MOTEGI
GR86/BRZ Cup 2024 第7大会(第8戦)モビリティリゾートもてぎ
記録ずくめだったプロフェッショナルの王者と
最終戦までもつれ込んだクラブマンのチャンピオン争い
11月23日-24日にモビリティリゾートもてぎで開催された第7大会で、2024年に予定されていた「TOYOTA GAZOO Racing GR86/BRZ Cup」の全日程を終えた。
今季はプロフェッショナルシリーズのみ第3大会の富士スピードウェイで1大会2戦のダブルヘッダーを採用したため8戦に、クラブマンシリーズは7戦のシリーズによって競われた。
まずは、10月に鈴鹿サーキットで開催された第6大会までを振り返ってみると、プロフェッショナルは異例の展開となった。GR86/BRZ Cupに移行した2022年からシリーズチャンピオン争いは、両クラスともに最終戦までもつれ込んできた。ワンメイクの車両で競われる同レースで、尚且つドライバーやチームの実力が拮抗していることから、独壇場となることが少ないためだ。これは86/BRZ Raceの頃から同様で、最終戦を待たずにシリーズチャンピオンとなるドライバーは数少ない。
だが、今シーズンのプロフェッショナルは♯10菅波冬悟選手の一強となった。開幕戦の決勝レースは、2023年のシリーズチャンピオンとなる♯1井口卓人選手にファイナルラップの最終コーナーでかわされ、わずか0.05秒差で2位。だが、第2戦、第3戦で連勝すると、ダブルヘッダーの第4戦は唯一のポイント圏外となるが、第5戦から第7戦まで3連勝を飾り、最終戦を待たずに鈴鹿サーキットでシリーズチャンピオンを決めた。まさにライバルを圧倒したシーズンで、これほどまで一方的な展開で王者となったドライバーは過去にいなかった。
チャンピオンシップは決定したものの、最終戦はシリーズランキング2位以降の争いや菅波選手が年間最多勝利を更新するかに注目が集まった。モビリティリゾートもてぎ大会は、11月末の開催ということで朝晩は10℃を切る気温となり、タイヤのグリップ性能をどのように引き出すかがキーポイントとなった。多くのチームが11月20日(水)、21日(木)から練習走行を始めると、22日(金)には公式スケジュールの専有走行を実施。濃霧の影響で1時間のディレイとなったが、路面は乾いていて最終戦に相応しいコンディションとなる。前日が雨がらみの練習走行となったため、多くの選手が予選を想定して2セット以上のニュータイヤを履き、適切なウォームアップ方法を探った。手探りの中でも強さを見せたのはやはり菅波選手で、2分11秒610でトップタイムをマーク。翌日の予選は快晴のもとで行なわれ、気温が16℃とレースウィークの中では高かった。そのため、ほとんどのドライバーがウォームアップラップを挟まず、ピットから出ると計測1周目にアタックを決行。絶対王者の菅波選手はここでもミスなく1周をまとめるとコースレコードを更新する2分11秒235をマークし、4戦連続でポールポジションを獲得した。2位には♯504冨林勇佑選手、3位には♯31青木孝行選手とダンロップタイヤを履くマシンが上位5位までを独占することとなった。
2024年シーズンを締めくくるプロフェッショナルの決勝レースは、24日(日)の9時30分にスタートを切った。好スタートを決めた菅波選手は、オープニングラップに2番手の冨林選手と0.3秒の差をつける。2周目にはファステストラップに迫るタイムをマークするが、冨林選手もくらいつく。3番手の青木選手はペースが上がらず、トップの争いは菅波選手と冨林選手に絞られる。菅波選手はレースが折り返しとなる5周を過ぎるとペースアップを果たし、徐々に冨林選手とのギャップを築いていく。最終的には1.4秒の差をつけて、第5戦の十勝スピードウェイから4連勝をポールトゥウィンで飾った。そして、この勝利が年間6勝目となり、86/BRZ Raceを含めて年間最多勝利数を見事に更新。2位にはフロントローの冨林選手、3位には青木選手が入った。
この結果により、2024年のシリーズチャンピオンは143ポイントで菅波選手、2位は61ポイントで井口選手、最終戦で15ポイントを獲得した冨林選手が逆転で3位に入った。
クラブマンシリーズは決勝レースで
思いもよらない決着となる
一方の最終戦でシリーズチャンピオンが決まることになったクラブマンシリーズは、第6戦の鈴鹿サーキットを終えた時点で♯41岸本尚将選手が76ポイントでトップに立ち、♯380菱井将文選手が74ポイント、♯557大西隆生選手が60ポイントで追う展開。2024年のクラブマンシリーズを制するのは、この3選手に絞られていた。
今戦もクラブマンシリーズは60台がエントリーしたため、2組に振り分けられ専有走行と予選が行なわれた。22日(金)の専有走行はA組トップが♯6咲川めり選手で2分16秒947,B組のトップは♯552大森和也選手で2分17秒245。チャンピオン争う岸本選手はA組6位と出遅れたが、菱井選手と大西選手はA組2位とB組2位で予選に向けて順調な仕上がりを見せていた。
専有走行から一夜明けた23日(土)の予選もA組からアタックが始まった。クラブマンのタイヤはプロフェッショナルほどシビアではないが、基本的にピークグリップを発揮するのは1周のみ。どのタイミングでアタックするかや、ウォームアップの方法などがドライバーの判断によって分れた。A組でトップになったのは♯707箕輪卓也選手で、タイムはコースレコードを更新する2分16秒592。注目の岸本選手は2分16秒884でA組3位、菱井選手はA組5位となった。B組の大西選手はアタックがまとまらずB組11位となり、この時点でシリーズチャンピオン争いから離脱となった。そのB組は専有でもトップタイムをマークしていた大森選手が、2分16秒607で1位。A、B組のタイムを比較し、箕輪選手がポールポジションを獲得することとなった。
決勝レースは、24日(日)の8時からスタート進行が始まる。フルグリッドとなる45台は10周先のチェッカーを目指し、8時35分に決勝レースの幕が切られた。ポールポジションに並んだのは開幕戦以来となる箕輪選手で、シリーズチャンピオンを争う岸本選手は5番、菱井選手は9番グリッドからのスタートとなった。オープニングラップから驚異的の追い上げを見せたのは菱井選手で、9番手から5番手までジャンプアップし、岸本選手の背後に迫った。トップ争いは箕輪選手がフロントローの大森選手を押さえて1周目を終了。2周目に入ると菱井選手がファステストラップをマークし、4番手を走る岸本選手とのギャップを0.5秒まで縮めた。先着した選手がシリーズチャンピオンになる手に汗握るバトルは4周目まで続いたが、5周目の1コーナーで菱井選手のマシンにトラブルが発生。1コーナーへのブレーキング時にマシンのコントロールを失い、スピン状態のままコースを横切った。スピン状態の菱井選手のマシンに3番手を走行していた♯30北見洸太選手のマシンが巻き込まれ、2台はサンドトラップでストップ。4番手を走行していた岸本選手も巻き込まれる可能性があったが、危機一髪でクラッシュを避けた。この接触によって、3番手を走っていた北見選手と菱井選手が戦線を離脱し、この時点で岸本選手のシリーズチャンピオンが決定した。レースは複数台がクラッシュする荒れた展開となったが、ポールポジションからスタートした箕輪選手はポジションを下げることなく、10周目にトップでチェッカーを受けて初優勝を達成。2位には大森選手、3位にはシリーズチャンピオンとなった岸本選手が入り、若手の3名が最終戦の表彰台に登った。
この結果によってシリーズランキングは、88ポイントで岸本選手が王者となり、2位には75ポイントで菱井選手、3位は62ポイントで大森選手というトップ3となった。
このように、プロフェッショナルシリーズは菅波選手がライバルを圧倒して2021年以来の2度目のシリーズチャンピオン。クラブマンシリーズは劇的な決勝レースとなったが、岸本選手が見事に初のシリーズチャンピオンに輝いた。
●以下コメント
<プロフェッショナルシリーズ>
♯10菅波冬悟選手
OTG 滋賀トヨタ GR86
OTG MOTOR SPORTS
「最終戦はシリーズチャンピオンが決まった状況で迎えたのですが、チームは勝つ気満々だったので連勝記録を伸ばそうと思って挑みました。レースウィークは水曜日から走ったのですがパーツテストを行なったり、木曜日がウエットコンディションとなったことで、専有走行がほぼ初のドライ走行でした。多少の不安があったのですが、マシンの方向性がしっかりしているので、いつも通りのパフォーマンスを発揮できました。改めてシーズンを通してセットアップが決まっていたことを実感しました。予選はコーナリングがあまり気味だったのですが、タイムは出ていてポールポジションを獲得できました。決勝レースはライバル勢が同じダンロップを履くマシンだったので、スタートさえ決まれば勝てると思っていました。冨林選手のマシンとは得意なコーナーが異なりましたが、あせることなく最後まで攻め切れました。今シーズンは、誰もミスすることなく、パッケージも完璧で年間を通して好調さを維持できました。一昨年、昨年とチャンピオンが獲れずに悔しい思いをし、チームと速く走るためには何をするべきか突き詰めてきた結果が実りました。また、開幕戦で負けたことで僕とチームの気持ちに火がつきました。絶対に勝ちたいという気持ちが連勝に繋がり、また運も味方してくれました。8戦中6勝という記録は、チームの努力やダンロップタイヤの性能がなければ成し遂げられなかったことだと思っています」
<クラブマンシリーズ>
♯41岸本尚将選手
Racing TEAM HERO’S WORK GR86
TEAM HERO’S
「最終戦は木曜日から走り始めたのですがずっとウエットコンディションで、専有走行が初めてのドライ路面となりました。事前練習ができなかったので、ライバル勢に1秒の差を付けられていて焦りはありました。ただ、岡山と鈴鹿で連勝できたので、普段の走りができれば上位に入れるという自信はありました。予選はまとまったのですが、5位でした。ただチャンピオン争いをしていた菱井選手と大西選手がさらに後方だったので、決勝レースは勝ちにいくよりも、最優先はチャンピオンを獲ることと考えました。菱井選手とは5ポジションの差があったので、すぐに追いつかれることはないと思っていました。しかし、1周目を終えると真後ろにいて驚きました。序盤は付かず離れずの展開で、どこかで仕掛けてくると後方を見ていました。結果的には菱井選手のマシントラブルによって5周目の1コーナーでスピンして飛んできたのですが、冷静に乗れていたので避けることができました。望んでいた決着ではありませんでしたが、シリーズチャンピオンが獲れて本当に嬉しいです。今季は初めて箱車(ツーリングカー)のレースに参戦したのですが、開幕戦と2戦目では運良く表彰台に登れました。その後はチャンピオン争いのプレッシャーもあり、ポイントが稼げず苦戦しました。そのため、第5戦の岡山国際サーキット戦の前にチームのバックアップもあり、シミュレーターを通して乗り方を徹底的に考えました。メンタル面でも足りないところがあったので考え直したところ、第5戦、第6戦で連勝ができチャンピオンに繋がったと思います。来シーズンのことは決まっていませんが、プロフェッショナルシリーズへのステップアップやスーパー耐久などで戦えればと考えています」