ラグジュアリーブランドであるレクサスが、頂点のモータースポーツとしてSUPER GTのGT500クラスに挑むのは多くの皆さんが想定できること。
一方で、カスタマーのためのレーシングカーであるFIA GT3車両を出す理由はどこにあるのでしょうか?
また、その開発プロジェクトはどう進められたのでしょうか?
苦しんだ2015年モデルと飛躍の今季モデルの違いなど、まずはRC F GT3プロジェクトの核心部分に迫ります。
―― 現在のモータースポーツでは、GTレース、特にFIA GT3車両によるレースが世界的に盛り上がっています。また、自動車メーカー側も積極的に個性あるFIA GT3車両を供給していますね。その中で、ラグジュアリーブランドであるレクサスが、FIA GT3車両をなぜつくることにしたのでしょうか?
高橋敬三(以下、高橋) まずレクサスにとって、走りのイメージをより強化する上で、モータースポーツ活動は必要なものだと考えています。ただ「RC F」が誕生する以前は、モータースポーツに適したハイパフォーマンスな2ドアクーペモデルがないという状況だったのも事実です。
―― そのRC F誕生に合わせ、2014年にはSUPER GTのGT500クラス参戦車両をRC Fに変更しました。その段階からFIA GT3車両の構想もあったのでしょうか?
高橋 当時、すでに世界中のラグジュアリーブランドの多くがFIA GT3車両を供給していました。レクサスとしても、世界中のレースにお客様ご自身が参戦できるFIA GT3車両は以前から魅力を感じていました。ですから、RC Fというハイパフォーマンスクーペを生み出すという市販車のプロジェクトがスタートした時点で、 RC F GT3プロジェクトも始めました。
レクサスというブランドをよりエモーショナルなものに変えていくためには、モータースポーツは最適な舞台の一つであり、グローバル視点でモータースポーツを見渡したとき、世界中で活躍できるFIA GT3カテゴリーに対応することは欠かせないという認識です。
―― そうすると、かなり前からRC F GT3のプロジェクトはスタートしていたということなのですね。ずっと開発ドライバーを務められている飯田さんは、その頃から関わっているのでしょうか?
飯田章(以下、飯田) ええ、市販車のRC F開発と並行してRC F GT3プロジェクトを始めました。とは言え、市販車をベースとするレーシングカーを開発するというのは独特の難しさがあることを痛感しました。なにより、最初のRC F GT3開発でのターゲット、ライバルは2011~12年のFIA GT3車両だったんです......。
高橋 実際にRC F GT3がGT300クラスに参戦したのは2015年ですが、その1、2年の間に我々の予想以上に性能レベルが上がってしまいました。残念ながら、2015年モデルのRC F GT3は、その時点のFIA GT3車両に求められるパフォーマンスに達していなかったのです。
飯田 FIA GT3には、FIAが定めるパフォーマンスウィンドーという性能規定があり、エンジン性能、車両重量、空力性能がある範囲の中に入っていなければいけません。その規定が2015年には、とてつもなく上がってしまったことで、開発時点でのターゲットではパフォーマンスが足りなくなったのです。
高橋 そこで、2017年モデルのRC F GT3開発は、新たな性能目標をクリアするために、大幅にコンセプトを見直すことが求められました。そういう状況の中でTRDの湯浅さんをリーダーとするチームが開発をスタートしたのです。
湯浅和基(以下、湯浅) 2017年モデルの開発は2015年からスタートしました。改良ではなく、ゼロベースでレーシングカーを作ること、しかも市販車をベースとすることを考えると、圧倒的に短時間で開発を終える必要がありました。そこで開発体制を強化するとともに、2017年モデルの開発ドライバーには、新たに立川選手に加わっていただきました。飯田選手、立川選手とも我々といっしょに長くレーシングカーの開発をしてきており、信頼関係の最も厚いドライバーです。限られた時間の中で評価の精度とスピードを上げ、最大限の結果を出さねばならないため、おふたりの力が必要だったのです。
―― 2人のドライバーで役割分担のようなものはあったのでしょうか?
飯田 明確な分担というのはありませんが、僕は市販車開発にも関わっていますし、RC F GT3がカスタマーモータースポーツとして市販レーシングカーというカテゴリーである限りは、アマチュアレーサーも乗るクルマになります。そうした部分を意識しています。一方で、立川選手は現役のGT500ドライバーですからパフォーマンス向上の面での貢献を期待されているのだろうと捉えています。
立川祐路(以下、立川) とにかく性能を上げることが大命題というのは認識していますが、だからといってプロのレーシングドライバーだけが乗りこなせるような速いけどピーキーな車ではダメなことも十分に承知しています。開発では、扱いやすくかつ速いということを意識しました。
飯田 扱いやすさというのは、インフォメーションの豊富さやコントロールのしやすさとも言えます。さらにアマチュアドライバーが乗りやすいように視認性にも考慮して開発しているのもポイントです。
―― そうして2017年モデルのRC F GT3はライバルに対して十分なパフォーマンスを持つ車両に仕上がったというわけですが、市販モデルのRC Fとはどのくらい違うのでしょうか?
立川 大排気量V8エンジンは、下からトルクフルで、しかもフラットなフィーリングで乗りやすく仕上がっています。このあたりは、市販車のRC Fに通じるものがあるのではないでしょうか。
飯田 たしかにマフラーサウンドは市販車のV8サウンドに通じるものがあって、どちらもRC Fに「乗っているんだなあ」と感じられる部分です。レクサスが目指すクルマづくりの延長に、RC F GT3も存在していると実感できますね。
湯浅 実際、エンジンパーツでいえば、シリンダブロックをはじめかなりの部分で市販車と同じものを使っています。ただし、エンジン性能を大幅に向上させなければいけないので、吸気系については8連スロットルにするなどの変更を実施しています。
飯田 RC F GT3はレーシングカーですが、市販車と別ものというわけではありません。RC Fでサーキット走行を楽しまれている方が乗ったときにも納得いただけるような、延長線上にある走りに仕上がっています。
―― RC F GT3の最低重量は1300㎏と聞いています。市販のRC Fから約500㎏の軽量化になるわけですが、どのような手法をとられたのでしょうか?
湯浅 通常レーシングカーを開発するのと同様に、レースでは不要となる快適装備、エアバッグ、リアシートなどのパーツを取り外すところから始めました。その上でボデー部品をカーボン製に置き換えていくなどして、400㎏くらいの軽量化は順調に進みました。しかし、残りの100㎏を軽くするのは本当に苦労しました。とにかく構造をシンプルにするという思想で見直しを進め、リアサスペンションの形式なども変えています。
高橋 できる限り市販のRC Fのイメージを残したいという気持ちと、勝てるレーシングカーに仕上げたいという判断の狭間で葛藤はありましたね。でも、まずは勝負権を得ることを優先したというわけです。 しかし、レーシングカーと言えどもレクサスが提案するクルマとして譲れない部分もありました。その一例が「スピンドルグリル」です。ここはブランドの象徴ですから、レーシングカーでも変えるわけにはいきません。
―― FIA GT3車両は、世界中のレースで使われますね。ならば様々な地域で使われることを想定しなければなりません。当然、レクサスというブランドが持つ信頼性をレーシングカーにも期待されることは想定していますでしょうか?
飯田 レクサスのレーシングカーですから、信頼性のあるタフなクルマであることは大切です。そうした部分は開発時にも大いに意識しています。
湯浅 通常のレーシングカーではプロドライバーが乗ることを前提としていますからコースアウトのことはあまり考慮しません。ですが、FIA GT3車両の場合はアマチュアドライバーも乗るため、コースアウト時のダメージも考慮し、その度に大きく壊れてしまわないように足回りなどの部品強度を高めています。RC F GT3はレクサスのFIA GT3だからと言ってもらえる信頼性を考慮した設計をしています。
立川 FIA GT3車両のようなカスタマーレーシングカーは、速いクルマを作るというだけではダメで、強いクルマにする必要があります。それには、ベース車両のポテンシャルが重要なんです。
飯田 RC F GT3の開発をしっかりとやっていくことは、レクサスが掲げる「いいクルマづくり」にもつながると実感しています。また、続けることも重要です。次のGT3モデルチェンジは規定もあって2020年となりますが、その開発もすでに進めています。
高橋 そうして、レクサスとしてRC F GT3の開発を継続していくことは、市販車のパフォーマンスアップにもつながります。我々の活動を応援していただければ嬉しく思います。 幸い、5月のSUPER GT第2戦富士ではGT300クラスで優勝することができました。これからもRC F GT3の活躍、そして市販車のレベルアップにご期待ください。
2017年シーズン、LEXUS RC F GT3は日本のSUPER GTのGT300クラスに2台、アメリカのIMSAシリーズのGTDクラスに2台が参戦している。そこで、それぞれのシリーズで活躍する有力ドライバー2人からコメントをいただきました。 今回は、アメリカのIMSAシリーズで戦う3GT Racingの14号車、スコット・プルーエット選手です。今季ここまで(6月末で6戦を終了)で、コンスタントにトップ10に食い込み、第6戦では僚友の15号車がファステストラップを記録して、今季のチーム最高位の5位となり、プルーエット選手の14号車も6位に入っています。
―― 初めてLEXUS RC F GT3(今季車両)をドライブした時の感想を教えてください。
スコット・プルーエット(以下、プルーエット) 興奮が抑えられませんでした! 富士スピードウェイで新しいRC F GT3を走行させた時はとても興奮しましたし、このクルマで米国のレースを戦うというレクサスの歴史に名を刻めることにも期待が膨らみましたね。
―― RC F GT3のレースでの長所はどこでしょうか?
プルーエット 高速コーナーでの速さですね。ほとんどのサーキットの高速コーナーで、RC F GT3はかなり速いほうに入っていると思いますよ。
―― 今季何戦かレースを戦ったと思いますが、手応えはいかがでしょうか?
プルーエット まだまだ学んでいる最中です。このIMSAシリーズでは、歴史あるトップチームがいて、彼らの戦いに割って入っているわけです。その中で、我々はまだ新参者ですからね。本当にたくさん学ぶことがありますね。
―― RC F GT3の手応えはいかがでしょうか?
プルーエット RC F GT3の進化はまだ途中で、それが進むと共に、自信も深まってきています。これからのレースがとても楽しみですね。
―― 今シーズンの意気込みを聞かせてください!
プルーエット このRC F GT3で優勝しますよ!