ニュル24時間完走によりC-HRは我が意の走りへニュル24時間完走によりC-HRは我が意の走りへ

「格好と走りを突き詰める」

2016年ニュルブルクリンク24時間レースに参戦したトヨタC-HR(ニュル24時間での参戦車両名はTOYOTA C-HR Racing)は、発売前のクロスオーバーSUVでの参戦という新しい意味を持つものであった。
正式発表前のモデルによるニュルブルクリンク24時間レースへの挑戦は過去にLEXUS LFA、TOYOTA 86で行なったが、トヨタC-HR(以下C-HR)は誰でも購入可能なクロスオーバーSUVである。C-HRでの参戦の目的は、ニュルを舞台にした「極限でのテスト」をスポーツカーだけでなく普通のクルマでも行うことだった。
C-HRは世界的な伸びを見せ続けているコンパクトクロスオーバーSUV市場に向けて開発した。このジャンルは並みいる競合がひしめくことから、開発チームは真っ向から勝負を挑むために「格好と走りを突き詰めること」を目標とした。格好はダイヤモンドをモチーフにしたパッケージ・プロポーションを忠実に再現すること、そして走りは目の肥えたヨーロッパの人たちにも選んでもらえる「我が意の走り」をコンセプトに掲げた。

「ヨーロッパでのテストがもっといいクルマづくりへの近道だった」

ヨーロッパのリアルな道を徹底的に走りこんだ

開発責任者の古場博之(トヨタ自動車社員)は「ヨーロッパでテストして分かったことは、一般のドライバーが日常的にハイスピードで走っていることでした。そこで、『なぜ欧州車は片手でも余裕で、どんなスピード、どんな路面でも、気持ち良く思った通りに走れるのか?』。その答えを見つけるために、我々はニュルブルクリンクをはじめとする様々なヨーロッパのリアルワールドで走り込みを行ないました」。

ヨーロッパの道は路面環境の整った日本と違い、舗装も綺麗な道、石畳の道など路面は様々だ。また、制限速度がないドイツ・アウトバーンはもちろん、郊外の一般道は対面通行でも100km/hと速度域も非常に高い。例えばガードレールのない狭く曲がりくねった道が連続する山岳路でも、一般のドライバーはお互い100km/hですれ違いながら走れるコントロール性や安心感が問われるのだ。 これらの延長線にあるのがニュルブルクリンクだ。ニュル24時間の挑戦は勝ち負けではなく車両開発。市販モデルの開発にこれまで取り組んできた事をより過酷な状況で確認することに加えて、今後の進化、熟成の先行開発も担っている。つまり、もっといいクルマづくりのための近道なのだ。

ヨーロッパのリアルな道を徹底的に走りこんだ

「どんなスピード、どんな路面でも、
気持ち良く思った通りに走れることを証明」

ニュル24時間仕様のTOYOTA C-HR Racingは車高を大きく下げ、大きめのエアロパーツを装着しており、クロスオーバーというよりもホットハッチを彷彿させるスタイルとなっているが、欧州向けに設定している1.2Lターボ+6速MTをベースにレース参戦のための安全装備やサーキットに合わせたサスペンション&タイヤを装着した「市販車+α」という仕様である。走りの方向性もノーマルと同じ考えを踏襲している。
日本でシェイクダウンし、テスト走行を行い、ドイツでのQFレース、ニュルブルクリンク耐久シリーズ第2戦(VLN2)を経てニュル24時間に挑んだが、決勝で軽い接触やガス欠によるストップなどもあったものの、ほぼノントラブルで24時間を走り切り、総合84位、SP2Tクラス3位と言う結果を残すことができた。しかし、この結果ではなくドライバーからのコメントがこのクルマの実力を現していた。

「スタート直後の悪天候による赤旗中断の関係で、結果的には8時間くらい乗ったのですが、全然疲れない上に乗りやすいので、まだまだ乗れる感じでした。(影山正彦選手)」

「参戦車の中で最も低いパワーなので直線はライバルに敵いませんが、コーナリングはクロスオーバーを感じさせない走りで全然負けていませんでした。市販車ベースのレーシングカーはどうしてもベース車の素性がついてまわりますが、ベースがいいのですぐにセットアップが決まりました。(佐藤久実選手)」

今回のニュル24時間は、天候が目まぐるしく変わるレースとなったが、レース中に大きなセットアップ変更を行わなかった。ニュル24時間前のテストで様々なトライを行なう中で、ベストなセットアップが見つかったからだ。つまり、市販車とレーシングカーでは走行領域は異なるが、「どんなスピード、どんな路面でも、気持ち良く思った通りに走れる」と言う基本コンセプトは変わらないことを証明することができた。
 24時間を一睡もしないで見守っていた古場は「ゴール直前に最終ドライバーの影山選手に無線でクルマの状態を聞くと、『クルマは全くスタート時と変わらず絶好調!』と。最高の褒め言葉でした」と語る。

途中、雹が混じるゲリラ豪雨に見舞われるも24時間をノントラブルで走りきったニュル24時間

「ニュル24時間完走を目指した開発が
C-HRの我が意の走りにつながった」

極限の開発テストをクリアしたC-HRはニュルを走れるくらいだから、かなりスポーティな印象を持たれるかもしれない。ニュルブルクリンクは「世界一過酷なテストコース」として有名でタイムアタックなども話題だが、それよりも重要なのは「過酷な環境で24時間連続して走る」と言う事。そのためには「運転が楽」で「快適」であることが重要となる。
C-HRはサスペンションを固めてスポーティではなく、サスペンションをしっかり動かしながら正確に動く。ドライバーが普通に操作をすればクルマは思い通り動く。実は当たり前のようで実現するのは難しい。そのため、人によっては「運転が楽になった」、「運転が上手くなった」と感じるだろう。

また、一般的なクロスオーバーSUVは着座位置が高いことからコーナリングに不安を持つこともあるが、C-HRは重心を低くし、安定したコーナリングを実現。欧州のカントリーロードでは道路幅が狭い対面通行でも100km/hくらいのペースで流れているが、C-HRは速度を落とさずに路肩ギリギリまでmm単位でコントロールできるレベルに仕上った。これらは数値やデータ、テストコースだけでは実現できず、ドライバーの感性にたよる「官能評価」やニュルをはじめとした走り込みなど、ニュル24時間を走りきることを目指して開発を行なった結果だと自負している。走り以外の部分では、直感的な操作が可能なインパネ周りのレイアウトや視界の広さ、シートの掛け心地なども、実はニュルからフィードバックした部分である。ニュルはクルマの全てを鍛えてくれる存在なのだ。

視界の良さ、シートの掛け心地もニュルからフィードバック