ほぼゼロからの再開発となったLEXUS RC F GT3の2017年モデル。
"戦える"レーシングカーを開発するだけでなく、カスタマーレーシングカーであるFIA GT3車両として、世界中のサーキットで活躍するために、多くの工夫が盛り込まれているようです。
そして、レクサスのFIA GT3プロジェクトは、今後どう進んでいくのか?
LEXUS RC F GT3開発のキーマン4人に、引き続き語っていただきます。
―― 勝てるクルマとして2017年モデルのLEXUS RC F GT3を開発していくためのキーワードは「シンプル」と伺いました。2015年モデルに対して、さらなる軽量化も必要だったということですが、具体的にはどのような手法をとったのでしょうか?
湯浅和基(以下、湯浅) 基本的には市販車のモノコックボデーを使うレーシングカーですから、ボデーで重量を削るのは難しいのですが、サスペンションの設計変更などを伴った強度計算をすることで不要な部分を見つけ、そこをカットしていくという地道な作業になります。
飯田章(以下、飯田) 軽量化はてきめんに効果があります。2017年モデルの開発で、最初に乗ったときから軽くなったことは実感できました。それ以上にボデーのしっかり感が増していることに驚かされたのを覚えています。
―― 開発においては他のFIA GT3車両のすべてがライバルとなると思いますが、開発時に特に気にしたメーカーはありますでしょうか?
飯田 たとえばランボルギーニやフェラーリといったスーパーカーは、そもそもの車高が低くて「ベース車両として有利だろうなぁ」と思うことはあります。しかし、ないものねだりをしても仕方がありません。RC F GT3にしてもエンジンをドライサンプ化して、低く積むなど重心を下げています。
立川祐路(以下、立川) すべてのFIA GT3車両がライバルですね。FIA GT3車両はSUPER GT(のGT300クラス)でも走っていますし。それに国内のサーキットでテストするときは、いずれのコースでもGT300のコースレコードが、結構他のFIA GT3車両の記録も多いので、まずそれがターゲットになりますから。
飯田 "速さ"と言っても、FIA GT3車両では瞬間的な速さだけを求めていくクルマではありません。速くてタフなことが、FIA GT3車両の世界基準です。そのためには「シンプル」であることは重要です。 レースなどでライバルとなるFIA GT3車両を見る機会もありますが、メンテナンスやセッティング変更の容易さも含めて「シンプル」な構造であることの重要性はしみじみ感じます。開発では、そうした視点からも意見を伝えています。
―― グローバル展開も期待されるLEXUS RC F GT3ですが、そのことも意識して開発しているのでしょうか?
湯浅 最終的には世界中にデリバリーすることを考えているわけで、幅広い環境にアジャストできる車両でなければなりません。そのために開発段階で各国からタイヤを取り寄せて、テストをしています。特定のタイヤでしかパフォーマンスを出せないということはありません。また、国内のサーキットは比較的路面が整っていますが、海外ではギャップが多かったりすることもありますから、そうした路面の違いを考慮した作り込みが必要になります。さらにアメリカのIMSAシリーズではバンクのあるオーバルコースを走ることもあります。この種のコースは、車両への入力がまったく異なる次元になります。そうした点も当初から意識していますね。
飯田 RC F GT3では、環境や条件にかかわらず安定して高いレベルのパフォーマンスを発揮できることは開発の重要なテーマとなります。 当然、ドライバーのレベルという面でも"様々"ということが大前提です。つまり、誰が乗っても速く走れるクルマを目指しています。
立川 ある程度のロングディスタンスのレースにおいて"勝てるクルマ"というのは、基本的に"乗りやすいクルマ"であると考えています。扱いやすさは、結果的に"安定した速さ"につながるからです。そこで重要なのはレーシングカーとしてのベースの性能です。そのために、開発段階ではすべての電子制御をオフにして走らせることもありました。素の状態でしっかりと走れるように仕上げておくこと、それが今年のRC F GT3のパフォーマンスにつながっています。
―― ベースの性能という話になると、市販モデルのRC Fのポテンシャルという面でも気になります。やはり影響は大きいのでしょうか?
飯田 もちろんです。FIA GT3車両のメーカーの中には、レーシングカーを作る前提で市販車を作っているようなところもありますね。ですが、レクサスは乗用車が基本で、そこからスポーツカーを作り、それをレーシングカーに仕立てています。そこだけ考えれば、けっして有利な状況とはいえません。しかし、レーシングカーを開発することで得られた知見が市販車にフィードバックされることで、すべてのクルマの基本性能も上がっていくと期待しています。
立川 FIA GT3のようなレギュレーションでは、やはりベースとなる市販車の性能というのは重要なファクターになってくるのは当然ですね。
―― その意味では、レースで勝ったということは、ベースとなった市販車のポテンシャルが高いことを示すということで、FIA GT3カテゴリーが世界中で盛り上がっているのも納得です。5月のSUPER GT第2戦富士では、早くも2017年モデルのNo.51 JMS P.MU LMcorsa RC F GT3が優勝しましたが、開発ドライバーのおふたりはどのように感じたでしょうか?
立川 自分たちが作り上げてきたクルマが勝つのは、それは嬉しかったですよ(笑)。このレースでは自分も(GT500クラスで)勝つことができましたし、レクサスのアベック優勝ですからね。ただ、レース中は自分の、GT500クラスでの戦いに集中していたので。アベック優勝だと気付いたのはゴールしてからなんです。僕らのLC500を表彰台の下に止めた時、横に(GT300優勝の)RC F GT3が来たのでアベック優勝したことに気付いたのです。
飯田 僕は、自分のクルマ(No.60 SYNTIUM LMcorsa RC F GT3)で勝てなかったので、嬉しさ半分、くやしさ半分といったところです(苦笑)。これもレースなので仕方がありませんが、次は自分たちが勝ちたいと強く思っています。
―― さて、LEXUS RC F GT3を世界中のアマチュアドライバーが使うことを考えると、どのようなクルマづくりを意識していますか? また、BoPによって性能差をなくすというレギュレーションの中で、ライバルと差別化するためのポイントはどこになりますか?
湯浅 差別化のために重要なのは空力性能です。FIA GT3車両は直線における空力性能が規定されています。そこで、我々は、この規定を満足しつつ、ブレーキングやコーナリングで車両姿勢が変化しても空力性能がおだやかに変化するような工夫を取り入れました。その結果、すごく運転しやすい車に仕上がっていると思います。
飯田 「走る、曲がる、止まる」というクルマの基本性能を高めることがもっとも重要なミッションになりますね。そして運転しやすいと感じていただくことです。FIA GT3車両を購入されるドライバーは、(資金に余裕があるだけに)「このクルマはダメだ」と思われたら、すぐに乗り換えてしまいます。ある意味で、目の肥えた、そしてシビアなお客様に満足していただくクルマを作り上げなければと思っています。
高橋敬三(以下、高橋) FIA GT3車両という市販レーシングカーでは、車両だけでなくパーツも含めたデリバリー、サポート体制の確立も重要だということは十分に認識しています。クルマをつくるだけでは道半ばで、お客様に楽しんで、思う存分に競技をいただくためには、体制面での整備も大事なことですね。レクサスというブランドへの信頼性を満たすようなカスタマーサービスを充実させていくべく、整備を進めていく準備をしているところです。
―― そうした部分も含めて、2020年に予定される次期モデルは、さらに期待ができるということですね。
湯浅 現在、日米欧でレースに使われているRC F GT3ですが、日本での開発に加えて、欧米からのフィードバックもあって、出てくる課題をクリアしながら、2020年モデルのリリースに向けて、着実に進化させています。
高橋 今年ここまで(6月末時点)で、日欧からは良い報告が来ました。あと、北米からも朗報が届くと嬉しいですね。こうしてRC F GT3のパフォーマンスが実戦で確認できれば、次はカスタマーへのデリバリーとなります。先ほど申し上げたようにサポート体制も含めて、早く準備が整うように努力してまいります。世界中の方にRC F GT3をお使いいただき、モータースポーツをお楽しみいただきたいと考えています。
2017年シーズン、LEXUS RC F GT3は日本のSUPER GTのGT300クラスに2台、アメリカのIMSAシリーズのGTDクラスに2台が参戦している。そこで、それぞれのシリーズで活躍する有力ドライバー2人からコメントをいただきました。 今回は、SUPER GTのGT300クラスに参戦するLMcorsaの51号車、中山雄一選手です。第2戦富士では見事にRC F GT3にシリーズ初優勝をもたらし、第3戦終了時点でドライバーズランキング2位につける活躍を見せています。
―― 初めてLEXUS RC F GT3(今季車両)をドライブした時の感想を教えてください。
中山雄一(以下、中山) 今年1月末に富士スピードウェイで初めてRC F GT3をドライブしました。最初に感じたのは、ドライビングポジション、視界、ハンドルを切った量に対するタイヤの動き、ブレーキのタッチ、アクセルペダルの重さ、メーターの配置、すべてにおいて違和感がなかったことです。通常、新しいクルマを走らせると、良い感触も感じる反面、なにかしらの違和感を覚えますが、RC F GT3には不思議とそれがありませんでした。 またRC F GT3は剛性感も高く、ハイスピードからのブレーキング、高速コーナーでのコーナリングに安心感がありました。エンジンパワーも野太いトルクを感じ、アクセルを踏むだけでタイムを稼ぐことができる感触がありました。
―― RC F GT3のレースでの長所はどこでしょうか?
中山 RC F GT3はブレーキング、コーナリング、ストレートスピードの全域においてパフォーマンスが高く、オールラウンダーなクルマなんです。だから、どのサーキットでも良いタイムで走行できるのが長所ですね。 そしてレースでは、最後まで走りきることが非常に重要です。私たちのRC F GT3は今シーズン1回も車両トラブルが出ていません。練習中も含め、貴重な走行時間を無駄にしていないことで、セットアップを効率良く進めることができます。 また、クルマのバランスが良く、車の中の温度もそれほど高くならないので、体力の消耗が少ないところも耐久レースにおいては強みとなるでしょう。
―― 今季、ここまでの手応えはいかがでしょうか? 第2戦富士で優勝も達成しましたね。
中山 ここまで、どのサーキット、どのようなコンディションでも上位のタイムを記録できています。目標とする順位をいつも高く設定できることは、チームやドライバーにおいて大きな原動力になり、チーム全員のパフォーマンスアップにつながっています。
このように乗りやすくポテンシャルの高いRC F GT3ですが、それでもライバル車両に勝つのは簡単ではありません。まだTRDの皆さんやチームと相談し、さまざまなセットアップを試行錯誤している最中です。それでも第2戦富士大会の前のオートポリスでのタイヤメーカーテストで、セットアップの良い方向性を見つけることができました。それが富士スピードウェイでも相性が良く、優勝につなげることができました。
―― タイトルを目指して、これからシリーズ後半戦です。意気込みをお聞かせください。
中山 シーズン前半戦は、RC F GT3自体とサポートしてくれるTRDの皆さん、タイヤのブリヂストンさん、そしてチーム全員が素晴らしいマッチングをして、とても良い流れで終えることができました。ランキングでも上位につけ、チャンピオン争いにしっかりと加わっています。 ここからの夏の戦いも簡単なレースではないと思います。ドライバーとチーム全員がレベルアップできるように日々努力し、新型のRC F GT3がデビューイヤーでチャンピオンとなれるように、がんばっていきます。
LEXUS RC F GT3に懸ける開発チームの努力と、意気込みはいかがだったでしょうか? FIA GT3車両はこの1年、1シーズンで終わるものではありません。この後、LEXUS RC F GT3のアップデート、そして3年後のモデルチェンジを通じて、世界中のドライバー、チームに、レクサスブランドの信頼をお届けできるよう、開発チームはもちろん、皆が努力してまいります。今後も、ご声援をよろしくお願いします。