつくり上げなくてはならなかったから、少し作業に安定感を欠いていたことは確かだ。サプライヤーからのパーツの供給が間に合わないことも度々だったし、そうなればスケジュール通りに作業をこなしていくことが難しくなる。でも今はスペアパーツも十分に揃って、ようやく安定して作業ができるようになってきたところだ。でも、これで落ち着くわけじゃない。まだ改善しなくてはならないところはたくさんある。チームというのは、常に向上するべきものだからね」

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