「今年はまたル・マンに行ってみます。
いろんな意味で楽しみです」
片山右京
由良拓也さん(以下、由良) 今年のル・マン24時間ですが、右京さんは現地にいらっしゃるそうですね。
片山右京さん(以下、片山) はい、お招きいただいたのでまた現地におじゃまします。自分の中でル・マンの思い出は財産だから。時間が経って少し古くはなっていても、やっぱり自分の人生のハイライトなので、いろんな意味で嬉しいです。トヨタが優勝を目指して戦う今年のレースを、現場でその雰囲気を味わえるというのも楽しみですね。
由良 日本人ドライバー3人による総合2位という記録はまだ破られていませんね。そして、この3人の中では利男さんが最も多くル・マンに出場していますが、ル・マンの印象はいかがですか?
鈴木利男さん(以下、鈴木) 最初に行った時はまだユノディエールにシケインがなくて、ストレートがとにかく長かった。(長いストレートと言っても)富士くらいしか走っていなかった僕にとっては、すごいショックでした。毎年のようにル・マンに行ってても、やっぱり最初の3ラップは怖いんです。あのストレートで何か起こったら、スピードが出ているから(自分では)どうにもできないじゃないですか。だから、開き直るまでに3周は必要だった。それは5回、10回と行ったからって、変わるものではなかったですね。
由良 シケインができる前と、できた後では違いましたか?
鈴木 1990年にシケインができてコース全体が変わった。それからは、スプリントのサーキットになったような気がしましたね。
「チームメイトは右京と利男さん。
"ラッキー!それならオーケー!"って(笑)」
土屋圭市
由良 TS020で初めて出場した1998年、3人はどのような経緯でトリオを組むことになったのでしょうか?
土屋圭市さん(以下、土屋) 利男さんは"ル・マンの経験が豊富"。右京は文句なく"速い"でしょ。で、最初オレはメンバーに入ってなかったの。ある日、トムスの舘信秀会長に呼ばれて「君、夜速いんだってな?」と聞かれたから「なんかそうみたいですね」って。「本当に速いのか?」と言われたので「多分オレが一番速いと思います」と言った。そこには(鈴木)亜久里もいて、どうやら亜久里がオレを推薦したみたい。 で、話を聞いたら、日本人3人でル・マンを走らせたいと言うの。チームメイトは右京と利男さんだと聞いて"ラッキー! それならオーケー!"って(笑)。呼ばれたその夜に話が決まった。
由良 夜の速さを買われたということですね。
土屋 そう。だから、もし夜速くなかったらなんの意味もなかった。でも、峠上がりなんで夜はオレの世界。夜で雨だったらもうオレのもの。『F1ドライバーだろうがなんだろうが、オレがみんな抜いてやる!』という気持ちだった。
由良 夜って路面にオイルが出てるところやダスティなところとか見えないのでは?
土屋 あのね、"カミカゼ右京(※)"じゃないけど、人間って本当に集中すると暗かったり雨が降っていたりしても、結構見えちゃうんだよね。
片山 僕なんかポルシェカーブに入っていったらいきなり土砂降りで。ル・マンって1周が13.6kmもあるからどこで雨が降っているのか分からないです。ポルシェカーブは時速286kmとかで左、右と行くんだけど、いきなり濡れていてツーと滑った。『うわ〜やっちゃった! 飛び出す!』みたいな。 でもTS020ってダウンフォースが凄くあったんですよ。だから、普通だったら絶対ダメなのに大丈夫だった。タイヤもスリックでブレーキも効いたし。しかも、1999年のTS020のエンジンは前の年よりもパワーが100馬力ぐらい上がって700馬力だったから、パワーで急に向きを変えたりとかのコントロールもしやすかった。
由良 100馬力でそんなに大きく変わるものですか。
片山 違いますよね。アンダーパワーだとやっぱりクルマに乗せられている感覚が強い。
※ヨーロッパでのレース修行でのがむしゃらさやF1でのアグレッシブな走りから、片山さんは欧州のファンに「カミカゼ右京」と呼ばれていた。