ラリー車両解説
GR YARIS Rally1
GR YARIS Rally1は、2022年のFIA Rally1技術規則に準拠して開発された最高峰ラリーカーの、改良進化モデルである。Rally1は、2021年までトップカテゴリーを担ってきたWRカー(ワールドラリーカー)に代わる新規定車両であり、第一世代ではトップカテゴリーのラリーカーとして初めてハイブリッドユニットが搭載された。それから3シーズンを経て、2025年は新規定導入によりハイブリッドユニットが搭載されないことになったが、サスティナブルなモータースポーツを推進するための技術として、引き続き100%持続可能な非化石燃料が採用されている。
GR YARIS Rally1のシャシーはこれまでと変わらずスペースフレーム構造であり、ドライバーとコ・ドライバーの安全保護は引き続き非常に高いレベルにある。また、サイドスカートや大型リヤウィングなど、クルマの走行安定性を高めるためのパーツも受け継がれた。トランスミッションは、前後機械式デフによる四輪駆動システム。機械式シフトの5速ギヤボックス、ストローク量の短いダンパーなど、Rally1規定に基づくシンプルな構造は2024年までのクルマと変わらない。
GR YARIS Rally1のパワーユニットは2024年車両と基本的には変わらず、1.6L直列4気筒直噴ターボ・エンジンを搭載する。ただし、吸気エア・リストリクターの径は規定変更により2024年シーズンまでの36mmから35mmに縮小され、ハイブリッドユニットが搭載されないこともあり、最高出力は従来の500馬力以上から、370馬力以上へと絞られた。ハイブリッドユニットによるブーストが得られなくなったことで、エンジンに求められる特性も変わり、2025年車両ではエキゾーストシステムとカムシャフトを変更。さらに、ギヤ比を見直すなどして最適化を図った。一方、ハイブリッドユニットが搭載されなくなったことにより車両の最低重量は大幅に引き下げられ、従来車両よりも80kg軽い1180kgに。GR YARIS Rally1は、これまで以上に俊敏な運動性能を備えたラリーカーへと進化した。
GR YARIS Rally1は、GR ヤリスの市販モデルをベースに、ヤリスWRCによる5シーズンの、GR YARIS Rally1 HYBRIDによる3シーズンの実戦経験を活かして開発された。2017年にデビューしたヤリスWRCは、トヨタが20年ぶりにトップカテゴリー参戦のために開発したクルマであり、参戦2戦目のラリー・スウェーデンではやくも優勝。しかしその後、様々な国のラリーで多くの試練も経験し、チームと選手は貴重な学びを実戦から得た。2021年までの5シーズンに渡る参戦で、ヤリスWRCはエンジン、エアロダイナミクス、サスペンション、駆動系などをアップデート。ラリーを重ねるごとにパフォーマンスと信頼性を向上させていった。2018年にはマニュファクチャラーズタイトルを獲得し、2019年、2020年と二年連続でドライバーズタイトルとコ・ドライバーズタイトルを獲得。最終シーズンとなった2021年には12戦9勝を挙げ、獲得可能なタイトルを総なめにした。そのヤリスWRCで培ってきたノウハウを、チームのエンジニアはGR YARIS Rally1 HYBRIDに投じ、サスティナブルな新時代のWRCを戦うラリーカーとして2022年世に送り出した。GR YARIS Rally1 HYBRIDは投入初年度の2022年から強さを発揮。2024年までに3シーズン連続となるマニュファクチャラーズタイトルをチームにもたらし、カッレ・ロバンペラを2回ドライバーズチャンピオンに導いた。そして2025年、TGR-WRTはGR YARIS Rally1でさらなる勝利と栄冠の獲得に挑む。
あらゆる路面に対応するタイヤ
グラベル用およびスノー用と、ターマック用ではタイヤとホイールのサイズが異なる。グラベルとスノーでは15インチ、ターマックでは18インチのタイヤを装着する。雪道用のスノータイヤには金属製のスタッド(スパイク)が埋め込まれ、滑りやすい路面でも高いグリップ性能を発揮する。1大会で使用できるタイヤの本数は規定で決められており、どのようなタイヤを選択するか、そしてどのタイミングでタイヤを交換するかも重要な戦略のひとつとなる。なお、2025年からはタイヤのサプライヤーが従来のピレリからハンコックへと変わったため、チームとドライバーはいちはやくタイヤの特性を把握し、クルマのセッティングとドライビングを最適化することが求められる。
大会やSSごとに違う
セッティング、装備
クルマの仕様やセッティングは参戦するイベントごとに異なる。グラベル、スノー、ターマックの各ラリーでは使用するタイヤが違い、ブレーキやサスペンションも大きく異なる。スムーズな路面を走行するターマックラリーではぎりぎりまで車高を低め、荒れた路面のグラベルラリーではクルマが路面と接しないように車高を高める。また、降雨など路面コンディションの変化に応じて、随時サスペンションや駆動系のセッティングを変更する。夜間の走行時には、ボンネットにライトポッドと呼ばれる補助灯を装着して視認性を高める。
サービスパークでの作業は
時間との戦い
サーキットレースではピットでクルマの整備および修理をするが、ラリーではサービスパークで作業を行う。競技がスタートすると作業をできる時間やタイミングは限られ、通常は朝のスタート前に15分、日中に30分、そして夜に45分作業する事ができる。なお、夜のサービスを終えたクルマはパルクフェルメと呼ばれる車両保管場に入れられ、翌朝のサービスまで整備作業を行なうことはできない。

主要諸元
エンジン | |
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形式 | 直列4気筒直噴ターボエンジン |
排気量 | 1,600cc |
最高出力 | 370馬力以上 |
最大トルク | 425Nm以上 |
ボア×ストローク | 83.8mm x 72.5mm |
エア・リストリクター | 35mm(FIA規定による) |
トランスミッション | |
ギアボックス | 機械式5速シフト |
駆動方式・差動装置 | 4WD、機械式ディファレンシャルx2 |
クラッチ | 焼結ツインプレート・クラッチ |
シャシー/サスペンション | |
フロント/リア | マクファーソン・ストラット |
ダンパーストローク量 | 270mm |
ステアリング | 油圧式ラック&ピニオン |
ブレーキ・システム | ・グラベル用:300mm ・ターマック用:370mm |
寸量および重量 | |
全長/全幅/全高 | 4,225mm(空力パーツ込)/1,875mm/調整可能 |
トレッド幅 | 調整可能 |
ホイールベース | 2,630mm |
最低重量 | 1,180kg |
性能 | |
最高速度 | 201kph(理論値) |