第7戦 RALLY HOKKAIDO
衝撃の結末勝田範彦選手がRALLY HOKKAIDOを初制覇JN3クラスは横尾芳則選手がタイトルに王手
北海道帯広市を拠点とする十勝地方を舞台として戦われるアジア・パシフィック・ラリー選手権(APRC)第5戦との併催で開催された全日本ラリー選手権(JRC)選手権第7戦「RALLY HOKKAIDO」は、スペシャルステージ(SS)総距離が200km以上、SSの平均スピードが100km/hを超えるなど、規模、速さとも国内では最もスケールの大きいラリーだ。
今年は初日の金曜日に行なわれたセレモニースタート後にナイトステージを実施。2日目の土曜日に20kmを越えるロングステージを含む9本、最終日の日曜日に8本のSSが用意され、SS総距離は232.32kmと、シリーズの中でも最も走行距離が長い。そのため、順位によって獲得できるシリーズポイントには2.5倍の係数がかけられ、シリーズチャンピオンを争う上で最も重要な1戦として位置づけられている。
かつてWRCラリージャパンにも使用したハードでタフなステージが主戦場となる今年のラリーはAPRCに29台、JRCに44台の合計73台が出場したが、2日間合わせて27台がリタイアしてしまうというサバイバル戦となった。
また、大会期間中はさわやかな秋晴れの好天に恵まれ、3日間あわせて67,990人(主催者発表)の観客が会場を訪れ、ラリーを楽しんでいた。
初日は、シリーズランキングトップの奴田原文雄/佐藤忠宜組(三菱ランサーエボリューションX)が序盤をリードするものの、中盤はシリーズランキング3位の柳澤宏至/中原祥雅組(スバル・インプレッサ)が奴田原を逆転。さらに終盤はシリーズランキング2位の勝田範彦/足立さやか組(スバル・インプレッサ)がトップに浮上するというめまぐるしい展開となった。
勝田が奴田原に対し5.0秒のリードで迎えた2日目、今度は奴田原が逆襲を開始し、再びトップを奪い返す。2日目のオープニングとなるSS11でベストタイムをマークした奴田原は、その後もSS16まで6本連続のベストタイムを連発し、勝田との差を15.8秒まで広げる。
一方、勝田もSS17でベストタイムを奪い奴田原との差を11.8秒に縮めるが、SS17の再走となる最終SSは2.54kmと距離が短いギャラリーステージのため、反撃もここまでかと思われた。だが、その最終SSのスタート直後、奴田原をまさかのタイヤバーストが襲い、勝田に12.8秒遅れでフィニッシュ。トータルでは1.0秒という僅差で勝田が奴田原を逆転し、今季3勝目を飾った。
勝利を確信した奴田原を襲った悪夢
「セレモニアルフィニッシュの表彰台に上がるまで、逆転優勝したことが信じられませんでした」と、劇的な優勝を果たした勝田。一方の奴田原は、まさかの展開にゴール後のサービスでマシンのなかでうなだれ、ショックを隠しきれない様子だった。実は、このラリーで奴田原が優勝すれば、4年ぶりのシリーズチャンピオンが決定する1戦でもあった。シリーズは、勝田が得意とするターマックラリー2戦を残すのみ。勝利を確信したはずの最終SSで奴田原を襲ったまさかのアクシデントは、あまりにも大きな代償となった。優勝した勝田は、「最後まであきらめないと思う気持ちが結果に繋がったと思います。残る2戦も優勝しなければシリーズを逆転することはできませんが、もちろん最後まであきらめずに戦います」と、全日本ラリー4連覇に意欲を燃やした。
関根正人が5年ぶりに全日本ラリー優勝
JN3クラスは、鎌田卓麻/市野諮組(スバルBRZ)が初日の中盤までリードするものの、SS8で関根正人/石田裕一組(三菱ミラージュ)が鎌田を一気に逆転し、トップを奪う。その後、鎌田はステアリング系トラブルに見舞われリタイアしたため、トップの関根が2番手の香川秀樹/浦雅史組に22.1秒の差をつけ、初日を折り返した。2日目に入っても関根の勢いは衰えず、トップの座をしっかりと守り切ってフィニッシュ。自身にとっては2008年以来5年ぶりとなる全日本優勝を果たした。2位には、2日目にペースを上げてきた横尾芳則/船木一祥組(トヨタ86)が香川を捉えて入賞。トヨタ86としては全日本ラリー初となるシリーズチャンピオンに王手をかけた。
川名賢がJN2クラスチャンピオンを獲得
第6戦の京丹後ラリーを制し、4年連続のチャンピオン獲得に望みを繋いだ天野智之/井上裕紀子組(トヨタ・ヴィッツG's RS)と、結果次第ではこのラリーでチャンピオンが決まる川名賢/安東貞敏組(トヨタ・ヴィッツRS)との一騎打ちとなったJN2クラスは、川名が序盤から快調にベストタイムをマークし、総合でも7番手という速さで初日を折り返した。2日目は、2位につける天野のペースが一気に上がり、一時は56.2秒あったタイム差を34.2秒差まで詰めるが、反撃もここまで。29歳の川名が初日からトップの座を一度も譲ることなく逃げ切り、今季3勝目を挙げるとともに、自身初となるチャンピオンを優勝で決めた。20代でのチャンピオン獲得は、2011年にJN3クラスチャンピオンを獲得し、今年はAPRCマレーシアで総合優勝を獲得した牟田周平以来となる。
中西昌人が3年ぶりに優勝
かつて、全日本ラリーを席巻した大庭誠介/廣瀬香織組(ダイハツ・ストーリア)が出場したJN1クラスは、その大庭がブランクを感じさせない走りで次々とベストタイムをたたき出し初日のトップに浮上するが、SS5でエンジントラブルに見舞われリタイアという波乱の展開となった。その後は第6戦から古巣のJN1クラスに戻ってきた中西昌人/北川紗衣組(スズキ・スイフト)と鷲尾俊一/内田園美組(ダイハツ・ストーリアX4)が一進一退の攻防を見せる展開となったが、サスペンショントラブルに見舞われた鷲尾が一気にペースダウン。「マシンがゴールまで壊れないように、攻めるところと抑えるところをしっかりと分けて走った」という中西が鷲尾との差を広げ、3年ぶりとなる優勝を果たした。
第6戦までに3勝を挙げ、JN3クラスのシリーズランキングトップに立っているGAZOO Racing ラック86が、シリーズのなかで最もタフでハードなRALLY HOKKAIDOでも健闘をみせた。
厳しかったラリーをドライバーの横尾芳則はこう振り返る。
「RALLY HOKKAIDOは、今まで一度も出場したことがなく、僕にとっては今年が初めての出場でした。SSの距離が長いだけではなく、スピード域も高いラリーなので、他の全日本ラリーと比べてマシンの負担が大きいと感じました。SSで6速ギアに入れたのも、初めての経験です。ちょっとしたギャップでも、スピードが高いと大ジャンプになってしまうこともある。そのため、初日はどのくらいのペースで走れば、マシンにかかる負担を軽減できるかということを探りながら走りました。それでも、アンダーガードのボルトが緩んで外れかけたり、マフラーリングが外れてマフラーが落ちかけたりと、他のラリーではあまり経験したことがないトラブルが出て、特に初日の序盤は苦戦しました」
特に今年は好天に恵まれたこともありドライ路面のステージが多かったが、ドライ路面はウェット路面よりもマシンにかかる負担は大きいのも確かだ。特に今年はミッションやデフなどの駆動系、あるいはサスペンション系トラブルでリタイアとなったマシンが多い年でもあった。
「特に難しかったのはブレーキでしたね。スピードが高いので当然ハードなブレーキが要求されますが、砂利が多い路面やワダチが深い路面では、ブレーキを強くかけることで路面がボディに干渉してしまうこともある。それを避けるためにソフトタッチのブレーキを心がけたのですが、コーナーによっては進入速度が高すぎる時があるのも確かです。そういった場面では、トヨタ86の持つコントロール性の高さや回頭性の高さが武器になりましたね。高速コーナーでタイムを稼いで、一気にブレーキをかける低速コーナーは、いつもより長めのブレーキでスピードをしっかりと抑えて走る。2日目はうまくリズムを掴めたと思います」と横尾。2日目に順位を上げて2位に入賞し、貴重なシリーズポイントを計上。シリーズチャンピオンに王手をかけた。
第8戦は、横尾が最も得意とするターマックラリーだ。「チャンピオン獲得はあまり意識せず、トヨタ86の良さを活かす走りができれば、結果は自ずとついてくると思います」と語る横尾。全日本ラリーでは初となるシリーズチャンピオンに期待したい。
※クラス区分の説明については、こちらを参照
クラス | 順位 | ドライバー/コ・ドライバー | 車名 |
---|---|---|---|
JN4 | 1 | 勝田 範彦/足立 さやか | スバル・インプレッサ |
2 | 奴田原 文雄/佐藤 忠宜 | 三菱ランサーエボリューションX | |
3 | 柳澤 宏至/中原 祥雅 | スバル・インプレッサ | |
JN3 | 1 | 関根 正人/石田 裕一 | 三菱ミラージュ |
2 | 横尾 芳則/船木 一祥 | トヨタ86 | |
3 | 香川 秀樹/浦 雅史 | ホンダ・インテグラ | |
JN2 | 1 | 川名 賢/小坂 典嵩 | トヨタ・ヴィッツRS |
2 | 天野 智之/井上 裕紀子 | トヨタ・ヴィッツRS G's | |
3 | 加藤 辰弥/松浦 俊朗 | マツダ・デミオ | |
JN1 | 1 | 中西 昌人/北川 紗衣 | スズキ・スイフト |
2 | 鷲尾 俊一/内田 園美 | ダイハツ・ストーリア X4 |